高橋淳(編著): ピアノ・レパートリー事典

作成日 : 2022-06-03
最終更新日 :

概要

「はじめに」から引用する:

本書は,クラシックのピアノ作品について,作曲者別に,①日本語での表題・作品番号 ②原題・作曲年代 ③難易度 ④出版社名(編集・校訂者名)・出版番号の 4 つのデータを示すことを目的としています.

難度

本書では主だったピアノ曲に難易度が付されている。もっとも、誰が言ったか忘れたが、 「難易度」というのはおかしい。「難度」というべきだろう。 「難易度が高い」というと、普通は難しいと考えるのだが、だったら「難度」でいいだろう。 体操の技などは「難度」と言っているではないか。本書では「難易度」を 【1】 から 【15】 まで分類し、 【1】 がもっとも易しい曲であり、【15】 がもっとも難しい曲である、としている。

私が気になるのは、どんな曲に最も高い難度【15】が付与されているかである。vi ページに「難易度基準表」 があるので、【14】と【15】を抜き出してみる。

【14】シューマン:クライスレリアーナ
ラヴェル:水の戯れ
【15】ベートーヴェン:ソナタ ヘ短調 Op.57
ブラームス:パガニーニの主題による変奏曲 Op.35

ではどんな曲に【14】と【15】が付与されているだろうか。以下抜粋する。

アイヴズ

ソナタ 第1番【13-15】
ソナタ 第2番【14】
3 ページのソナタ【13-15】

ソナタ第 2 番が【14】となっているのは不思議だ。他の 2 曲と同じように【13-15】でいいのではないか。 アイヴズの譜面はとにかく連符がとりにくい上、 同時に音を出すように指示されている音符が異様に多い。

アルベニス

組曲「イベリア」 第1~4集(全 12 曲)【12-14】
ナヴァラ【14】

イベリアの上限は【15】までいくのではないかと思う。なお、本書には「ラ・ベーガ」と「アスレーホス」の記載がない。 残念だ。

カサドシュ

ソナタ 第1番【9-14】
ソナタ 第2番【13-14】
ソナタ 第3番【9-12】
ソナタ 第4番【13】

私の印象では、ソナタ第3番も第4番も第1番や第2番と同様の難度だと思う。

カセッラ

トッカータ Op.6【14】
9つの小品 Op.24【14】
ソナチネ Op.28【14】

私はトッカータを練習したことがあるが、【14】まではない気がする。しかし、難しい。

クセナキス

ヘルマ【14】
エヴリアリ【14】
ミスツ【14】

私はエヴリアリの実演を目にしたことがある。【14】は嘘だろう。【15+】はあるのではないか。

ゴドフスキ

ゴドフスキ曲集 全5巻【9-12】

クセナキスの項に続き、信じられない難度づけである。この全5巻の中には、 あのショパンのエチュードによる練習曲( 53 曲)が入っている。このショパン=ゴドフスキの編曲が、 【12】以下の難度とは、冗談もいいところだ。

コープランド

幻想曲【14-15】

難度【14-15】の曲にしては、音数が少ないだろうが、やはりそれだけのことはある。 ちなみに私が弾いたことのあるコープランドのソナタは【13】であった。【13】だと、 ベートーヴェンの「月光」やラヴェルの「ソナチネ」と同レベルである。そうかなあ、 コープランドのソナタは難しいと思う。

ジェフスキ

「不屈の民」変奏曲【14】
ピアノのための 4 つの小品【14】
スクウェア,ノースアメリカン・バラード【14】

ノースアメリカン・バラードのうちの「ウィンスボロ綿工場のブルース」 の実演を聴いたことがある。私の印象ではやはり【15】相当だ。 なお、「スクウェア」と「ノースアメリカン・バラード」は別々の曲集である。

バッハ

ゴルトベルク変奏曲(アリアと種種の変奏)BWV 988【15】

バッハの曲で【15】というのはどうだろうか。メカニックな難しさは速い変奏で右手と左手が交差する個所にあるが、 狭義の(メカニック的な意味としての)テクニックは【15】未満だと思う。 この曲の長さと音楽の大きさを勘案した、 バッハへの敬意を表した難度であればわかる。

編曲

本書では編曲ものについてはほとんど扱われていない。ベートーヴェン=リストの交響曲もないし、 バッハ=ラフマニノフの無伴奏ヴァイオリンパルティータホ長調もないし、 バッハ=ブゾーニのシャコンヌもない。「はじめに」で、 また,オリジナルのピアノ曲ではなく,たとえば管弦楽曲からピアノに編曲された楽譜などもできるだけ加えました。 といっているが、これは元の作曲者の項目にある。たとえば、ベートーヴェンの交響曲全集はベートーヴェンの項目にあり、 独奏版は Singer 編、連弾版は Ulrich 編とあり、リスト編曲のものはベートーヴェンの項目にも、 そしてリストの項目にもない。

誤植

p.222 ヒナステーラの項で 12 のアメリカ前奏曲の各曲目が次のようになっている。

アクセント,悲しみ,クリオールの踊り,ヴィダーラ,最初の 5 音短旋法で, ロベルト・ガリシア・モリノ賛,オクターヴ・ホアン・ホセ・カスト賛, アーロン・コープランド賛,エイトール・ヴィラ=ロボス賛

これでは 9 曲しかない。実際にはどうか。
https://digitalcommons.lsu.edu/gradschool_dissertations/282
によれば次のとおりだ。原題と合わせてカッコ内に英訳を付す。

Acentos(Accents), Triste (Sadness), Danza Criolla (Creole Dance), Vidala, En el Primer modo pentáfono menor (In the first Pentatonic Minor Mode), Homenaje a Roberto Garcia Morillo (Tribute to Roberto Garcia Morillo), Octavas (Octaves), Homenaje a Juan Jose Castro (Tribute to Juan Jose Castro), Homenaje a Aaron Copland (Tribute to Aaron Copland), Pastoral (Pastorale), Homenaje a Hector Villa-Lobos (Tribute to Heitor Villa-Lobos), En el Primer modo pentáfono mayor (In the First Pentatonic Major Mode)

ということで本書の「オクターヴ」と「ホアン・ホセ・カスト」は・で区切るのではなく、 ,で区切るべきだった。また後半は(ホアン・ホセ・カストロ)である。それでも足りない2曲は、 「牧歌」と「最初の 5 音長旋法で」となる。

p.233 フォーレの項で春秋社版の楽譜集が解説されている。曲目については次のようになっている。

Ⅴ ) 連弾 : ドリー,バイロイトの想い出,マスクとベルガマスク
2 台ピアノ : 幻想曲

しかし、実際の第Ⅴ巻には連弾の曲目に「バイロイトの想い出」は入っていない。予告はされていたが、 実際の刊行では省かれたのだ。理由は不明だ。本書が春秋社版であることを考えると、これは情けない。

書誌情報

書名ピアノ・レパートリー事典
編著者高橋淳
発行日2006 年 3 月 1 日 増補改訂版第1刷発行
発行元春秋社
定価3300 円
サイズ504 ページ
ISBN4-393-93020-7
その他川口市立図書館にて借りて読む

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MARUYAMA Satosi