…はて?この人、一体誰だろう。僕の顔は、まあうちのサイトをくまなく
調べればわかる。会場には東洋人があまり(というか、ほとんど)いないし、
それほど迷わず見つけられるだろう。だが、名前まで知っているとなると…
ファンクラブ関係の人か?フィルさんには、俺が来るってことわかっている
んだし。オフィシャル・サイトの運営を手伝っている人が、確か30そこそこ
だったような…。
「こんにちは、私、ジャーメインよ!以前送ってもらった写真であなたの顔は
知っていたから。」
はい、ジャーメインさん… !! この人、ヒルトン・ヴァレンタイン(アニマルズ
のオリジナル・ギタリスト)の奥さんだ!!
まさか、こんな若々しくてきれいな人だとは…。
説明せねばなるまい。実は数年前、アニマルズ2として来日したヒルトン
とジョン・スティール(アニマルズのオリジナル・ドラマー)にインタビュー
したのだが、そのときの写真の一部と記事が載った雑誌を2冊、ヒルトン
のところへ送っていたのだ。その後も、数回ではあるが連絡を取って
いて、今回ここへ来ることもメールで伝えてあったのだった。
「ここへは、誰と一緒に来たの?」
「一人で来ました。」
「まあ!どこに泊まっているの?」
「バーモント・アヴェニューと3RDストリートの交差するあたりに…。」
「あら、じゃあ近いわね!今日はもう、ヒルトンも来ているの。ほら、あそこ。」
と、2階を指差すジャーメインさん。ああ、さっき向こうを横切ったのは、2階へ
上がるためだったのか…。
「さっきヒルトンが通ったのには気付いたんですけど…」
と、ここでどう英語で話せばいいのかわからない。言葉につまってしまった。
しばらくこんな調子で話をしていたが、ジャーメインさんは終始素敵な笑顔。
最後に
「ちょっと、挨拶したかったから…それじゃ!」
と、その場を立ち去って行った。「いい人だな」というのがこの時の印象だった
けれども、それは間違いではなく、本当にいい人だった。それは後で再確認
することになる…というか、この旅で一番素晴らしい出来事は、ヴァレンタイン
夫妻と会えたことではないかと思っている。そのくらい、いい人だった。
「ふー、まさか向こうがこっちを探してくれるとは…。」
ちょっと感激だ。そして、この会場にはメールのやりとりがある人が他にも
何人かいるのだなと思うと、少しワクワクした。
そして、時間はもう9時になろうかという頃、少し会場の雰囲気が変わり
始めた。
…いよいよだ。
会場内に流れていた音楽がとまり、ステージに皆が注目し始めた。
まず最初に登場したのは、初老の男性…先ほど、「フィルさんでは?」
と思ったまさしくその人だった。還暦を迎えたエリックへの祝辞を述べた
あと、今日集まった人たちがどこから来たかを述べていた。ほとんど
欧米からだったが、それでも随分いろんなところから来たものだ。日本
から来ている人もいる、というのは多分僕のことだろうと思ったが、
もしかしたら他にもいたかもしれない。
挨拶の最後に、フィルさんが「今日は、あそこでTシャツと本を売って
います。」と、売店の方を指差した。ふふ、僕はもう買ったからね、と
思っていたら、この人は衝撃的なことを言いました。
「このチケット(そう言って取り出したのは、僕がこの人から買った
前売り券)を提示すると、Tシャツを10ドルで買えます。そうでない
場合、20ドルです。」
は、早く言え〜〜〜!!
売店へ行ってお金を返してもらおうか、とも考えたが、既に売り子は
代わっている。説明するのもしんどいので、ご祝儀だと思うことにした。
…20ドル…。
少し呆然としていたところで、いよいよステージの幕開けだ。
「Please Welcome, Eric Burdon & the New Animals!」