「まえがき」から引用する
安全を確保するということは、事故と闘い続けることです。それは永久に続く闘いともいえます。
以下に記すことのいくつかには、特に私が嫌い抜いていたかつての上司に対する私怨、怨恨が入っている。著者には申し訳ないがお許しいただきたい。
p.7 以降は、ヒューマンエラーによる事故を防ぐためのアプローチが示されている。驚いたのが、(6) 問題と思える現象を有効活用する (pp.11-12)という項である。私はここで述べられているような発想の転換は思いつかない。 そういえば、インターネットで調べ物をしていたときのことである。日本では 50 Hz の発電機と 60 Hz の発電機が分かれているため事故が起こりやすく費用もかかる、という問題点に関して、 ある人が、「50 Hz と 60 Hz の間に緩衝用の機材が用意されているか、 もし片方の周波数領域に事故があっても緩衝用機材のおかげで別の片方への影響が避けられ、全国的に送電の大事故が起こることはない」と説明していたことを思い出した。なお、 50Hz と 60Hz の問題は、本書 p.29 で別の形で登場する。
p.17 では、事故の想定をするための「きっかけ演繹法」と「結果帰納法」の紹介を受けて、「当事者全員で図を描いて考えることが大事」として次のように主張している。 ここでいう確率計算とは、事故の発生確率を正確に見積もることをいう。また「矢印を切る」とは、樹形図に描かれた矢印を切断すること、つまり因果の連鎖を断って事故を起こさないようにする方策のことを指している。
(前略)こうした確率計算よりも、事故へいたる道の樹形図を当事者全員でつくってみること自体に意義があると、私は考えます。 職場のみんなで、わいわいがやがや話し合いながら、模造紙やホワイトボードに大きく図を描いてみましょう。そして矢印を切るアイデアの知恵比べをしてみるのです。 この共同作業を通じて、事故への落とし穴、事故が起こり始めたときの対処法、安全規則や安全装置の意味などを、全員が深く理解し、認識を共有できるのです。
私が嫌い抜いていたかつての上司は「わいわいがやがや」、つまり「わいがや」ということばが好きだった。実際のところ好きだったのはことばの上面だけで、内実は全員の話し合いではなかった。 上司のみが一人で大声で「わいわいがやがや」話すだけで、部下たちの話はまるで聞かず、否定するだけであった。結局、上司の自己満足に過ぎず、部下たちは意気消沈していた。
p.37 では、ヒューマンエラーを誘発するシステムが描写されている。
(前略)ある会社の事務案件管理システムでは、一度下した承認を取り消すには、「承認モード」を選び、「承認画面」を表示させ、 そこの「承認ボタン」を押して、「最終確認画面」に入ります。そこでようやく現れる「取消ボタン」を押さないと取り消せないのです。 反訓の表示があるシステムはヒューマンエラーを誘発するのですが、世の中にはこのようなシステムが数多くあります。
私が会社で携わっていたシステムの中には、まさに上記と全く同じインターフェースをもつものがあった。今思い出しても寒気がする。なお、「反訓」については、 同じ著者の『「事務ミス」をなめるな』でも紹介されている。
p.96 では三現主義の態度が紹介されている。ここで「報告書」とは事故報告書のことである。
(前略)報告書の口車に乗らないように備えるには、三現主義の態度が必要です。百聞は一見にしかず。 報告を読むだけで満足するのではなく、自分が現場に行き、どんな道具や資材なのか現物を見て、事故の当事者(現人)に話を聴かないと、真相はわからないものです (ちなみに、どれだけ作業が忙しいかや、暑さ寒さはどうか、という“現況”を三番目の“現”とする方もいます)。
この「三現主義」ということばを聞いて、昔私が憎んでいた上司を思い出した。この上司は、「三現主義」をことあるごとにいうのだが、上記で引用した「三現」を確認しようとすることは決してなかった。 ちなみに、この上司は「三現主義」は何かと部下に問いただすのも好きだった。部下は「現場、現物」までは出てくるが、三番めの現が出てこなかったようだ。「現在でしょうか?」と誰かが言って、 「違うだろう」と決めつけるのだった。「おまえは言えるか?」と私に振り向けられたのででまかせに「現実ですか」と答えたら、「そうだ」と肯定した。ただ、本書によれば、「現実」も誤りであることがわかった。 さらに驚いたことに、インターネットでは三番めの現は「現実」としているのが圧倒的に多い。私が思うに、本書のように「現人」や「現況」を充てるのが適切だろう。なぜなら、「現実」は一見客観的なようでいて、 その実、人によっての「現実」がさまざまであり、三現主義からは遠くなっているように感じられるからだ。
p.7 下から6行目、文句で済ませみても
とあるが、《文句で済ませてみても》が正しい。
書名 | 超入門 ヒューマンエラー対策 |
著者 | 中田亨 |
発行日 | 2012 年 6 月 20 日 第 1 刷 |
発行元 | 日科技連出版社 |
定価 | 2800 円(本体) |
サイズ | A5 版 ページ |
ISBN | 978-4-8171-9436-7 |
その他 | 川口市立図書館で借りて読む |
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