水野仁輔:カレーライス進化論

作成日 : 2025-02-25
最終更新日:

概要

「プロローグ」から引用する。カレーライスは日本を代表するプラットフォーム・フードである。そして、その象徴的な存在がカツカレーだ。 だとするならば、カツカレーが世界中の人々を虜にする未來が近いうちに訪れるんじゃないだろうか。

感想

p.39 に、CoCo 壱番屋(ココイチ)の話がある。以下引用する。

10 年ほど前に壱番屋の創業者である宗次徳二氏を取材したことがある。そのときに彼から聞いた言葉が今も忘れられない。

「うちは、よそのカレー店よりおいしいと言ったことは一度もないんです。カレーの味は、全国の過程で食べられている味と全く同じでいい。 そのカレーを家庭では実現できないサービスで提供することが付加価値になる」

著者の水野氏はここから考察を進めているので読むといいだろう。私は「ココイチ」でカレーを食べたことは4、5しかなく、そのたびに「なぜココイチがそんなに人気があるのだろう」 と不思議に思っていた。カレーの味に独自性がないと思っていたからだ。その疑問が、宗次氏のこの発言で解消したような気がした。 そして私は、カレーにサービスを求めていないこともわかった。

p.78 に、<日本人なら持っているカレーの思い出>という項目がある。私もカレーの思い出を二つほど記そう。

昔、小学校の家庭科の時間で、一週間の献立を書いてきて、その献立に含まれている栄養素を調べるという宿題があった。ごはん→炭水化物、魚→タンパク質などはわかったのだが、 カレーになって、はたと困った。栄養素がわからないのだ。しかたなく栄養素不明のまま宿題を提出した。家庭科の先生は、私が「カレーはどんな栄養素なんでしょう」という質問に絶句していて、 考えに考え抜いたあげく、ルーに小麦粉が含まれているから、炭水化物でしょう、という結論をだしたような気がする。

私の家でカレーを作るときは、明治やハウスなど、普通の家庭用のカレールーを使っていた。ところがあるとき、母が当時勤めていた市場で、 カレーが安いからといって買ってきたのが某社の業務用のミルクカレーだった。このミルクカレーをもとに作ったカレーは、味のパンチが足りなくて、 母には申し訳なかったがあまりおいしくなかったような気がする。

p.106 の次の記述を見て驚いた。

毎年何百食ものカレーを食べ続けている僕が、過去に食べた中で最も値段の高かったカレーは、 前述した伊勢志摩観光ホテルのレストラン「ラ・メール クラシック」の伊勢海老のカレーだ。1皿で 1万 4400 円。(後略)

私は、カレー1皿にこれだけのお金を費やす気にはなれない。やはり著者はカレーの人だ。なお、このホテルの固有名詞は、 正しくは(伊勢の字はつかない)「志摩観光ホテル」である。

p.109 から引用する。

カレーが日本にやってきたのは、明治維新のころ。散切り頭から文明開化の音がしていた時代だから、ヨーロッパからくるものには特別な憧れがあったはずだ。 そう考えればカレーが高級な外食であって当然だろう。今の時代に置き換えたらどのくらいのインパクトがあるんだろうか。 たとえばマニアックな話でいえば、スペインの「エル・ブリ」やデンマークの「ノーマ」が日本に出店した! くらいの衝撃か。いや、きっとそんなレベルじゃないはずだ。

わたしは、スペインの「エル・ブリ」も、デンマークの「ノーマ」も知らなかった。それぐらい、食については疎いのだった。

p.111 にこんなことが書かれている。

(前略)カレーはかつて、贅沢で高級な食べ物だった。その面影を残すカレーは、ごくわずかに存在するが、どちらかといえば、そのステイタスを放棄することによって、 大衆にウケるメジャーな料理として浸透したのである。どちらの流れにも重要な価値がある。ただ、今現在は、カレーの地位は低空飛行をしているといってもいいかもしれない。 またそのうち、カレー1皿が 2000 円しても誰も文句をいわない時代がやって来てほしい。

私はカレーが好きだが、カレー1皿が 2000 円したら文句をいう。そこまでのカレー愛は残念ながらない。ただ、1 皿 2000 円時代に達しつつあるのがトンカツだ。 そしてラーメンも、1杯 1000 円超えとなるものも多い。1 皿 2000 円のカレーも、もうすぐかもしれない。

p.191 の次の記載を読んで、そうだそうだと思わず膝をたたいた。私は「スパイスカレー」という名前に違和感を抱く古い人間である。

最近、札幌スープカレーに次いで、自然発生型のご当地カレーとして、存在感を増しはじめたのは、大阪スパイスカレーである。 すべてのカレーはスパイスで作られているわけだから、ことさらにスパイスを強調して、「スパイスカレー」といわれると違和感があるだろうか。 「馬から落馬した」のような表現としての誤りを指摘されそうだが、今やひとつのジャンルとして確立されつつある。

大阪スパイスカレーは、まだ歴史が浅い。カレールウやカレー粉を使わず、個別のスパイスを組み合わせて作る香り豊かで刺激的なカレーのことを指す。

書誌情報

書名 カレーライス進化論
著者 水野仁輔
発行日 2017 年 5 月 20 日 初版第1刷
発行元 イースト・プレス
定価 840 円(本体)
サイズ 新書判 ページ
ISBN 978-4-7816-8029-3
備考 越谷市立図書館で借りて読む

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MARUYAMA Satosi