川崎 直一:基礎エスペラント

作成日: 2010-01-04
最終更新日:

概要

全 40 項で、エスペラントの基本を一通り網羅している。 特に、発音についてはゆったりした筆致で説明されている。

感想

買うべきか

今、買うべき本かと問われれば、優先して買うべき本ではない。 しかし、エスペラントの日本における発展を考えれば、面白い本である。

発音の説明に見られる古い本の筆致

私の印象では、古い本ならではの筆致である。特に、発音の説明に古さを感じる。 たとえば、現在の日本語にはティの音がない。 著者はこのティという音を、舌の位置やタ、テ、トと同類であることを丁寧に説明している。 ところが、現代の日本では(日本語では、ではない)、ティの音は平気で発音されている。 たとえば、「アイスティー」とか「ティッシュペーパー」などは、ごく当たり前に読める。 これは、外来語、特に英語が普及した結果だろう。 従って、今のエスペラント教科書ではそれほどページを割くに値しない個所である。 著者は、ティではなく「とィ」という表記をしていることから、 初版の時点では当然として、改訂版の時点でもまだティの音の表記に苦労したことが伺える。 なお、ティを発音する例として、著者は英語の team を挙げていて、 つぎのようにまとめている。

このごろはこどもでもこれを tiimu とちゃんと英語式に tii をすることがだんだんふえています

私の語感では現代(2010年)の日本でも「ティーム」には違和感を覚える。ただ、これらは 「テレヴィ」、「レイディオ」など同じで、慣れ方の違いだろう。

その他、今までの通常の入門書と異なる、あるいは入門書には見慣れない説明がある。

妙に面白い事項

本書は課ごとに練習と解答がある。練習ではほとんどがエス文和訳である。 その練習文の中で「あるアメリカ合衆国の言語学者によると,地上の(地球上の) 言語の総数は 2796 です。」(p.107)というのがある。 本当ならば、少なくとも何年時点での調査結果かを示すべきだと思うが、 こんな細かな数字を出すのは意味があるのだろうか。面白いことは面白いのだが、 数字の読み方を出すのであれば、「富士山の高さは 3776 m です」などの例文を採用すべきだろう。

それから、「エスペラントには,33 ほど前置詞があります。それらをぜんぶ説明することは,ここではできませんが,」 (p.86)と記述されている。だったら、 33 という数字を出さなければいいのに、と思う。 確かに、「地球語エスペラント」で必須といわれていた前置詞は 33 だった(地球語... p.122)。 しかし、これらの前置詞のなかで、下記の語は雑誌《 Kontakto 》指定の初心者用基本単語にはない。

このうちmalgraŭは、雑誌《 Kontakto 》指定のやや進んだ人用基本単語にもない(残りの3つはある)。 だから、33 という有効数字2桁の数字を見せられると、怖いと思う。せめて、30 程度に、としてほしい。 もっとも、定量的な記述こそ国際的なのです、という意見があれば、その通りですと肯くしかない。

ページは戻るのだが、日本語の単語のアクセントは高さですが,エスペラントの単語のアクセントは強さです。(p.4) という説明がある。これはその通りであるが、この前振りとして、次のような例がある。

日本語の「夏」という単語を発音してみましょう。東京の人なら,かならず「ナ」と「ツ」を「ナ」よりも高く発音するのに, 気がつかれましょう (ただしわたしは大阪ですから,「ツ」と「ナ」のほうを高く発音しますが)。

ただしわたしは大阪ですから,の弁解が妙に面白い。

日本語に注意

少し英語を勉強した日本人なら、この本の日本語は生硬だと感じるだろう。 たとえば、第 17 講の表題は「きのうかの女はへたにおどった」である。 彼女を「かの女」と書くこと、下手、踊ったなどをかな書きするのは著者の表記法であろうが、 「へたにおどった」はどうだろうか。 「きのうのかの女のおどりはへただった」が普通ではないだろうか。

次は日本語というより例文自体がおかしい例である。第 25 講の練習6. (p.106)の例文は次のようである。

En mia vizaĝo mi havas du okulojn, du orelojn, unu nazon kaj unu buŝon.

訳は p.107 にある。

わたしの顔の中にわたしは 2 つの目,2 つの耳,1 つの鼻そして 1 つの口をもっています。

それは当り前だろう!と思わず突っ込みたくなる例文である。これを読んで、ある男性がいったことを思い出した。 その男性は年上の男性から、かわいがられてこう言われたそうだ。「君は目が 2 つある、かわいいねえ。鼻が 1 つある、かわいいねえ。」

それはさておき、その他うっかりすると清水義範の「永遠のジャック&ベティ」になりかねない例文が散見されるので注意のほど。

誤植

ほとんどない。私が見つけたのは p125 の練習 1. 単語の解説のみである。 Platon|o `プラントン' (ギリシャの哲学者) とあるが、正しくは `プラトン' である。

書 名基礎エスペラント
著 者川崎 直一
発行日昭和38年9月15日(初版), 1979年3月改訂版
発行元大学書林
定 価2000 円(本体)
サイズ?判
ISBN4-475-01041-1

まりんきょ学問所読んだ本の記録 > 川崎 直一:基礎エスペラント


MARUYAMA Satosi