極私的関数解析:入口 |
作成日:2013-01-23 最終更新日: |
自分でも関数解析で行うことがよくわかっていないから、ここは書けない。 私がぼんやり認識しているのは、数学で扱う関数にはいろいろな種類があって、 その種類に応じて扱い方が変わってくる、ということだ。 その種類がどうなっているか、どうやって扱えばよいか、扱える対象はどれか、 ということを整理するのが関数解析だと思っている。
今まで、関数の性質として学んできたことは、 ある点で連続であるとか、ある点で微分可能であるとか、ある値に収束するかとかそんなことだった。 そして、そんな特徴のある点が、区間の中の点すべてに対して成り立つのか、有限の点でなのか、 可算無限の点でなのか、ということも対象にしたいといろいろな人が考えた。 そして、ある関数と別の関数を加えた時にできる新たな関数についての性質はどうなのか、 ということを綿密に考えるようになった。そうしてできた抽象性の高い分野が関数解析である。
そんな関数解析の萌芽となった事象をちらりと見ていこう。
フーリエ級数とは、周期的な関数を三角関数の和であらわす技法である。 ジョゼフ・フーリエ(Jean Baptiste Joseph Fourier、1768-1830)はフランスの数学者であり、物理学者である。 ナポレオンおかかえの学者として、フーリエはさまざまな業績を残した。
級数とは、たがいに足すことができるもの一次元的な列の和のことをいう。ここでものとは、数であったり、式であったり、 関数であったりする。有限の場合もあれば無限の場合もある。
そんなフーリエ級数がどんなときに役に立つのか、役に立たないのはどんなときか。 関数の性質を調べればわかるのではないか。
フーリエ級数で述べたことと重なるのだけれど、偏微分方程式には大きく分けて、楕円型、双曲型、放物型がある。 これらの方程式を満たす関数群はどんなものなのだろうか。偏微分方程式を立ててそこから解を求める、 というより、あらかじめ該当の偏微分方程式に関する関数空間を決めて、そこから解を取り出す、というのがあるべき姿なのではないか。 彫像師は、木を彫りだして彫像を作るのではなく、あらかじめ木に宿している彫像を見てそれを取り出す、というようなものか。
変分法、ということばを最初に聞いたときは奇異な印象を抱いた。微分や積分のようなものだろうとは思ったが、変という文字はどこから来るのだろう。 授業を受けて、少しは謎が解けた。微分でできることは関数 `y = f(x)` が定義されていて、`x` の定義域に応じて値域 `y` の最大値や最小値を知ることができるというものだった。変分法は、`f(x)` そのものがわからない状態で、`f(x)` が満たす条件から `f(x)` を決めるという、より一段高い方法だということを知った。典型的な問題として、最速曲線の問題(サイクロイド)、 カテナリーの問題、等周問題などがある。
このような問題は、微分方程式に帰着されるものもある。関数解析で、変分法の解が求められるのではないか。
そのほかにも、関数解析は次の分野で有用である(らしい)。例を示せないのがつらい。
関数解析を勉強しました、といったとき、何がわかれば関数解析を勉強したといえるのだろうか。 大学での数学専攻の例を見て、そこのシラバスを見ればまだわかるかもしれない。
4年1学期
関数解析入門
関数解析学の入門的講義を行う. 関数解析の分野においては, 無限次元の線形空間や作用素の構造が扱われ美しい理論が建設されている. 一方, 関数解析は, 数理物理の分野への応用を与え, また偏微分方程式, 確率論, 数値解析, 幾何学などの分野においては問題を関数空間において定式化し, それを解くための道具や技術を与えている. このように関数解析学は解析系の諸分野を支える重要な柱としても発展してきた. この授業ではバナッハ空間の定義や例や基本的な性質について論じた後, 基本的でかつ応用範囲の広いヒルベルト空間論を講義する. ヒルベルト空間における諸概念の性質を説明し, 後半ではヒルベルト空間上の有界線形作用素の基礎的な事項を講義する.
バナッハ空間, ヒルベルト空間の基礎的な理論を理解し習熟する. また具体的な例や応用例についての知識を得る. ヒルベルト空間における有界線形作用素の基本的性質について習熟する.
