是非に及ばずー人工知能学会誌を読む(2010年5月号)

作成日:2010-05-09
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織田信長の辞世の句「是非に及ばず」

今年の5月2日、佐倉の国立歴史民族博物館(歴博)に出かけた。 私は歴史があまりにも嫌いだし、不得意だった。 だから多少は予習をしておくとよいと思い、 つれあいがもっていた本から歴史の参考書を抜き出して、 途中の電車の中で読んでいった。

すると、戦国時代の本能寺の変のところまできた。 ここで織田信長は死ぬ間際に明智光秀の謀反について「是非に及ばず」と言った、 という記述があった。さて、「是非に及ばず」とはどういう意味か、 わかりかねた。もちろん、歴博にはその答はなかった。

さてそういうこととはまったく関係なく、人工知能学会誌の5月号が送られてきた。 記事をめくっていると、驚くべき記事があった。 数理議論学の発展ー動向と今後の展望ーと題する記事で、 ここで4値束(テトラレンマ)の記事があった。 4値束とは、不確定性を表す真理値を定義することによってうまれる表現である。 通常の論理学では、ある命題にたいしては、それが真(t)か、 それが偽(f)であるかの2値しかとらないものとされる。 ところが4値束ではこの2つに加え、それが真でもあり偽でもある()という値と 真でもなく偽でもない(T)ものを含める。 以上を補強する例として、織田信長の「是非に及ばず」が取り上げられていたのだ。

「是非に及ばず」とは、明智の謀反に対してそれが真でもなく偽でもない、 つまり(T)という、「明智の謀反の是非をいまさら議論しても意味はない」という、 信長の態度の表明だ、というのである。

意味がわかったこともさることながら、 たまたま覚えたことが人工知能学会の学会誌という妙なところで出会うのだから、 おかしなものである。


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MARUYAMA Satosi