渡辺啓・岩澤康裕:基礎物理化学

作成日:2021-11-06
最終更新日:

概要

「序文」から引用する:

 本書の最大の特徴は,エントロピーと自由エネルギーの概念の導入を中心とする化学熱力を付録にまわし, 本文ではその概念を用いて諸現象に応用していることである. その理由は,熱力学自体が独自のカリキュラムで学習することが必要であるほどの内容であるため, 本書の中におくと,全体として学習内容が過大となり, 結局は全体が消化不良となる可能性が大きいからである.

感想

大学生になって1年半、教養科目としての化学の授業があった。 1年生の春夏学期では物理化学を、秋冬学期では量子化学を、2年生の春夏学期で有機化学を学んだ。 学んだといってもあらかた忘れている。

いずれにせよ、わからないことには変わりはなく、この本を見てもチンプンカンプンなところがほとんどだった。 なぜチンプンカンプンなのかというと、問題が解けないからだ。

序文から引用した個所は、私も賛同する。化学熱力は「化学熱力学」とし、 本書の中は「本文の中」とするのがよりよいと思うが、内容はその通りだと思う。

標準状態

pp.27-28 にかけて、標準状態(1 atm)での `Delta H` をとくに標準反応熱といい, `Delta H^⦵ ` と記す.とある.この右上にある ⦵ の意味がわからなかった。本書を見えれば、 〇を貫いているバーがあることがよくわかる。見開き裏表紙を調べたら、標準状態を表わす記号であることがわかった。 インターネットでの質問箱で「Φを横にしたような記号」という記述があって、なるほどと感心した。

化学平衡

p.146 で化学反応の一般式として、

`0 = sum nu_i "B"_i`
が (9.2) 式として示されている。`nu_i` は化学量論的係数で、`"B"_i` は反応物(`nu_i` が負のとき) または生成物(`nu_i` が正のとき)である。ここで添字 `i` が総和 `sum` に現れないのがどうも気持ち悪い。 p.147 では化学平衡について次のように述べられている:

 一般化した化学反応式 (9.2) 式に対応して,平衡の法則 (9.6) 式は

`K_c = `Π`["B"_i]^(nu_i)`
となる.

これはさらに気持ち悪い。添字 i が積をとる記号 `prod` にかかっていないこともそうだが、 この積を表わす記号は斜体 Π ではなく立体 `prod` で表わすべきだからである。

演習問題

一つぐらいは演習問題を解こうと思い、最終章(第13章)の pp.231-232 にある演習問題を見てみた。

[1] 50 g の水に 0.275 6 g の塩化カルシウムを溶かした溶液の凝固点は -0.159 ℃ である. この濃度における塩化カルシウムの van't Hoff 係数,活量係数, および 0 ℃ における浸透圧を求めよ.水のモル凝固点降下定数は 1.86 K kg mol-1である.

全然わからない。当り前だ。本文をほとんど読んでいないからだ。あわてて該当しそうな個所を探すと、 解を求めるために使えそうな公式は pp.202-203 にあった:

 例えば,浸透圧は (8.35) 式の代わりに

Π` = i n_B RT`
となる. `i` は van't Hoffファントホッフの係数と呼ばれている補正項である.

あれ、Π は浸透圧だろうか。`i` がファントホッフの係数だ。ということは、未知数が2つ以上ある。 それにだいたい、塩化カルシウムという条件をどこで使うのか、わからない。あきらめて p.253 の解答を見た。

[1] 式量は $\ce{ CaCl2 }$ = 110.98 であるから, 溶液の質量モル濃度は m = 0.275 6 × (1 000/50)/110.98 = 0.049 7 mol kg-1. この溶液の有効濃度は 0.159/1.86 = 0.0855, van't Hoff 係数は i = 0.085 5/0.049 7 = 1.72. (後略)

これだけしか読んでいないのに頭がクラクラしてきた。冷静になろう。まず、式量ということばがわからない。 あるいは、忘れているだけかもしれない。分子量のことだろうか。式量を本書の索引で探したがみつからない。 式量とは化学式量の略で、必ずしも分子を構成するとは限らないある単位について、 各原子の原子量と原子数の積和をとった量をいうようだ。それで、 $\ce{ CaCl2 }$ = 110.98 という値がどこから出てきたのだろうか。遥か昔、高校生のころは主な元素、たとえば H = 1, He = 2, C = 12, O = 16 という原子量を覚えていたような気がするが、小数点以下まで覚えていたものがあっただろうか。 ここで $\ce{ CaCl2 }$ = 110.98 がわかったとして、次に質量モル濃度 `m` を求めることができるだろうか。 まず、0.2756 g の$\ce{ CaCl2 }$ が 50 g の水に溶けているわけだから、 1000 g の水に溶けている同じ濃度の水溶液には 0.2756 / (1000 /50) g の塩化カルシウムが溶けている。 これだけのグラム数がどれだけのモル数にあたるかは、この値を 110.98 でわればいい。 そこで、 0.04966 mol kg-1 という値が出てくる。さて次、有効濃度ということばが出てくる。 この意味は何だろうか。索引にはない。0.159/1.86 という式を見ると、凝固点降下分をモル凝固点降下定数で割っている。 p.133 に (8.34) として2つ式が載せられているが、そのうちの左側の式を引用する:

`Delta_"f" T = K_"f" m_"B"`

`Delta_"f" T` は凝固点降下度、`K_"f"` はモル凝固点降下定数である。`m_"B"` は溶質の質量モル濃度である。 0.159/1.86 という数字からは溶質の質量モル濃度が得られる。この値は 0.0855 である。 一方、実際の溶液の質量モル濃度は 0.0497 だたったから、凝固点降下に関しては実際のモル濃度を超えて作用している。 その比が van't Hoff 係数ということで 0.0855 / 0.0497 = 1.72 として得られるということか。 そんな説明は本文になかったような気がするが、頭が弱いので理解できなったということだ。

誤植

p.2 の下から4行めから3行め、 SI 単位系と非 SI 単位系との換算については付録1を参照されたい. とあるが、付録1は Schrödinger 波動方程式の誘導である。他の付録も SI 単位系の換算とは無関係である。

p.208 で、酢酸が硫酸に溶けると塩基として働く例として (13.16) 式を示している

$\ce{H2SO4 +CH3COOH <=> HSO4- + CH3CO(OH)2+}$
しかし、両辺の O の数が等しいことを考えると次が正しいのではないか。
$\ce{H2SO4 +CH3COOH <=> HSO4- + CH3CO(OH2)+}$

p.229 の第3章[2]で`exp(x) = 1 - x` の近似を用いてとあるが、 正しくは「 `exp(x) = 1 + x` の近似を用いて 」であろう。

数式・化学式記述

このページの数式は MathJax で記述している。 また化学式はmhchemで記述している。

書誌情報

書 名基礎物理化学
著 者渡辺啓・岩澤康裕
発行日1995 年 11 月 20 日 第1版
発行元裳華房
定 価2800 円(本体)
サイズA5版 287 ページ
ISBN4-7853-3201-8
その他越谷市立図書館にて借りて読む

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MARUYAMA Satosi