ルベーグ積分論を履修しておくことが望ましい.
https://syllabus.sap.hokkyodai.ac.jp/syl/faces/up/km/Kms00802A.jsp
前期
関数解析学の基礎段階を主な内容とする。微分方程式の理論との関連で関数解析学が登場した背景から、 Banach空間、Hilbert空間における線形汎関数、作用素についての基本的な定理を扱う。
Banach空間の諸問題に取り組むため、その基本的な性質、特に有限次元空間との位相的性質の差異、線形汎関数や線形作用素の性質等について、理解を深める。
Banach空間の基本的な扱い方に慣れるとともに、有界線形作用素、コンパクト作用素、フレドホルム作用素などを扱いながら、 Hilbert空間におけるRieszの表現定理、Hahn-Banachの定理、閉グラフの定理等を応用例や使い方を含めて理解することを目標とする。
関数解析学の入門書である Martin Schechter 著 Principles of Functional Analysis をテキストとし、セミナー形式で行う。
1~2週 微分方程式と関数解析学との関係 3~4週 Banach空間の例 5 週 フーリエ級数 6~7週 Rieszの表現定理 8~9週 Hahn-Banachの定理 10~11週 双対空間 12~13週 線形作用素と随伴作用素 14~15週 閉グラフの定理
Principles of Functional Analysis (Martin Schechter 著)
https://syllabus.sap.hokkyodai.ac.jp/syl/faces/up/km/Kms00802A.jsp
前期
関数解析学の初歩的内容から始め、バナッハ環、特に作用素環の基礎理論について講義する。これらに基づいて群上の解析学に関する話題にも触れる。
関数解析の初歩的内容とその基本的手法を習得する。
第1週-第6週 関数解析学の基礎理論 第7週-第13週 作用素環の基礎理論 第14週-第15週 群上の解析学への入門
1.ノルム空間とBanach 空間 2.Hilbert空間 3.線形作用素 4.Baireの定理とその応用 5.線形汎関数 6. 共役空間 7. スペクトルとレゾルベント
Hilbert 空間・Banach 空間の基本的事項と、解析学の諸問題への応用例を理解する。
微積分・線形代数の基礎
出席、レポート等により評価する。
参考書:
宮寺功、関数解析、理工学社 黒田成俊、関数解析、共立 その他なんでもよい。
関数解析学は良書が多数書かれている。どれでも良いから自分に合うものを探し、それをすべて読破するのがよい。
必ずしも講義の順序どうりに理解する必要はない。演習の時間がないため、各種の定義や基礎概念を自分で確かめていく必要がある。 そのために参考書を常に眺めることが重要である。
3年前期
関数解析
この授業では関数解析学の基本事項を解説する。関数解析学は関数空間と線形作用素に関する理論である。俗に「無限次元の線形代数学」といわれ、微分方程式をはじめ数値解析、確率解析、量子力学などその応用の範囲は広い。微分方程式や積分方程式などの関数方程式は、関数空間上の作用素に関する方程式と考えられるので、関数解析学の立場から研究されることが多い。
【授業計画】 | 【授業時間外課題(予習および復習を含む)】 | |
1. | 線形空間 | 線形空間の復習をしてくること。 |
2. | 距離空間と完備性 | 距離空間と完備性の復習をしてくること。 |
3. | ノルム空間(1)`R^n, l^p` | 無限級数の復習をしてくること。 |
4. | ノルム空間(2)`C[a,b], L^p(a,b)` | 連続関数とLebesgue可積分関数の復習をしてくること。 |
5. | 内積空間 | 内積と完備性の復習をしてくること。 |
6. | Banach空間 | Euclid空間と無限級数及び完備性の復習をしてくること。 |
7. | Hilbert空間、直交分解 | 直和分解の復習をしてくること。 |
8. | 正規直交系、完全正規直交系 | 内積と基底の復習をしてくること。 |
9. | 線形汎関数とRieszの定理 | 線形性の復習をしてくること。 |
10. | 線形作用素 | 線形写像の復習をしてくること。 |
11. | 有界線形作用素 | 線形作用素の復習をしてくること。 |
12. | Hilbert空間の共役作用素 | 随伴行列の復習をしてくること。 |
13. | 自己共役作用素 | Hermite行列とユニタリー行列の復習をしてくること。 |
14. | 射影作用素 | 射影子の復習をしてくること。 |
15. | 期末試験と解説 | 全体の復習をしてくること。 |
http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~yasuyuki/fa05.htm の「講義内容予告」を見ると、次のキーワードが出てくる。
関数解析学 (Foundations of Functional Analysis)
5学期
信号処理, 画像処理, パターン認識, システム理論のための数学的手法の一つである関数解析について各種応用例を用いて分かりやすく学ぶ. 特に,空間の概念,収束の概念, 作用素の概念を通して一見異なって見える問題を統一的に捉えることの重要性を学ぶ.
