5.LAを歩く

 不味い飯を済ませ、ちらと外を見る。

 夏だ。

 日本を出たときは、どうも中途半端な天候だった。暑かったり妙に
 肌寒かったり、「初夏」というにはさわやかさに欠けていたり…。

 しかし、ここは夏だ。

 さすがに上着を着ていると暑いので、上はロングTシャツ一枚で外に
 出る。宿の敷地内にあるこぎれいなプールでは、数人の兄ちゃん達
 が泳いでいる。うーん、夏だ。

 「俺も泳ごうかなー。」そんなことを考えながら、敷地の外へ。まず、
 明日行われるライヴの会場、El Ray Theaterとやらを探さなくては
 いけない。番地から、だいたいの場所はわかっていたが、歩けば
 どのくらいか、バスで行くとしたらどこで降りるか…を、確認しなくては
 いけない。

 とりあえず、宿のあるウェスト3RDストリートから、バーモントアヴェニュー
 との交差点へ。そこを南に下って、会場のあるウィルシャーブルバード
 まで出て見ることにした。

 宿を出てから最初の交差点まで行く途中で、一人のインド人らしき
 青年に声をかけられる。

 「チャイナタウンへは、どっちです?」

 「知りません。」(即答)

 いぶかしげな顔をする青年。どうやらこの私を、この辺に住んでいる
 中国人か韓国人だと思ったようだ。

 「この辺、初めてだから」と言うと、笑いながらどこかへ立ち去って
 行った。この時、僕は何も荷物を持っていなかったし、コリアタウン
 のすぐ近くだから、旅行者に思えなかったのも無理はない。何より、
 この宿周辺にはアジア系の人や、インド系の人が随分沢山いた。
 3RDストリートとバーモントアヴェニューの交差点のあたりなど、
 怖いくらいにインド人だらけだ。

 バーモントアヴェニューへ出て、ウィルシャーブルバードを目指して
 南へ。道すがら気が付いたのは、随分とハングル文字の看板
 を掲げた店が多いことだ。何でも、ここぐらい大規模なコリアタウン
 は他にないのだそうだ。後でまた述べるが、ダウンタウンの一角
 にちょこんと収まっているリトル・トーキョーの比ではない。

 宿から歩いてほぼ10分、ウィルシャーブルバードとの交差点に
 到着。なかなか大きな通りだ。交差点付近には、大きな地下鉄
 の駅もある。これを利用して会場まで行ければいいのだが、残念
 なことに会場があるとおぼしき番地までは路線が延びていない。

 「…こんなだだっぴろい街で鉄道がないってのが、きついなー。」

 LAに鉄道がなく、車社会なのには理由がある。知っている人も
 多いと思うが、その昔自動車会社が鉄道の株を買い占めて
 のっとった挙句、当時の路線をすべて廃線にしてしまったのだ。
 すべては車を売るために。

 「ここまで10分か…歩くと1時間くらいかかりそうな距離だな…。」

 ここはやはり、バスを利用した方がよさそうだ。
 このままバスに乗ろうかとも考えたが、この時点でいくらかかる
 のか、どんな路線があるのかを確認していないことに気がついた。
 ここは一旦宿へ帰り、翌日以降のストラテ(作戦)を考えることにした。

 宿に着いてから、しばらくガイドブックの地図とにらめっこ。
 そうしているうちに、だんだんと日も暮れてきた。

 「…なんか、肌寒いな。」

 日が出ているときには暑いくらいだったのに、隠れた途端にグン、と
 気温が下がった。話には聞いていたが、やはり夜はそこそこ寒そう
 だ。トレ−ナーを持ってきておいて良かった。風邪をひいてしまう。

 流石に疲れていたので、シャワーを浴びてからトレーナーに着替え、
 その日は眠ることにした。もちろん、パンツを洗うことも忘れては
 いない。3丁しかないから。

続く