中村 明:語感トレーニング |
作成日: 2012-04-22 最終更新日: |
伝えたい思いを適切なことばで表現するにはどうするか。語感を磨くためのヒントを問答形式で紹介する。
著者はいう。現代日本語には、似たような意味で語感の違う広大な類義語の沃野が広がる。
意味の微差を探り、語感のひだに分け入るのは、日本人の悦びであり、贅沢な悩みでもある。
著者のいうとおり、悦びと悩みが私にも同居しているが、ぜいたく、というのは私には当てはまらない。
というのは微差をさぐり、明確な形で示せるのは日本語や専門の人だけに限られるからだ。
ふつうの日本人は、何か違うで終わりである。どう違うのかを説明しろと言われると困る。
本書の中村氏ややはり国語学者の国広哲弥氏のような方々にゆだねたい。
さて、微差をくみ取って使い分けることは苦しい。特に日本語の初学者にとっては難物ではないか。著者はpp.iii-ivで次のようにいう。
「休憩」か「休息」かと迷ったとき、両方やめて「休み」という語で間に合わせれば、そんな微妙な意味の違いに悩まずにすむ。 (中略)単に「休み」とするほうが適切な場合もあるが、それは、松も欅も楓も桜も白樺も無差別に「木」で片づけ(中略)るような、 そんな荒っぽさで現実を切り取ったことになる。
そんな荒っぽさもときにはいいのではないか。千野栄一の「外国語上達法」によれば、
フランス語の話しことばのように千語で九〇パーセントを超すものもあれば、日本語のように一万語で九〇パーセントに達するような言語もある。
とある。この理由として、おおまかに伝えることでよしとするか、細かなニュアンスを表現するかの違いとしている。
この本を読みながら考えていたことは、細かなニュアンスにとらわれていては、外国人は日本語を嫌うのではないか、ということだ。
私が驚いたのは、フランス語の le devoir には、義務、宿題、課題など、(もとは同じだけれど)多義性があるということだった。 だからといってフランス語が学びやすい言語とはお世辞にもいえないけれど、細かなニュアンスをひとまずは捨ててもいいのではないかと思う。 とはいえ、私も細かなニュアンスを追求したがることが多いので、その点は反省しなければならない。
表記に関する節で、次の問題があった。amazon の書評にも取り上げられていた問題である。
Q15 たとえば「暑い」に対する「暑苦しい」のように、次の語について、それぞれマイナスイメージを含んだ表現に言い換えてみてください。
私は次のように答えた。4. 5. は苦しかった。
著者の解答とは 5. のみ違っていた。著者は「長たらしい」を挙げていた。そうだ。 「長たらしい演説」のように時間的に長いものには確かにそうだ。 しかし、空間的でかつ水平面に鉛直に長いものに対しては「ひょろ長い植物」のようにマイナスイメージになるのではないか、 と俺は思う。もっとも、この場合「ひょろ」は幅が狭くなるという形状だけに対象があたっているのかもしれない。 このあたりは言語学の先生にお聞きしたいところだ。
さて、この節は次の節と少し関係する。
Q51 「上」と「下」や、「積極的」と「消極的」のような関係を“対義語”と考えた場合、 次の1, 2 の対義語をそれぞれ二つずつあげてください。
これは見当がついた。1.は「低い」と「安い」、2. は「出社」と「入社」である。 多義性をもった表現、というテーマでの項目だから、1. は空間か金銭か、という観点でとらえられる。 また 2. は雇用か空間移動かの観点として認識できる。退社の場合は紛らわしいので、 出社の対義語として使う場合には帰社を、入社の対義語として使う場合は退職を使うのがいいだろう。 なお、直接雇用の従業員は退職がふさわしいが、派遣社員などが派遣先から退く場合は「帰任」を使う。 派遣元との雇用契約はあるから、派遣契約のみを解消する、という理由から、退職は使えない。
空間的か時間的かの多義性は、ときには同一視することもできるがときには分けて考えないといけないこともある。 上のQ15で明らかになったのは、多義性の区別が必要な場合の一例であった。
書 名 | 語感トレーニング |
著 者 | 中村 明 |
発行日 | 2011年6月6日(第3版) |
発行元 | 岩波書店(岩波新書) |
定 価 | 720円(本体) |
サイズ | 新書判 |
ISBN | 978-4-00-431305-2 |
NDC(9版) | 814 |
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