* 線形空間 * 縮小写像の不動点定理 * バナッハ空間 * ヒルベルト空間 * 線形作用素 * 直交射影定理 * 最小2乗近似問題 * 逆問題 * 一般フーリエ展開
1. 序論(工学における数学の役割) 2. 集合, 距離, 完備性, 写像 3. 縮小写像の不動点定理とその応用 4. 線形空間, ノルム, 内積 5. バナッハ空間とヒルベルト空間 6. 線形作用素1(行列表現とノルム) 7. 直交射影定理 8. 最小2乗近似問題と逆問題 9. 一般フーリエ展開:直交展開,基底の完全性 10. 線形作用素2(線形汎関数と共役作用素) 11. 線形作用素3(自己共役作用素の固有値問題) 12.ヒルベルト空間における統一的視点とその応用
6学期
関数解析学とは,関数の集合がなす無限次元空間とその上で 定義された作用素について,代数的,位相的,解析的な性質を 調べることを目的とした大きな数学分野である.この講義では, 各種の関数空間と線形作用素に関する基礎を解説する. 関数解析学の重要な抽象概念,および,幾つかの重要な 具体例の扱いの双方に習熟することを目的とする.
1.バナッハ空間 ノルム空間,バナッハ空間 2.ヒルベルト空間 内積空間,ヒルベルト空間,(完全)正規直交系 3.線形作用素 有界作用素,(可)閉作用素,開写像定理,一様有界性原理 4.共役空間 線形汎関数,共役空間,ハーン・バナッハの定理,弱位相 5.発展的な話題 スペクトル理論,コンパクト作用素, 偏微分方程式論への応用等から,適宜話題を選択する.
回 / No. | テーマ / Theme | 内容 / Contents |
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第1回 | 線形代数再論 | 一般ベクトル空間の復習 |
第2回 | 計量ベクトル空間 | 内積が定められた複素ベクトル空間の復習 |
第3回 | 実数の性質と数列の収束 | 実数の性質,実数列の収束のε論法による定義の復習 |
第4回 | バナッハ空間 | バナッハ空間の定義と例 |
第5回 | 線形作用素 | 線形作用素,有界作用素の性質 |
第6回 | 線形作用素のなす空間 | 有界線形作用素がなすバナッハ空間について |
第7回 | ヒルベルト空間の基本性質 | 無限次元ヒルベルト空間の基本的な性質 |
第8回 | 正規直交系 | 正規直交系による一般フーリエ級数の構成と完全性 |
第9回 | 直和分解 | 閉部分空間による直和分解 |
第10回 | 射影作用素 | 射影作用素の基本的な性質,シュミットの直交化 |
第11回 | リースの表現定理 | リースの表現定理の紹介 |
第12回 | 共役作用素 | 共役作用素の定義と性質 |
第13回 | 自己共役作用素とその固有値 | 自己共役作用素の固有値の性質 |
第14回 | 完全連続作用素と固有ベクトルによる分解 | 完全連続作用素の固有空間分解 |
第15回 | まとめ | 講義のまとめを行う |
ある Web サイトに「関数解析の専門キーワード」と称して下記の専門用語が並べられていた。 タイトルは「この中で知らない用語がございましたら工学部としてとして勉強不足ですね!」であった よくみると、「関数解析」に相当するキーワードもあるが、関数解析以前の微分積分学や線形代数に属するキーワードもある。 皆さんはどう思われるだろうか。
なお読み方が微妙に違っている用語があるので、それは私がこっそり直した。
このページの数式は MathJax で記述している。