岩波講座 現代科学への入門の第2巻である。まえがきの ix ページから引用する:
本書は岩波講座『現代化学への入門』の「化学への第一歩」の2冊のうちの1冊で, これから化学を学ぼうとする人に「物質のとらえ方」について述べたものである. 化学をこれまで学んだことのない人にも, これから本格的に学ぼうとする人にも,化学の入門書となるよう配慮した.
化学の本は久しく読んでいなかったので、酸素と水素の反応式を見ただけでうれしくなった。この式は p.9 にある。
$\ce {O2 + 2H2 = 2 H2O}$
第1章の p.12 に次の問題がある。
問題 1.1 次の物質のうち,ほぼ純物質であると考えてよいものはどれか.純物質でないと判定した場合にはその理由を考えよ.
(a) 角砂糖 (b) ガソリン (c) 食卓塩 (d) 蒸留水 (e) 洋銀
解答がないので困ってしまう。「ほぼ」というものが指す範囲はどの程度なのだろうかがわからない。
まずは何も見ないで考えてみた。
私の考えでは、(a)、(c)、(d) が純物質であろう。(b) のガソリンは、
おそらく石油から蒸留された複数の成分が混ざっているはずだ。(e) の洋銀は、銀と何かの合金(あるいはまぜもの)
ではないか。ここで調べてみた。索引を見てみると、本書の p.53 でガソリンが説明されていることがわかった。
ガソリン(揮発油)は 25 ~ 200 ℃ の沸点で蒸留される成分の総称で,
炭素数 6 ~ 9 のアルカンの混合物である.
そういえば、ある集まりでエンジニアリング会社である日揮の社員といっしょに仕事をすることがあった。
その社員を紹介した方が、
「日揮、日本揮発油にお勤めです」と言ったので驚いた。日揮はもともと日本揮発油だったのか。
わたしはエンジニアリング会社としての日揮しか知らなかった。
それはともかく、洋銀は索引には載っていなかった。インターネットで調べてみたら、
銅とニッケル、亜鉛の合金だというわかった。洋銀には銀が含まれていないことを、いま初めて知った。
第2章の 2.4 は「アルコールとエーテル」と題されている。 pp.67-68 から引用する。
人が体内に接種した 90 ~ 98 % は酵素によって代謝され, 残りは呼気,尿,汗などとなって排出されるといわれる. アセトアルデヒドの分解酵素の働きが悪いと顔が赤くなり, 心臓の鼓動が速くなるなど,いわゆる酩酊状態になる. 数種類あるといういわれるアセトアルデヒド脱水素酵素のうちとくに分解力の強いものを先天的に欠いているか, 極端に少ない人がおり、 これらの人は急性アルコール中毒になりやすい. モンゴロイド系に多いといわれる.
私は酒が好きだが、酒が飲めない人に飲酒を強要することはしていないつもりだ(実際はわからない)。 関係ないが、 私が「ノミニケーション」ということばが嫌いだ。それは、酒を通じてのコミュニケーションが嫌い、 というわけではなく、このことばを初めて聞いたのが、私が嫌いぬいている人物からだからである。
p.68 の記述を引用する:
そういえば、エチレングリコールがワインに混入されていたことが事件になったことがあった。 すっかり忘れていた。シュウ酸といえば、ほうれん草に含まれていたはずだ、 ということもついでに思い出した。アルコール類で,ヒドロキシ基を 2 つもつものを 2 価アルコール, 3 つもつものを 3 価アルコールという. 2 価アルコールの代表てきなものであるエチレングリコールはガソリンエンジンの冷却水の凍結を防ぐために加える不凍液として広く用いられる. これも体内で同様に代謝されて,グリオキザール,ついでシュウ酸になる.
$\ce{ $\underset{\text{エチレングリコール}}{\ce{HO−CH2−CH2−OH}}$ ->[-2H_2] $\underset{\text{グリオキザール}}{\ce{O=CH-CH=O}}$ -> $\underset{\text{シュウ酸}}{\ce{HOOC-COOH}}$ }$これらもきわめて有毒である. エチレングリコールは甘みがあり,不凍液の交換などで放置したものをイヌがなめて死亡したり, 数年前,安価なワインに混入されて問題となったことがあった.
アンモニアの製造方法について説明されている p.99 から引用する:
窒素の水素化物がアンモニア NH3 である. アンモニアを水に溶かすと弱い塩基性を示す.
$\ce{ NH3 + H2O <=> NH4+ + OH- }$アンモニアは数百気圧のもと,鉄を主体とする触媒の存在下で, 窒素と水素とを直接化合させるハーバー-ボッシュ法で合成される.$\ce{ N2 + 3H2 ->[\text{Fe触媒}] 2NH3 }$(中略)このように空気中の窒素を利用して窒素化合物をつくるのを空中窒素固定 (あるいはたんに窒素固定)という.
本当に大事なことはこの(中略)の個所に書いてあるので本書を読んでほしい。 私は空中窒素固定ということばを聞くと、キューティーハニーの「空中元素固定装置」を思い出してしまう。
p.116 では水酸化ナトリウムが化学工業で重要な原料であることや、 塩化ナトリウムの電気分解から作られることが述べられている。以下引用する:
水酸化ナトリウムとともに製造される塩素は化学薬品の原料や漂白剤として重要ではあるが, もっとも多い用途は塩化ビニルや塩化ビニリデン(第4章参照)などの合成樹脂や, ジクロロメタンや四塩化炭素などの塩素系溶剤などの原料である. しかし,これらが環境問題から使用されなくなりつつあるので, 塩素は余ってくる傾向にある.水酸化ナトリウムと塩素の需給のバランスをいかにとるかは将来の大きな課題である.
塩素は嫌われものだというのはうすうすとは感じていたが、余ってくる傾向にあるとは知らなかった。
pp.131-133 ではビニルモノマーについて解説されている。p.132 から引用する:
ポリ塩化ビニル(Polyvinyl choloride, PVC, '塩ビ'という略称もよく用いられる)はそのままでは硬いので, 塑性を大きくして加工性を高めるためにフタル酸ジブチルやフタル酸ジオクチルなど可塑剤と呼ばれる物質を加えて柔らかくして使用する. (中略) 現在,フタル酸エステルは内分泌攪乱物質として作用するのではないかと疑われており, さらに,PVC を焼却したときに有害なダイオキシンが発生する可能性があるなどの問題も指摘されている. 3.8 節でも述べたように,塩化ナトリウムの電気分解による水酸化ナトリウムの製造には, 塩素がともに生成する. PVC とともに製造される塩素は化学薬品の原料や漂白剤として重要ではあるが,
p.115 から引用する:
ナトリウムの融点は 97.81 ℃ と低く, 優れた熱伝導性のため高速増殖炉もんじゅの冷却剤として用いられた. 液体ナトリウムは密閉系で使用すれば問題ないが, いったん漏れれれば大きな事故につながる.
いったん漏れれれば
とあるが、「いったん漏れれば」が正しいだろう。レレレのおじさんを思い出してしまった。
このページの数式は MathJax で記述している。 また反応式は MathJax 拡張の mhchem を用いている。
書 名 | 物質のとらえ方 |
著 者 | 櫻井 英樹 |
発行日 | 2001 年 3 月 26 日 |
発行元 | 岩波書店 |
定 価 | 3200 円(本体) |
サイズ | A5版 190 ページ |
ISBN | 4-00-011032-2 |
その他 | 岩波講座 現代化学への入門2 草加市立図書館にて借りて読む |
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