偶然の一致-人工知能学会誌を読む(2009年11月号)

作成日: 2009-12-19
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物事の本質と偶然の一致

学生フォーラム、という欄がある。著名な先生に学生がインタビューする記事である。 今回は松山隆司氏へのインタビューである。 名前はよく存じ上げている。 私が画像処理の研究をしていたころ、論文や発表で氏の名前は何度も出てきた。 また、画像処理関係のシンポジウムに私が行ったときも、氏は発表者に対して厳しい質問を頻繁にしていた。

さて、記事で紹介されていた氏の業績に、書籍表面の三次元形状復元があり、驚いた。 内容は「本をコピーする際、どうしても綴じ目部分に黒く影ができてしまい、ひずんでしまう。 このひずみと陰影を含んだ画像から、コピー元の形状を推定し、陰とひずみの画像を復元する」 (以上、記事からの抜粋)ものである。

私が驚いたのは、この業績の重要さに対してではない。ちょうど2,3日前、 あるコピー機の営業担当者がわたしのところにあいさつにきて、自社の製品についてこう自慢したのだ。 「本をコピーするとき、綴じ目部分(ノド)の部分が暗くなってつぶれますよね。 これを復元するコピー機がありまして、国立国会図書館などで使われているのですよ」 私はこれを聞いて感動したが、その2、3日後にその技術の開発者の記事を読むとは思わなかった。 これが偶然の一致というものか、と驚いた。 ちなみに、この感想を書いているのが12月19日であるが、人工知能学会誌が到着したのは今年の11月初めで、 それまでは封も切っていなかったのだ。読まずにただ置かれている雑誌が不憫になり、 たまたま今日この学生フォーラムから読んでみたところ、思わずぶつかったのだった。

松山氏は、このインタビューで若手研究者に対する3つのアドバイスを残している。 最初の2つは割愛するが、最後のメッセージは 「徹底的に本質を考えてみたくなることを見つけること」 であった。私は若手でも、研究者でもないから義務感はないのだけれど、 本質を考えることは苦手である。その代わり、このような偶然の一致を発見して、 日常生活の喜びとしている。


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MARUYAMA Satosi