ハリウッド〜レコード屋巡りを終えて、一旦宿屋へ。帰りがけに買ったソーダで
まずいパンとでかいチキンを流し込み、食事終了。疲れていたので、夜に備えて
ベッドにごろりと横になった。このとき、数時間ほど寝たのか、それともだらだら
とマンガでも読んでいたか、それはよく覚えていない。この日のコンサート開演は
前日よりも1時間遅かったので、宿についてから会場へ向かうまで3〜4時間ほど
の余裕があった。だから多分、寝たのではなかったかと思う。
「昨日は開場から2時間も待たされたから…開演時間ぎりぎりに行っても、
大丈夫だろう。それに、早めに行った所で何があるってわけでもないし。」
前日のカッコ悪い行動で少しヒネていた刀舟、この日はなるべくぎりぎりに行って、
ライヴが終わったらとっとと帰ってしまおうかなどと考えていた。今回、自分の力が
至らずに取材許可を取ることはできなかった。そして香港のときのような無鉄砲な
気力は、このときの刀舟にはかけらほども無かった。ただの1ファンとして、ライヴ
を楽しんでくればそれで十分だ。エリックに、ヒルトンやジョンに会う?デイヴに話を
聞いてみたいと思わないのか?
思うさ。でも、このときの自分にはそんな気力は無かったのだ。それに、香港では
結構エリックに迷惑がられた。それが僕の心につらい思い出として深く突き刺さって
いたのだ。弱い。
「…そろそろ、出かけるかな。」
8時頃になって、ようやく宿を出発。うまくバスに乗ることができれば、20分も
しないうちに会場に着くはずだ。
昨日はまだ明るいうちにバスに乗ったから、まだ危ないという雰囲気ではなかった。
しかし、この日は既に夜。「気をつけろー」「危ないよー」と、いろんなガイドブック
が脅かしてくれるロサンゼルスの夜だった。
「しかしまあ、人気のないバス停とかでじーっとしているのが危ないということ
なのではないだろうか。」
勝手にそう解釈した刀舟、目的地へ向かうバスがやってくるまで、ひたすら歩く
ことにした。どういうことかというと、つまりバス進行方向に向かって、バスが来る
まで歩きつづけたのだ。「そんなことをして、バスに追い越されて乗り過ごすことに
ならないのか?」…そう…妙にそうならない自信があったのだ。根拠のない自信ほど、
怖いものはないのだが。
歩く、歩く。ひたすら歩く。ものの5分も歩けば、既にウィルシャー・ブルバード。
よし、トランスファー節約!続いて、ウィルシャー・ブルバードを歩く。歩く、歩く。
……
「…冗談だろ?」
ものの15分、進行方向に向かうバスには1台も会わずに歩いていた。これはつまり、
最初のバス停でずっと待っていたら、15分はそこでじっとしていたかもしれないって
ことだ。
「さすがに、ここらでバスを待つかな…。」
比較的明るく、見渡しのよいバス停でバスを待つことにした。この場所なら、誰か
怪しいのがいてもすぐにわかるだろうと考えたのだ。
止まると死ぬので、うろちょろしながら待つこと数分、ようやくバスが到着。
なんとか開演予定時間には間に合いそうだ、そう思ってバスに乗り込んだ。夜の
バスは危ないというが、なに、それは深夜の話だろう。この時間なら、きっと家に
帰る途中の普通の人達が乗客に違いない。そう思って周りの乗客を見てみると…。
「……黒人とインド人の男しかいない……。」
偏見だ、と怒られるかもしれない。でもはっきりと言えるのは、
ということだ。
しかしまあ、落ち着いてよく見てみると、少年も一人だけいる。もちろん黒人
だが。いやー。同じ乗り物なのに、昼間とは随分雰囲気が違うものだ。ちょっと
ヘソの辺りに力を込めて、ピリピリしながら会場へと向かう刀舟だった。
会場にて。
さて。この日、会場に到着したのは開演時間よりも10分遅い8時40分頃。既にライヴ
が始まっている可能性もあったが、前日の段取りから見てそれはまず無いと思った。
会場へ入ってみると…。
「ふん…やっぱり、まだなーんも始まっちゃいない。」
まあ、ライヴなんてそんなもんだろう。どうせ座れる席があるわけでもないし、
前の方にいたらいたで狂ったように踊りまくるおねーちゃんたちを避けて観なければ
ならない。前日は、その手の迷惑な人に随分と閉口、避けてるだけの自分が後ろの
おばちゃんに文句言われるなど、面白くない目にも会ったのだ。適当に、ステージ
全体を眺められるようないい位置に陣取ることにする。
ライヴの途中で憚りは嫌だと思い、まずはお手洗いへ。1ドルするタオルで手を
拭いて、会場内のフロアーへ。段差のある場所に適当に腰掛け、ほけーとステージ
を眺めていた。思わず、あくびが出る。そんな腑抜けた刀舟の所へ、一人の女性が
やってきた。…昨日、一緒に車に乗ったカーリー・ヘアーのご婦人だ。
「探したわ!昨日、フィルがあなたを私たちのホテルに連れて行ってくれ、と
言った意味がわかったの。昨日あのままホテルにいれば、あなた、
そういう理由だったの。」
…………………………
な…な…何ぃ〜〜〜〜〜!!