筒井 康隆:銀齢の果て

作成日 : 2023-05-26
最終更新日 :

概要

増えすぎた老年人口を減らすため、日本の厚生労働省は70歳以上の高齢者を対象に、老人相互処刑制度を作った。

感想

突然の場面転換

本書の主な舞台は都内の宮脇町五丁目地区である。他に、都内の老人ホームであるベルテ若葉台と、広島県の熊谷地区が登場する。

私が戸惑ったのは、本書の構成だった。まず、章で分けられていない。それどころか、一行あきの段落さえない。にもかかわらず、場面が突然転換する。 本書 p.93 から引用する。

(前略)地獄の苦痛がえんえんと続き、夫婦が息を引きとったのは深夜を過ぎてからだった。
 お( ゆう ) はいつものように野良( のら ) 着の帯に出刃包丁と( かま ) をさし、シャベルを( かつ ) いで家を出た。(後略)

この最初の行と次の行は場面が転換している。最初の行は宮脇町五丁目地区の記述で、次の行は熊谷地区の記述である。私はこの転換に戸惑ったが、 きっとこれは作者の意図なのだろう。筒井は以前、マリオ・バルガス・リョサの「緑の家」の評で、突然の場面転換について称賛していたはずで、これが頭にあったはずだ。 ではなぜ突然の場面転換という手法をとったのだろうか。これは勝手な読みだが、本書は老人相互処刑制度で起こるさまざま事件を扱っている。 老人の中では、時間や空間が截然と区分けされているのではなく、混然一体となった感覚になっているのではないだろうか(わたしも老人と呼ばれる年齢になったので、そのあたりが少しわかる)。 そんな混沌とした時間や空間をほのめかすために、場面転換で章分けもせず、段落分けもせず、といった書き方をしているのではないかと思う。

書誌情報

書名 銀齢の果て
著者 筒井 康隆
発行日 年 月 日(第3刷)
発行元 新潮社
定 価 円(本体)
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その他 新潮文庫、越谷市立図書館で借りて読む

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MARUYAMA Satosi