日本人は季節の微妙な移り変わりや細やかな人情の機微を感じ取る繊細な感性を有しているが、 ものごとの本質を鋭く大胆に洞察し、一貫して論理的に考え抜くことは苦手である。
もちろん、繊細な感性を有することはすばらしいことであるから、日本人の特性としてこれからも大事にして、ますます人間性を豊かにしていきたいものである。
だが、残念ながら、現実の厳しい世の中を生きていくためには繊細な感性だけでは不十分である。 特に現代は情報の氾濫と国際化という事態が急速に進行しつつあるから、古き良き日本人の感性だけに頼っていては通用しない場面が増えつつある。
だれでも自由に発信できる現代社会において大量にあふれている情報はまさに玉石混淆であり、 信頼できる確かな情報だけでなく、根拠のないでたらめな情報もたくさんある。 我々は鋭い論理的洞察力によってそれらの虚偽を見抜かないと、損害をこうむったり、健康をそこなったりする。 また、外国人との議論や交渉においては日本人独特の感性はまったく通用しないから、 一貫した論理的思考に基づいて堂々と自分の意見を主張する以外にうまくいく方法はない。
そこで私は哲学者として、日本人に足りない論理的思考で頭を鍛えることによって日本人の知性をさらに鋭く美しく磨き上げるのに少しでも貢献できればと思い、 本書を書く決意をした。(後略)
要再読である。
本書の著者を WEB で調べてみると、どうも一部の氏の著書の評判がよろしくないようだ。しかし、A さんの著書 B の記述がおかしいからといって、別の著書 C の記述がおかしいとは限らない。 まずは読んでみて判断してみよう。
まず、上記の「はしがき」の最初だが、「日本人は・・・」という大上段にふりかぶった物言いに不安を感じた。どのような根拠があって主張しているのだろうか。
p.117 の問題 23 をみてみよう。
問題 23 【トムはハンバーガーが好きなのか】
トムはアメリカ人である。したがって、トムはハンバーガーが好きである。
この主張は誤っている。それは本書でも説明されている。本書では、このような主張が成立するためには、「すべてのアメリカ人はハンバーガーが好きである」という前提がなければならない
と解説している。これも納得する。では、「すべてのアメリカン人はハンバーガーが好きである」という前提は果たして正しいのだろうか。著者は本書の p.118 でこう述べている。
冷静に考えれば例文のような主張の誤りを見抜くのは簡単であるにもかかわらず、これと同じような誤りは非常に多く見受けられる。 たとえば、「A さんは日本人だから~である」、(中略)というような主張はほとんどすべて同じ誤りを犯している場合が多い。 我々も油断しているとうっかりしてこのような主張をしてしまう可能性があるので気を付ける必要がある。
こういった間違った主張をする人たちはほとんどいつも「すべてのアメリカ人は~である」、「すべての日本人は~である」、「すべてのイギリス人は~である」という暗黙の前提が正しいことを自分で勝手に決めつけている。
しかし、このような「すべての~は~である」という前提が正しいことを証明するのは極めて困難である。(後略)
以上の引用からすると、「はしがき」で日本人は季節の微妙な移り変わりや細やかな人情の機微を感じ取る繊細な感性を有しているが、
ものごとの本質を鋭く大胆に洞察し、一貫して論理的に考え抜くことは苦手である。
とさりげなく言っている前提が正しいかどうか、甚だ怪しくなってくる。少なくとも著者自身、
この前提が正しいことを証明するのは極めて困難であると思っているはずだ。
| 書名 | 知性を磨くための論理 37 問 |
| 著者 | 千代島雅 |
| 発行日 | 2015 年 2 月 20 日(初版第1刷) |
| 発行元 | 晃洋書房 |
| 定価 | 2200 円(本体) |
| サイズ | |
| ISBN | 978-4-7710-2579-0 |
| NDC | 116 |
| 備考 | 越谷市立図書館で借りて読む |
まりんきょ学問所 > 読んだ本の記録 > 千代島雅:知性を磨くための論理 37 問