フォーレ:夜想曲第 12 番 ホ短調 Op.107

作成日:2020-08-18
最終更新日:

全体像

フォーレのなかでは異色の作品といえる。 フォーレの曲は転調にしてもリズムにしても変化はさりげなく始まるのだが、 この曲はすべての変化が突然現れる。

たとえば、長調と短調の交代は突然生じる。また、 半音(短2度)の衝突も突然だ。そして、これらの突然の頻度が尋常ではないことも、 この夜想曲が他の夜想曲と明確に区別できる特徴である。

畏友 hasida 氏からは「晦渋極まりない」ノクターン12番と評されている。

構成

いろいろな分け方があるだろうが、私はリズムとテンポの点から、 A : 1 小節~20 小節、B : 21 小節 ~ 42 小節、 A': 43 小節~60 小節、B' : 61 小節 ~ 75 小節、 A": 76 小節~90 小節、CODA : 91小節 ~ 107 小節 と分けている。

冒頭、A はホ長調で始まる。しかし、2小節めで突然ホ短調に変わる。 また三連音で進む音型が5小節目めで突然四連音になってしまう。冒頭6小節を見てほしい。

フォーレ夜想曲第12番第1小節

この4+1小節の構造は調性を変えて次の6小節から10小節にも引き継がれる。 不安定性が高いのがこの A 部である。

B は 12/8 拍子の拍に従った、回音を主体とする、穏やかな六連音であり、不安定性は A 部に比べれば低い。 時々高音部で短二度の衝突やアルペジオの割り込みがあるが、すべては六連音の中でおさめられている。

フォーレ夜想曲第12番21小節

B のあとの A' は冒頭の A とほとんど同じである。 ただし、冒頭に関しては A の冒頭 1 小節が A' では省かれている。 また、末尾に関しては、A では B へのつなぎに 2 小節を要して徐々に移行していたが、 こんどの A' ではつなぎは 1 小節だけで早めに移行を済ましている。譜面は省略する。

B' は B より変容の度合いが強い。たとえば、B' の 65 小節で、 曲冒頭の1小節の和音が割り込んでいる。そしてこの割り込みによって転調し新たに B' 部が始まるようにも聞こえる。

フォーレ夜想曲第12番61小節

Allegro ma no troppo と指定され、速度が増す A" はコーダに含まれるかもしれないが、 ここでは A や A' のさらに大きな変奏ととらえたい。今まで高音で聞こえた短二度の衝突は、 ここでは低音にも現れ、軋みが増している。
なお、ピティナの本曲の解説
https://enc.piano.or.jp/musics/182
によれば、第77小節の左手の最初の3連符の第3音は本位ヘ音ではなく嬰ニ音が正しいとのことである。

フォーレ夜想曲第12番73小節

Coda は Più mosso と指定され、テンポがさらに上昇する。半音と全音の織りなす綾が激流に飲み込まれていく。 フォルテとピアノの対比も突然だ。最後は長調で終わるかに見せかけて、短調で終わる。これは、 冒頭の2小節の回想だろう。ともあれ、 フォーレの作品のなかでここまで断層が露になるのは珍しい。

フォーレ夜想曲第12番85小節

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MARUYAMA Satosi