Gary Miessler, Donald A. Tarr：ミースラー・タール無機化学Ⅰ

概要

この第Ⅰ分冊は「化学結合と反応」という副題がある。監訳者まえがきから引用する：

本書は従来の教科書によくみられる元素や化合物を周期表の各族ごとに分けて結合や構造， 物質の性質と評価などを解説したり，従来の無機化学の研究分野を断片的に記述することとは異なり， 無機化学と有機化学を相互に結びつける“ブリッジビルダー”としての意欲を全面に出している． 前半の１章から８章（Ⅰ巻：化学結合と反応） では化学結合や反応性を量子力学を基礎にした分子軌道や分子の対称性と関連付けて記述しており， 成功していると思われる．

感想

1 無機化学入門

本書の p.6 ではここで，元素の期限と宇宙の誕生から無機化学の勉強を始めよう．とあるのでびっくりする。 いきなり宇宙ときたか。pp.6-7 の記述を引き写す：

ビッグバン理論によると，宇宙は極端に凝縮されたエネルギーをもつ， ごく小さな空間（体積ゼロかつ無限大の温度）から約 1.8 × 10¹⁰ 年前に誕生したとされている． 巨大な爆発の後で，中性子（半減期 11.3 分）が生じ，急速に陽子，電子，半ニュートリノに分解し減衰した．

$\ce{ n -> p + e- + $\overset{\mathrm{＿}}{\ce{\nu_e}}$ }$

あるいは

$\ce{ {^{1}_{0}n} -> {^{1}_{1}H} + {^{ 0}_{-1}e} + $\overset{\mathrm{＿}}{\ce{\nu_e}}$ }$

付記すると、amu は原子質量単位（atomic mass unit の意味か）である。現在は amu は使われず、 かわりに Da （ダルトン）を使う。定義は、 静止して基底状態にある自由な炭素12原子の質量の1/12である。

2 原子の構造

3 結合論

私の化学に関する知識は高校で止まっている。高校のときは化学はけっこうな得意科目だったが、 大学で物理化学を学んで得意なはずの化学に翻弄され、量子化学と格闘して打ちのめされ、 有機化学で息の根を止められた。以降、化学工学で多少復活したものの、以降は化学とは遠のいている。

8 典型元素の化学

p.362 では希ガスについて説明されている：

希ガスの最初の実験的な証拠は， 1766 年に Henry Cavendish によって得られた． 空気に関する一連の結果において， 彼は順次窒素（古化学の酸素“窒素”として知られている）， 酸素（古化学の酸素でないもの“酸素”）， 二酸化炭素（古化学の固定化された空気“二酸化炭素”）を科学的な方法を用いて除去し， ほんのわずかに残存し，いかなる化学的な反応に対しても反応しないものを見い出した

これはどういうことだろう。古化学とは「当時の化学」ほどの意味だろうか。カッコ内もよくわからない。 窒素、酸素、二酸化炭素が、当時、化学でフロギストンが議論の最中にあったの中で、 「フロギストン空気」、「脱フロギストン空気」、「固定空気」 と相当することをいいたいのだろう。ただ、当時の化学の用語を現在の元素にあてはめてよいか、疑問は残る。

誤植

裏表紙には物理定数が載っているが、目を疑った。

真空中での光の速さ　c₀ 2.99792458 3 10⁸m s^{2 1}
真空中での誘電率　　ε₀ 8.854187816 3 10^{2 12} F m^{2 1} （後略）

これらはこういうことなのだろう。

真空中での光の速さ　c₀ 2.99792458 × 10⁸m s^-2
真空中での誘電率　　ε₀ 8.854187816 × 10^-12 F m^-1

正確な値は、http://physics.nist.gov/cuu/Constants/index.html で検索するといいだろう。

ほかに、罪のない誤植は次のとおり

p.306 最下行 　　　貴ガス→希ガス
p.311 下から３行め プロセスおいて→プロセスにおいて
p.330 下から３行め 人口的に作製されている→人工的に作製されている
p.369 下から８行め 放射性炭素のによる年代測定→放射性炭素による年代測定

数式・化学式記述

このページの数式は MathJax で記述している。 また反応式は MathJax 拡張の mhchem を用いている。

書誌情報

まりんきょ学問所 ＞ 読んだ本の記録 ＞ Gary Miessler, Donald A. Tarr：ミースラー・タール無機化学Ⅰ