「はじめに」から引用する:
原子・分子の物理化学的性質を理解し,化学反応の予測を行うとき, 量子化学の知識は必要不可欠のものである.(中略) 本書は大学二,三年生を対象として書かれたものである.
大学生になって1年半、教養科目としての化学の授業があった。 1年生の春夏学期では物理化学を、秋冬学期では量子化学を、2年生の春夏学期で有機化学を学んだ。 学んだといってもあらかた忘れている。量子化学を学ぶときに、なぜ量子力学も、 偏微分方程式も知らない学生に量子化学を教えるのだろうと疑問に思っていた。 その疑問ももっともなのだが、最初に粗い量子力学を教えて役に立つであろう量子化学を学んで、 さらに専門的な量子力学や偏微分方程式の解法を学ぶものありなのではないかと思った。
いずれにせよ、わからないことには変わりはなく、この本を見てもチンプンカンプンなところがほとんどだった。 なぜチンプンカンプンなのかというと、問題が解けないからだ。
p.90 ではハイトラー-ロンドンによる原子化結合法について述べられている。その一部を引用する:
式(中略)の中で,残された積分の計算は面倒なので詳細は省くが, それらはハイトラーとロンドンおよび杉浦により求められ, 特に面倒な式(中略)の中の積分は杉浦によりはじめて計算された.
この杉浦という人は誰なのだろう。日本人だろうか。調べると、杉浦義勝という物理学者であることがわかった。 なるほど。
p.144 では波動関数と軌道エネルギーから物理量や化学的性質に関して多くの情報が得られることが述べられている。 その一部を引用する:
波動関数の係数からは反応性に関して多くの情報が得られる. 福井謙一らは,芳香族炭化水素への求核置換反応は HOMO の係数(`c_(r_i)^"homo"` ) の絶対値が一番大きい位置で,求電子置換反応は LUMO の係数(`c_(r_j)^"lumo"`) の絶対値が一番大きい位置で起こることを指摘した. HOMO と LUMO を合わせてフロンティア軌道とよぶ. また,これらの軌道の電子密度をフロンティア電子密度〔`2(c_r^"homo")^2` および `2(c_(r_j)^"lumo")^2`〕という. この研究をもとにして福井謙一は Hoffmann とともに 1981 年ノーベル化学賞を受賞した.
私が秋冬学期で量子化学を学んだことを先に述べたが、量子化学の先生は開講時に 「量子化学の講義を進めて、 最後には今年ノーベル賞を受賞された福井先生のフロンティア理論まで説明できるかもしれません」 と言われた。私の記憶によればフロンティア理論の説明は出てこなかったが、単にサボって私が授業に出なかっただけかもしれない。
このページの数式は MathJax で記述している。
書名 | 基礎量子化学 |
著者 | 小尾欣一・渋谷一彦 |
発行日 | 2002 年 8 月 20 日 |
発行元 | 化学同人 |
定価 | 4500 円(本体) |
サイズ | B5版 371 ページ |
ISBN | 4-7598-0871-X |
その他 | 越谷市立図書館にて借りて読む |
まりんきょ学問所 > 読んだ本の記録 > 小尾欣一・渋谷一彦:基礎量子化学