12.オリジナル・アニマルズ

5月11日、コンサート初日。

 実を言うと、この辺のオーダーがどうなっていたのか、既にうろ覚えになっている。
 幸い、曲目と曲順だけはメモしておいたので、細かい話はともかく、どんな曲を
 演奏したか、くらいは述べておくことができる。

 ゲスト達の歌が一通り終わってから、再びエリックの歌に。バンド・メンバ−の
 構成はよく覚えていないが、いつもとは違うオーダーだったと思う。演奏曲目
 は、「Heart Attack」「It Hurts Me, Too」「The Road」の3曲。いずれも80年
 頃の映画「Comeback」で使用された作品で、なかなかの佳曲。80年代のエリック
 もフォローしている人なら、納得の選曲だ。もっとも、この時期の曲を3曲
 演奏というのは、少し中途半端な気がしないでもなかった。何故なら、ここ数年
 のレパートリーは60年代のヒット曲がほとんどだったし、それ以外の曲を演奏
 するならば新曲か、もっと最近の作品を演奏するのが今までの傾向だったから。

 「この時期の曲目が、人気が高くてリクエストでもあったのだろうか?
  有り得るな。エリックとしても、それほど抵抗のない曲だったのかも
  しれないし…。」

 パフォーマンス自体はなかなかのもので、少し下がっていたテンションがまた
 じわりじわりと上がってきた。予想外の選曲に、少し浮かれていたのもあった
 だろう。

 ただ、エリックがアンチョコを見ながら歌っていたのは、実に悲しかった。
 昔からこういう所のある人らしいけれども。

 3曲演奏し終わったところで、再びバンド交代。本日最後のオーダーは、エリック
 の還暦を祝うに最も相応しい人達…オリジナル・アニマルズのメンバー登場だ。

 先にも姿を見かけた、オリジナル・ギタリストのヒルトン・ヴァレンタイン。
 すっかり老け込んでしまったけれども、年相応のカッコよさがある。今も昔も
 アニマルズ1の伊達男だ。オリジナル・ドラマーのジョン・スティール。見た
 目は、普通のおじさん。この人と会って話した印象は、本当にいい人。若い
 頃の外見と、一番変わっていないのはこの人だ。そして、アラン・プライスの後任
 としてオリジナル・アニマルズのメンバーとなったキーボードのデイヴ・ロウベリー。
 言われなければわからないくらいに外見が変わっている。この人の印象に
 ついては、後に詳しく述べる。

 「…そうか…俺、オリジナル・アニマルズを観ることができるのか…。」

 もちろん、既に故人となったチャス・チャンドラーはこの場におらず、
 ベースは現ニュー・アニマルズのデイヴ・メロスが担当している。もっと
 細かいことを気にするなら、「オリジナル・メンバー勢揃いなら、アランは?」
 ということになるのだが…そんな細かいことをここで気にするのは、
 野暮というものだ。

 考えてみれば、ヒルトン、ジョン、デイヴの3人は、アニマルズ2として
 エリックとは別のバンド活動を行っている。そのこと自体は、エリック
 としては面白くないだろうし、エリックがニュー・アニマルズを名乗る
 ようになったことは、他の3人にとって愉快なことではないだろう。だから、
 僕はオリジナル・メンバーが再び同じステージに立つというのは難しい
 のではないかと思っていたのだ(メンバー同士の個人的な付き合いは
 ともかくとして)。

 だから、ここでオリジナル・アニマルズの再結成が実現したことは、
 実に感無量。なにしろ、後追いの僕は83年の再結成ですらこの目で見る
 ことはできなかったのだから。

 演奏曲目は、「悲しき叫び」「CCライダー」「ブーン・ブーン」「Let It Rock」
 「朝日のない街」そしてもちろん「朝日のあたる家」の6曲。

 一曲目の演奏が終わった所で、エリックのメンバー紹介。ヒルトン・ヴァレンタイン
 のことを未だに「パンク野郎」呼ばわりしたり、天を仰いでチャスの名前を呼んだり
 …というのには正直な話、少し退いた。しかし、演奏にはノリっぱなしだった。
 意外かつ嬉しい選曲だったのは、4曲目の「Let It Rock」。デビュー前のライブ盤
 で演奏されていたチャック・ベリーのこの曲、実はかなりのフェイバリットなのだ。
 密かに人気のある曲だったから、やはりリクエストも多かったのだろうか?企画っ
 ぽいのは気に食わないが、そんな野暮な考えは後から出てきたもので、このときには
 感動が内容を越えていた。最後の「朝日のあたる家」(これは、アンコールだった
 かもしれない)では、ロビー・クリーガーが再び登場。本日の目玉勢揃い、大盛況
 のうちにコンサートは幕を閉じたのだった。

続く