ショウが終わったあと、僕に声を掛けてきた人がいた。ジャーメインさんだ。
「こんにちは!昨日、ショウが終わった後でパーティーがあったのよ。ヒルトン
と私も行ったんだけれど…。」
何!?ということは、バンド・メンバー全員参加していたのか…。
「あなたに会えなくて、ヒルトンはとても残念そうだったわ。良かったら、しばらく
ここに残って頂戴。今日のパーティーへは行けないけれど、楽屋でならヒルトンに
会えると思うわ。」
!!
「ええ、是非!」
「お願いね!今日も貴方に会えなかったら、ヒルトンはきっとおかしくなってしまうわ!!」
そ、そんなに歓迎されているのですか?…いやいや、ちょっと大げさに言って
くれているだけだろう。そうは思ったけれど、とても嬉しかった。
楽屋へ案内してもらうにはしばらく待たなければならなかったので、客もまばら
になったテーブル席に腰掛けて話をしていた。
「明日、私とヒルトンは昼1時の飛行機で帰ってしまうの。貴方は?」
「あ、僕も昼の1時の飛行機で…ニューヨークの友人の所まで行く予定です。」
「あら、どの航空会社なのかしら?」
「デルタです。」
「まあ、残念。私たちは○×△(覚えていない)なの。」
そんな話をしていたところに、会場のスタッフが話し掛けてきた。
「失礼。まもなく、この場所は閉まってしまうのですが…。」
「私はヒルトンの妻です。」そう言って、関係者であることを示す腕輪を見せた。
「オーケイ。(刀舟に向かって)あなたは?」
「彼は、ヒルトンが会いたがっているの。」
そう言うと、スタッフのおにいちゃんは「了解した」、という顔をして何処かへ
行ってしまった。もう片付けに入っているから、一般客には出て行って欲しい
んだろう。楽屋から誰か出てくるのを待って、サインをもらおうという人もいる
はずだが(実際、レスター・チャンバーを待ち構えてサインしてもらっている
人もいた)、スタッフとしては邪魔だろう。
2度目にスタッフから質問を受けたとき、キリがないと思ったのだろうか。
ジャーメインさんが、予備の腕輪を僕につけてくれた。
「今度何か言われたら、これ見せてやりなさい!!」と、おどけた調子で言う
ジャーメインさん。いい人だ。
さらにしばらく待った後、ジャーメインさんに連れられて楽屋へ。ステージ裏の
階段を上ったところに、それはあった。慣れない雰囲気に気おされながら、そっと
楽屋に入った僕の目にまず入ったのは…ああ!ジョン・スティールだ。一瞬目が
会ってしまい、ジョンは「あれ?」という顔をしていたように思う。ほんの少し
だけでも、覚えていてくれたのだろうか。そして…
「やあ。」
ヒルトン・ヴァレンタイン!僕のことを、覚えていてくれたのだ。こんなに
嬉しいことはない。ヒルトンが差し伸べてくれた手を握って握手…と思ったら、
なんと旧知の友人たちが再開したかのように、両の腕で抱きしめられてしまった。
そこまで歓迎してくれるなんて、感無量だ。そして、ジャーメインさんの厚意で
一緒に写真まで撮ってもらった。
このとき、楽屋に他のメンバーがいたかどうかは、よく覚えていない。ただ、
もう一人…そう、エリック・バードンが入り口から一番遠い所にいて、関係者
らしき女性と何やら話をしていたのは覚えている。
「…エリックとここで話す機会は、ないかな…。」
そう考えて、半ば諦めていた。すると、なんとジャーメインさんがヒルトンに
こう言ってくれたのだ。
「エリックに会わせてあげましょうよ。彼は日本から来たのよ?」
…なんていい人なんだ…。
実際、僕一人ではエリックの傍に近づくことすら躊躇われる様な雰囲気だったから、
本当に有難かった。そして、ヒルトンのおかげで、僕はエリックと話をすることが
できた。
正直、怖かった。数年前、香港で無理やりインタビューしたときには、随分と迷惑
そうだったし…。何と言ったらいいかも、まるで考えていなかったから。
「日本から来たファンだ」とヒルトンに紹介され、エリックの前に。僕を見てまず
エリックが言ったのは、次の一言だった。
「どの街から来たんだい?」
− そのとき、僕は確信した −
エリック・バードンは、僕のことなんか覚えちゃいなかったのだ。