R.ラックマン・J.L.ラックマン・E.C.バターフィールド:認知心理学と人間の情報処理I 情報処理パラダイム

作成日:2015-01-03
最終更新日:

はじめに

科学がもつパラダイムの重要性について述べたのち、認知心理学と情報処理パラダイムについて述べる。

パラダイム

まえがきの第3段落の原文は次のとおりである。

Thomas Kuhn developed the concept of a scientific paradigm as part of a fundamental reformulation of views on the scientific enterprise. The paradigm, representing tacit commitments to a conception of reality that cannot be defended on rational or canonical grounds, stood in contrast to then-prevailing views of how science is done. Kuhn challenged the idea that scientific investigation is absolutely rational, thoroughly cumulative, and unequivocally objective. He highlighted the role of consensual judgments in determining what appears rational, objective, and worth cumulating.

訳は次のとおりである。

Thomas Kuhn は,科学的パラダイムの概念を,科学の営みに対する見方の基本的な改革の一部として展開した。 パラダイムとは,合理的な,あるいは規範的な根拠からは擁護されえないような事実に対する考え方の暗黙の了解事項を指している。 このパラダイムという考え方は,どのように科学が行われているかについての,その当時広く行きわたっていた考え方に対立するものであった。 Kuhn は,科学的な研究がまったく合理的で,徹底して累積的で,疑いの余地なく客観的なものであるという考え方に挑戦した。

そうなのか。パラダイムというのはその中にあれば他の何物も受け付けなくなるものだろうか。まえがきを続けて読むと、こうも書いてある。 こちらは訳のみ掲げる。

われわれが主張したいのは,もし科学者として生き残りたければ, (中略)あるパラダイムがよいという理由でほかのパラダイムを拒否する用意がなければならないということなのである。

私の解釈では、一つのパラダイムの中でずっといることをよしとせず、「もし他のパラダイムが今のパラダイムよりよければ」 今のパラダイムを拒否して他のパラダイムに乗り移るべきだ、ということを言っているのだと思える。

おそらく作り話と思われる翻訳例

p.146 におもしろい翻訳例がのっているので紹介する。

翻訳は世界に関する知識に依存しているが,知識は文自体の中には含まれていないのである。 この事実は次の話(おそらく作り話だろう)の例によって示すことができる。 英語をロシア語に翻訳するために設計された初期のプログラムで, コンピュータは,「心は望んでいるが,体は弱い ( The spirit is willing, but the flesh is weak. ) 」 という文を与えられた。出てきたロシア語の翻訳は, 「ウォッカはおいしいが,肉はまずい ( The vodka is fine, but the meat is tasteless. ) 」 というものであった。

書誌情報

書 名認知心理学と人間の情報処理I
著 者R.ラックマン・J.L.ラックマン・E.C.バターフィールド
発行日1988 年 11 月 25 日
発行元株式会社サイエンス社
定 価2600 円(本体)
サイズA5判 319ページ
ISBN4-7819-0524-2

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