フォーレにがっかりする人たち

作成日 : 2013-10-27
最終更新日 :

1. はじめに

フォーレにがっかりする人たちがいる。これは作品に対してのこともあれば、特定の演奏家の演奏に対してのこともある。

2. クラシック三大がっかり

現在はリンクが切れてしまった、あるブログから引用する。 日本三大がっかりの話を枕に、クラシックの三大がっかりの話に進む。

ところで、クラシック音楽を聴き進めていくうちに、 ガッカリ感を味わうことって、わりと多いのではないか。 もちろん、どの曲にガッカリ感を味わうかなんていうことは人によって違うのであろうが、 私なら3大ガッカリとして以下を挙げる。

  • フォーレの楽曲全体
  • ラフマニノフの交響曲1、3番
  • チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番第1楽章

それぞれのファンの方もいらっしゃるだろう、 だから申し訳ないとは思うのだが、あくまで一般的、大衆的な観点に立って考えたとき、 これらは大方の期待を裏切るものであることに間違いないと思うのだが、どうだろう?

フォーレは、『パヴァーヌ』作品55とか、『ラシーヌの雅歌』作品12とか、『エレジー』作品27とか、 素人にも「ウケ」が良くて親しみやすく、 それも異常なほどに美しいメロディを持つ曲が有名だ。 だから、「ああ、フォーレさまの曲を、もっと聴きたい」と頬を赤らめ、 ピアノ四重奏曲やヴァイオリン・ソナタのCDも買って聴くことになるのだ。 そうすると、大抵のひとは思うことになる。 「あれ、間違ってラヴェルのCD買っちゃった?」

そう、フォーレはフランスの作曲家であるが、 実は大半の作品の風情は、同じフランスのラヴェルのそれに近い。 印象派っぽいのだ。歌うような甘美なロマンティックな旋律は、 作品番号が若いほうに登場する。 後期の作品は、ほとんど印象派っぽい。ラヴェルやドビュッシーの世界である。

フォーレにブログの主がガッカリ感を味わうのは残念だが仕方がない。 私の立場から少し注釈を加えておきたい。

まず、上記の前提にあるのは、1. フォーレの「ウケ」がよいのは印象派ぽくない曲であるということ、 2. 印象派ぽい曲は歌うような甘美なロマンティックな旋律ではないこと 3. 印象派の曲はウケが悪くなること、これらにあるように思える。

美しいメロディーを持つフォーレの曲といえば、ほかにはたとえば、 『夢のあとに』作品 7-1 とか、3つの無言歌 作品 17 (とくに3番)とか、 『子守歌』作品 16 とか、『シシリエンヌ』作品 78 ではないだろうか。 それから『レクイエム』作品 48 の何曲かも、<死者のためのミサ曲>というタイトルを取れば美しいメロディーだと思う。

さて、これだけみると、作品番号が若いほうに多いように思えるが、シシリエンヌは必ずしも若くはないのではないか。

そして、ヴァイオリンソナタでも第1番はきれいなメロディーが(特に第4楽章)は横溢しているようにも思うし、 ピアノ四重奏曲でも第1番は各楽章の冒頭はともあれ、途中のメロディーはいいですよ (特に第4楽章、あの抒情的な旋律が出てくるあたり)。

わたしからは、がっかりした「印象派っぽい」曲をもっと聞いてもらいたいと思う。ドビュッシーともラヴェルとも違う、 音の理屈にこだわった傑作群だからだ。

3. フォーレは不可解

上記とは別のブログを見てみた。ここでもフォーレの評判はさんざんである。同じブログ主の記事4件を具体的に見てみよう。

「ピアノトリオの名曲②」という記事がある。ここでは、 フォーレは不可解と切り捨てられている。うーん、困った。

最初はムッとしたが、「悪名は無名に優る」ともいうし、取り上げられただけましだと思うことにしよう。

同じブログ主による「ピアノトリオの名曲①」には、こうある。 同じく「クァルテットのたのしみ」に「ピアノトリオは圧倒的な名曲でなければならないと思うのは、筆者だけであろうか」という一文がある。 その一文に洗脳されてしまったかもしれないが、圧倒的でなくとも「名曲」でないと、やる気はしないといっている。 では主が名曲といっているトリオにはどんなものがあるか。①と②を合わせると、 ベートーヴェンの「大公」と「幽霊」のほか、メンデルスゾーンの2曲、ドヴォルザークの「ドゥムキー」、チャイコフスキー、 ラヴェル、ショスタコーヴィチ第2番である。 ちなみに話題に出てきているのはほかの作曲家のピアノトリオがあるが、ここでは引用を控える。その最後に、フォーレは不可解があるのだ。

「ピアノ五重奏曲の名曲」という記事では、 ピアノ五重奏曲とこのジャンルを作った作曲家を取り上げてこういうものに弦楽器奏者が熱中することは無いのもむべなるかな。 と否定的な見解で結んでいる。ちなみにピアノ五重奏曲で有名な「ます」も、またその作曲者のシューベルトも挙げられていないのは一見不思議に思えるが、 これは4台弦楽器がVn+Va+Vc+Cbという編成であり 通常の弦楽四重奏曲 Vn*2+Va+Vc でないためにブログ主の想起の外にあったのだろう。 私はピアノ五重奏曲(弦楽四重奏+ピアノ)という形態はフォーレの作品に限らず好きだが、これは私がピアノ弾きだからだろうか。ブログ主はヴァイオリン弾きのようだ。

「ピアノ四重奏曲の名曲」という記事では、ちょっと趣が異なる。 そしてフランスものから一つ、フォーレの第一番。若さ炸裂の傑作、 よくわからないピアノ五重奏曲やピアノ三重奏曲と同一人物とは思えない、情熱と哀愁漂う佳品。 ピアノ五重奏曲やピアノ三重奏曲がよくわからないといわれてはくさるが、それでもピアノ四重奏曲(第1番)を評価してもらえるのはありがたい。 (この項 2019-04-20作成、2025-03-27 改稿)

4. 演奏について

「ピアノの本」~斎藤雅広の聴き耳たてれば~(www.masahiro-saitoh.com)というページがある。 ここの「第2回 「パスカル・ロジェに感謝の気持ちを」を読んでもらうと、ジャン・ドワイヤンのフォーレの全集について、 私にいわせれば、音楽の流れは停滞しているし、平板な音色で、冴えもなければ緊張感もドラマも何もない演奏ともみえるのだけれど・・・・・。 と評している。ああ、そうなのか。私が範としてきた演奏がそうだったのか、と私ががっかりしてしてしまうのだった。(2025-03-27)

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MARUYAMA Satosi