「はじめに」から引用する。
(前略)クラシック音楽好きの方が弾いたり聴いたりする音楽は、ほとんどがここ二〇〇ー三〇〇年ほどの間に作られたものです。 それ以前の音楽は、どのようなものだったのでしょうか。古い時代から現在まで、音楽において変わることなく受け継がれてきたものは何か、 また私たちにとっての常識はいつ頃作られたのか、考えてみませんか。 古い音楽を知ることによって、音楽の聴き方感じ方が、少し変わってくるかもしれません。
p.56 に「神の楽器? トロンボーン」というコラムがある。ここではトロンボーンに関する3つの命題があり、読者に真偽を判定させている。 結果としてはどれも偽である。ここで第3の命題を引用する。
③ トロンボーンは神聖な楽器なので、一九世紀にベートーヴェンが導入するまで、交響曲に用いられなかった。
これが偽であるという証拠として、著者は講談社による『ベートーヴェン全集3』の一節を引用している。
たしかにこの一節では、(ベートーヴェンは交響曲第5番でピッコロやコントラファゴット、トロンボーンを交響曲ではじめて使ったという通説にたいし)
これらの楽器は個々には交響曲でもすでにかなりの使用例があるので、楽器自体は決して新機軸なのではない。
と書かれている。
では、個々の使用例はベートーヴェンより前の作品で、何があるのだろう。これについては書かれていない。
ちなみに、ChatGPT などに尋ねても、ピッコロやトロンボーンに関してはベートーヴェンの名前しか出てこなかった。
ただし、「コントラファゴットが交響曲で初めて使われた例を教えてください」とGPT-4o mini に聞くと、
「コントラファゴットが交響曲で初めて使われたのは、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの交響曲第9番です。
この作品は、1777年に作曲されました。モーツァルトはコントラファゴットを使用することで、楽曲に独特の深みと重厚感を与えました。(後略)」
という回答が得られた。しかし、Wikipedia のモーツァルト交響曲第9番の項をみても、コントラファゴットの名前はどこにもない。うーむ。
p.175 は「見る人は見ている」というコラムである。ここでは、「《ローマの祭り》をオーケストラで聴いたら、なんか変でした~!」なんて言われて脱力
(レスピーギの《ローマの祭り》の吹奏楽用アレンジは、私も高校時代に取り組んだことがあります)。
と書かれていた。
私は逆に吹奏楽を知らなかったので、吹奏楽の演奏を初めて聞いたとき A ではなく B でチューニングが開始されたので驚いたことがある。それはともかく、
ここのコメントを見るといろいろ反省すべき点が多い。一番おかしかったのは最後のコメントで、ファースト・ヴァイオリンの3プルト[前から三列目]あたりに、
弾くときに全然動かない人がいたり、一方で(多分エキストラだと思うが)5プルトあたりで誰よりも激しく動く人がいて、
それはちょっとなと思ったし、たいして弾けなくても動いていると案外弾けているように見えるから、もっと動けばよいのにとも思った。
これを読んで、私がはるか昔、学生時代に仲間と聴きに行った大学オーケストラのことを思い出した。そのオーケストラのチェロの4プルトか5プルトあたりの表(客席に近い方) の奏者が弾くときに全然動かなかったので、これはどうしたのかと思ったことを思い出した。確かチェロは6プルトぐらいあったはずなのに、 なぜこの動かない奏者が最後尾ではなくて、しかも目につきにくい裏ではなくて表にいたのだろう。それを不思議に思って帰った後で仲間と部室で飲んでいると、 仲間が「あのオケ、チェロにタコがいたよな」と言って笑い、私を含めた他の仲間も大笑いした。 ここでタコとは当時私たちが使っていた人を罵倒するときの隠語で主に「下手くそ」の意味である。私が麻雀を打つときもよく「タコ」呼ばわりされた。 その後数年して、自分がチェロを持って、人前で弾くことになるとはついぞ思わなかった。 今でもときどき、本番舞台で動けなかったチェロ奏者のことを思い出し、せめて自分は弾けなくとも弾いているフリをして腕や手を存分に動かそうと思っている。
| 書名 | オケ奏者なら知っておきたいクラシックの常識 |
| 著者 | 長岡英 |
| 発行日 | 2014 年 5 月 10 日(初版第1刷) |
| 発行元 | NTT 出版 |
| 定価 | 1600 円(税別) |
| サイズ | |
| ISBN | 978-4-903951-90-4 |
| その他 | 越谷市立図書館にて借りて読む |
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