副題は次のとおりである。
「正しく考え、正しく分かること」の理論と実践
本書は、計3節からなる。第Ⅰ章 思考、第Ⅱ章 論理、第Ⅲ章 分析である。
今から書きつけることはただの言いがかりだ。
まず、索引がない。これは致命傷だ。本書は思考や論理を緻密に扱うことを目的としているのだろうから、索引は必須だと思う。
さて、思考をどのようなものかを明確化するために、具体例がいくつか出ている。その一つが「ヒグマ」である。ヒグマを例として思考のメカニズムについては、本書を参照されたい。
ところで、今年(2025)年、日本では、クマによる人畜への危害や農作物への被害が相次いだ。ここで注目すべきは、ニュースや新聞では単に「クマ」と紹介されたことだった。 これは、従来獰猛であるヒグマによる被害だけではなく、ヒグマより獰猛さが劣るとされていたツキノワグマによる被害も急増しているからだ。だから、 私の現在の思考では、対象は「ヒグマ」より、ヒグマとツキノワグマを合わせた「クマ」が妥当だろう。
本書では思考対象を正しく分けるためのポイントを三つ紹介している。その三つめが「MECE」だ。MECE は、Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive の略である。
数学を勉強した人ならば、「集合の分割」と呼ばれるものがまさにそれだ。本書では、MECE のわかりやすい例として、人間を対象とした「男性と女性に分ける分類」だ。
これはなるほどと思う。ところが、よく考えると本書 p.36 にある、
人間は男性か女性のどちらかであるから、男性と女性を合わせるとすべての人間をカバーすることになるし(モレがない)、
かつ男性でありながら女性である人間もいない(ダブリがない)。
と記述を無条件に信じられるかどうか、はなはだ心もとなくなってきたのだった。
p.125 では、演繹法について説明されている。
つまり、演繹法にいて真なる結論をもたらしてくれる命題構造を構成するために必要な適切な大前提は、その意味内容が普遍的妥当性を持つものでなければならないということになる。
この記述についてはごくまっとうだと思うが、pp.125-126 の次の記載はどうだろうか。
実際に演繹法による論理展開で、真なる結論を導き出すための大前提として適切な普遍性の高い命題としては、 「三角形の内角の和は百八十度である。」というような数学的/論理学的公理を筆頭に、 「F=ma:力は加速度と質量の積に比例する。」とか「哺乳類は胎生で肺呼吸である。」といった自然科学的法則が最も適切である。(後略)
私もうっかり信じそうになったが、これらの大前提の普遍性についていえば、まだ論ずべきことがある。まず、「三角形の内角の和は百八十度である。」はユークリッド幾何学においては真だが、 ボヤイ・ロバチェフスキーの双曲幾何などではこの命題は成り立たない。つまり、大前提そのものが普遍的でないことになる。 また、「F=ma:力は加速度と質量の積に比例する。」についても、相対性理論によれば、この大前提が成り立つのは物体の速度が光速に比べて十分に小さいときだけであり、 物体の速度が光速に十分近い場合は成り立たない。もちろん、相対性理論そのものの真実性も考えなければならない。相対性理論は物体の速度は光速を越えることはない、という大前提に基づいている。 だから物体の速度が光速を越えることがある、という事実が裏付けられたら相対性理論そのものが崩れるが、いまのところ光速度に近いところの運動で相対性理論を覆す理論はない。 ついでに、「哺乳類は胎生で肺呼吸である。」という大命題についても、カモノハシ目は卵生ではあるが哺乳類であるので、このままでは成り立たない。 ついでにいえば、哺乳類の鳥類、爬虫類、両生類も肺呼吸をしている。肺呼吸の他には鰓呼吸、皮膚呼吸があるが、動物におけるこれらの呼吸の区別は MECE ではない。
第Ⅲ章では分析の方法について解説されている。
p.181 では、デジタルカメラの画面では、百万以上もの画素で構成されていることが説明されている。このとき、データ羅列型に生じる問題を説明するために、 コラム(この場合は画素)に色情報指定をしている構成を次のように表現している。
C11=赤、C12=赤、C13=青、……、C1 999=黄、C1 1000=青、(後略)
1 と 999 の間の隙間は何か。1 と 1000 の隙間は何か、よくわからなかった。添字の代わりに、カッコとカンマを使うのはどうだろうか。こうすれば二次元の添字であることがわかりやすいと思う。
C(1,1)=赤、C(1,2)=赤、C(1,3)=青、……、C(1,999)=黄、C(1,1000)=青、(後略)
| 書名 | 思考・論理・分析 |
| 著者 | 波頭亮 |
| 発行日 | 2004 年 7 月 28 日 |
| 発行元 | 産業能率大学出版部 |
| 定価 | 2200円(本体) |
| サイズ | A5 版 |
| ISBN | 4-382-05541-5 |
| その他 | 越谷市立図書館にて借りて読む |
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