概要
杉本秀太郎による「江戸の散文」と、大槻鉄男による「明治からの散文」が収められている。
感想
要再読である。
回文
本書には、「酢豚作りモリモリ食ったブス」という有名な回文が出てくる。このことを知ったのは、 「隠淪医」氏の酢豚作りモリモリ食ったブス(note.com)見たからだ。氏に感謝する。
さて、この有名な回文は本書でどのように取り上げられているのだろうか。少し見てみよう。
本書は全十二章からなり、編者でもある杉本による前半(「はじめに」と第一章~第五章)の「江戸の散文」と、 大槻鉄男による後半(第六章~第十二章)の「明治からの散文」からなる。このうちの「第八章 書簡文」で、次のような個所がある。 著者である大槻を含めた飲み仲間の四人組がいる。そのうちの一人である山田稔による「酒飲みごっこ」という文章を大槻が引用している。私が書き写す部分は、 「酒飲みごっこ」から、四人組が酒を飲み始めるとお喋りに熱中してしまう場面だ。なお、p.240 からの原文を、私の判断でカギカッコごとに改行した。
そのお喋りというのが、例えばこうである。
「おい、最近こんなの出来たぞ。〝旅がらすはすらがびた〟」
「何だい、そのすらがびたというのは」
「うむ、ま、うらぶれたといった程の意味か」
「それはちょっと苦しいね。やっぱりあれには及ばんね。〝酢豚作りもりもり食ったブス〟」
―これは、上から読んでも下から読んでも同じになる文句のコンクールなのである。
編者の杉本によれば、大槻は本書の原稿をすでに1979年1月15日には仕上げていたという。 ということは、この日以前に〝酢豚作りもりもり食ったブス〟は(少なくとも四人組にとっては)回文の名作として知られていたことになる。 さらに言えば、山田稔の「酒飲みごっこ」が刊行されていれば、この有名回文の初出はもっと遡ることができる。 今度は山田稔の書籍をあたらなければならないか。
なお、「すらがびた」という日本語もどきも、どこかいい。大橋巨泉の有名な「ハッパフミフミ」や、山下洋輔一派のハナモゲラ語に通じるものがある。
なお、本章の主題は回文でもハナモゲラ語でもない。 著者である大槻の主張は、書簡文は穴あきの文体であり、読者はその穴の中をのぞいて読む楽しみがある、というものである。 その穴の実例として、本書では四人組のうちの一人の斎藤正彦が大槻に宛てた葉書を示している。その穴とは何か、そしてなぜそれが穴になるのか。 私の力ではうまく解説できないので、本書を読まれることをお勧めする。なお、斎藤は数学者であると紹介されているので、 東京大学出版会から刊行されている「線型代数入門」の著者だろうと推測できるが、確かなことはわからない。
書誌情報
| 書名 | 日本語の世界 14 散文の日本語 |
| 編者 | 杉本秀太郎 |
| 著者 | 杉本秀太郎・大槻鉄男 |
| 発行日 | 昭和 56 年(1981 年) 2 月 20 日 |
| 発行元 | 中央公論社 |
| 定価 | 1800 円(本体) |
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| その他 | 越谷市立図書館で借りて読む |