フォーレ:無言歌とマズルカ

作成日 : 2000-08-28
最終更新日 :

1. 無言歌のいわれ

ピアノの小品はロマン派時代に花咲いた。性格的小品という、 キャラクター・ピースを直訳した名前でひとくくりにされることもあるが、 実際にはそれぞれの小品の種別で呼ばれることがほとんどだ。 この手の名前をつけたのはショパンが最も多い。 他の同時代の作曲家はなにがしかの名前をつけている。 メンデルスゾーンの「無言歌」(原題はLieder ohne Worte)は有名で、 さらに「春の歌」とか「ヴェニスの舟歌」だとか別の標題がついている曲も多い。

「ことばのないロマンス」という題を考えたのが もしメンデルスゾーンその人であれば、 大した才能であろう。 歌詞はないけれどいかにも歌っています、という意味のことであれば、 むしろ「歌のない歌謡曲」、もしくは 「カラオケ」といったところが本当の意味に近いのだろう。 でも、もう訳語として「無言歌」は定着してしまった。

フォーレに戻れば、この無言歌は正しくは「ことばのないロマンス」(原題はRomances sans paroles) である。「ことば」と訳した paroles は(書き言葉ではなく)話し言葉を指すフランス語である。

2. メンデルスゾーンと比べて

フォーレの無言歌Op.17 は三曲からなり、メンデルスゾーンの無言歌と似ている。 両手のもつ機能を万遍なく使って、 三声を同時に表現している。旋律も甘く、自然な歌を表現している。

第1番変イ長調は3曲の中ではよくいえば温和、わるくいえば平板な曲で、 まだピアノ曲を書くのが慣れていない、 という感じが伝わってくる。

第2番イ短調は、4拍子で絶えず奏される無窮動風の音型に爽やかな旋律が載せられる。 かなり長いので、 弾くピアニストとしてはうまく変化をつけて奏する必要があるだろう。

第3番変イ長調は、初期のフォーレの作品のなかでとりわけ有名である。 子守唄風のリズムに順次進行に基づく メロディーが大きな弧を描く。 転調を経て最初のメロディーが回顧される個所はごく自然なカノンとなって現れ、 曲を盛り上げる。

私は正直なところ、後期の厳しさを持つフォーレの曲に惹かれるのだけれど、 一方でこのような無言歌を聞くと彼が持っていた若い頃のういういしさに触れるようで、なんともいえない恍惚感に浸ることができる。

3. マズルカ

フォーレのマズルカは、彼のピアノ曲の中で特異な地位にある。 まず、キャラクターピースでありながら、 この一曲しか例がない。ショパンは 50 曲を超えるマズルカを作ったのだ。 この逆は舟歌に見られる。フォーレは 13 曲の舟歌を作ったが、ショパンは 1 曲だけである。

中身もどうもぱっとしない。ショパンのマズルカには聞き手を安住させない毒がある(それゆえ私はショパンのマズルカが弾けない)。 しかし、フォーレのマズルカは、ショパンのマズルカの上澄みのリズムだけをとってきたようだ。 そのためか、どうも生気に乏しく、 それゆえ私はフォーレのマズルカを練習する気になれないでいる。 誰か、フォーレのマズルカを讃える方がいれば、私も気合いを入れて練習するのですが。

4. 演奏

フォーレの無言歌やマズルカとでは演奏者の個性は現れにくいのではないか、とわたしは思っている。

無言歌に関して、ドワイヤンの演奏を聴いてみた。 第1番はさほど特記すべきことはない。 第2番は彼の資質とは少し相容れないのではないか。音の厚みが要求されるクライマックスで、 流れがよどんでしまうようだ。一方、第3番はいい。流れより歌に重きを置いているようだ。 そして個々の音の占める位置を大事にしていることがわかる。

ほかにも全集で、ユボー、コラールなどの演奏を聴いている。

まりんきょ学問所フォーレの部屋 > 無言歌とマズルカ


MARUYAMA Satosi