2.大家さんという人

 さあ、大変だ。

 契約更新に必要な更新料でさえ、ぎりぎり出せるかどうか、
といったような状況だったから、引越し代なんて用立てられる
はずがない。大家の都合で引っ越すことになるのだから引越し
代が出てもおかしくは無いのだが、なにしろ契約が切れる時期
だから…法的なことはわからなかったが、人としてそこまで
「ごね得」のような真似をするのはどうか、と思った。

 数日後、大家さんから電話が入った。1階の刀舟は気付か
なかったが、2階ではもう雨漏りとかひどくて大変だったのだ
そうだ。ちなみに、1階の刀舟の部屋ではネズミが出る、壁
が崩れる、それを大家さんが自分で直す(「曰く、『職人さん
を雇うと、なんだかんだ理由をつけて数日に分けてやってきて
お金を取る』、云々。」)、漏水したからといってアパート
中の水道をやはり大家さんが止める…など、いろいろとあった
のも伏線になっていたことは想像に難くない。

 この大家さん、悪い人ではないのだが、大抵の人にはあまり
関りたくない、と思われそうな人だった。どういう人かと
言うと…そう、『大草原の小さな家』という洋物のドラマを
ご存知だろうか。あれに出て来る、万屋のおばちゃんみたいな
人なのだ。悪人ではないのだが、噂好きで偏見きつくて見栄っ
張り、人を見るときにはその肩書きを最重要視するタイプ。
まあ、決して悪い人ではないのだが…。

 そういえば、こんなことがあった。

 当時、下宿の前の道は未舗装で、道には飛び石が埋められて
いた。この石、所有権は大家さんにあったらしい。この道が
舗装されたとき、大家さんがその石を、アパート内の敷地…
刀舟が借りている部屋の前の、セメントも何もない地面の上に
敷こうと考えた。

大家「で、石板をちょっと部屋の入り口のあたりに置いて
   おきたいんですけど、いいですか?」

刀舟「あ、はい。何でしたら、僕が並べるか、工事の人に
   お願いしましょうか?」

大家「いえ、絶対にやめて下さい!!」

刀舟「?」

大家「あなたみたいな、恵まれた人がああいう人たちにそんな
   こと言ったら、どうなるかわかりません!!」

刀舟「…。」

大家「女の子とかだと大丈夫ですけどね、ああいう人たちに
   あなたみたいな人がああしろ、こうしろとか言うと…。」

喧嘩になる、とでも言いたいのだろうか。最近の若者は、注意
しただけでキレるとは言うが…。

 正直、苦手な人だった。

続く