佐倉 統(編著):科学の横道

作成日: 2017-01-13
最終更新日:

概要

現代を生きる人たちと編者とによる科学に関する対談集。

感想

茂木健一郎氏

p.13 で茂木氏はこう言っている。

(前略)冗談でよく言うのですが、日本のクラシック音楽ファンは人口の一パーセントくらい。 朝日カルチャーセンターの僕の講座に来てくれる人に 「リヒャルト・シュトラウスの『ばらの騎士』を見たことがありますか」 と聞くと、一○○人に一人ぐらいなんです。科学が何なのか、 ある程度わかっている人の数も、これと同じくらいだと思う。(後略)

俺はクラシック音楽ファンといってはばからないが、『ばらの騎士』は見たことがない。 困ったなあ。生でやる機会はめったにないし、あったとしても高いぞ。 BS で放映されたら撮っておくぐらいのことしかできないな。

p.20 で茂木氏はこう言っている。

それから学生を見分けるためのいい質問があります。 過去一○○年の科学的業績のなかで、君がこれはいちばんすごいという業績を挙げて、 その理由を書きなさいというもの。

もし私がこれを聞かれたら、どう答えるだろうか。 岡潔による多変数複素解析学の発展か、山極勝三郎による人工がんの発生をあげるだろうが、 どちらも過去百年かわからない。 岡による論文は 1936 年から 1962 年にわたるから、百年前といっていい。 一方、山極勝三郎と助手である市川厚一による人工がんの発生実験は 1912 年以前から行われ、 1915 年に成功したのだから、聞かれたのが今だったらアウトである。

さて、そのすごい理由だが、私にはうまく表現しようがない。

吉松隆氏

p.79 でこのような対話がある。

佐倉 (前略)西洋音楽の音階は、 昔は教会旋法がたくさんあったのが時を経るにしたがって今の長調と短調の二種類に収斂していきますよね。 あれが昔から不思議なのですが、なぜなんでしょうか?
吉松 すべてキリスト教の所為ですね。ドレミファが出る前はギリシア時代以来、 フリギアとかドーリアとかさまざまな旋法がありました。 でも、今使っているイオニア旋法に統一されて、それがドレミファになった。 そして、生と死、善と悪などの二元論が、長調と短調になり、 父と子と聖霊の三位一体が三和音となり、それが西洋音楽全体の体系になった。 気がつくと、それ以外の響きは異教の音楽になってしまった。

なるほど、こう解釈するのか。

小川眞士氏

p.191 でこのような挿話を紹介している。

生物を扱う授業のなかで、「生きるってどういうこと?」という質問をするんです。 答えてほしいのは、呼吸をすることとか、栄養をとることなんですが、 あるときこの質問をしたらひとりの子が手を挙げて、 「はい、ステキなことです!」と(笑)。 僕は小学生が明るい声でそう言ったことに感動しましたね。

俺も感動した。

三好春樹氏

p.205 で次のようなことを話している。

特養で働いていたときに、あるおばあさんが亡くなってお通夜があったんですが、 親族も誰も来なかった。世の中の人は冷たいなって、私、ちょっと怒ったんです。 その後、ある看護師さんが30代で亡くなったんですが、大勢の人が泣いて、すごく悲しいお葬式でした。 そのときに、「ああ、あのおばあさんの死は誰も悲しませない、いい死だったんだ」 って思ったんですよ。「あのばあさん、まだ生きてたんだ」って思われるような死に方が、 いちばん立派なんだと。 なんだか介護の世界に入っているとね、いろいろ考えさせられて、 みんなちょっとずつ哲学者になるんです。

おばあさんの死に方がいちばん立派かどうかはわからないけれど、 いい死だとは思う。

書誌情報

書 名科学の横道
編 者佐倉 統(編著)
発行日2011 年 3 月 25 日
発行所中央公論新社
定 価840 円(本体)
サイズ
NDC404
ISBN978-4-12-102194-5
その他南越谷図書館で借りて読む

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MARUYAMA Satosi