10.嘆きのインディアン

 はて。

 どんな具合に軍艦を後にしたかは既に覚えていないのだが、
その入り口付近に使用済みの戦車が置いてあったのは覚えている。
絵的に綺麗だから、その大砲を見ながらかの地を後にしたことに
しておこう。

 次の目的地は、やはりS吉が「前から気になっていた」という
インディアン博物館。が、そこへ移動する前に、軽く休憩がてらに
ハードロック・カフェへと寄ることにした。目的は、バイト先
の先輩に依頼されたジミヘン・ギターの写真入手。その他にも何か
面白いものがあるかもしれないと期待して、カフェへ向かった。

 「…これがハードロック・カフェか…。」

 正直な所。あまり、面白い外見ではなかった。後に立ち寄った
ナッシュビルでも見かけた、でかいギターの看板。でも別に、
なんというか…そう、熱くなるようなものは感じなかった。店内
に入って、カウンター席に腰を降ろす二人。適当に冷たいものを
頼み、何気なくメニューの傍(だったかな)にある、商品カタログ
を見る。…商品カタログ?そう、ハードロック・カフェの…まあ、
キャラクターグッズというか、おみやげものというか、その一覧
だ。確かパーカーだったかジャケットだったか…もしかすると、
ジッポライターもあったかもしれない。まるでJBLのグッズのようだ。
(知らない人のために説明すると、スピーカーで有名なJBLは、その
ブランドでジッポライターとかパーカーとか時計なんかを販売して
いたりする。もっともジッポは見たことあるが、他のものは実物を
見たことがない。余談だが、JBLとはJames Burrows Lancingの略。
決してJames Brown Lancingではない。)

 「がっかりだな。」

 別にニューヨークじゃなくてもいいような雰囲気だ。実際、
他所にもあったわけだが。しかしまあ、期待していたのは店内
の雰囲気ではなく、頼まれ物のギター。これを写真に収めれば
もうここは用済みなのだ。とっとと探すことにする。

 「じゃ、ちょっと探してくるわ。」
 
 S吉にそう告げ、店内をだらだらと歩く刀舟。2階へ上がり、
1階のテーブル席をくぐりぬけ…

 「…無い?」

 ざっと見て回った所、それらしきものは見当たらない。ほぼ一周
したくらいな所で、見切りをつけて元のカウンター席へ。それと
入れ替わりに、今度はS吉が用足しがてらに店内を見て回った。

 「(戻ってくるなり)刀舟、向こう側見てきた?」

 向こう、とは店内にそびえたつ柱の裏側のことだ。

 「?いや、あっちは何も無いやろ思て。」
 「見てきた方がええで。君は特に。」

 …?もしや、そこに目当てのものがあるのだろうか。忠告に従い、
柱の向こう側へ。そしてそこで見たものは、意外なものだった。

わかりにくいが、ERIC BURDON / ANIMALSとプレートに書いてある。

 …これが一体、具体的にどうエリックと関係しているものなのか
とかは未だに全くわからない。というか、写したこのギターが果た
してエリックと関係あるものなのか、すら今では疑問だ(陳列の
仕方がいまひとつ理解できていないし、何より覚えていないから)。

 とにかく、この辺は写真に収めておこうと思い、シャッターを
押す。…と、1枚撮ったところでフィルムが切れたのでカウンター
へ。もう手持ちのフィルムは無かったので、宿を出る前にS吉に
もらったフィルムをカメラに収めようとする…が、うまくはまら
ない。

 「…あれ?」
 「貸してん。」

 あまりの不手際を見かねたか、S吉が指導に乗り出した。

 「まずこうせな。そんで…。」

 先にフィルムのツメ(?)をはめてから本体を収め、パチンと
フタを閉めるS吉。ふむ、そうするのか(僕は普段、逆の手順でやる)。

 後は同じ場所の写真を数枚、違う角度から撮影して終了。他に
何があったとか、全く覚えていない。あまり面白くはなかったうえに
目的の写真も撮れなかったが、なに、休憩にはなったからこれでいいのだ。
面白いものは、インディアン博物館に期待することにしよう。

 インディアン博物館(という名前でいいのかは最初からわかっていない)
は、S吉のマンションから歩いてすぐの場所。なので、もしかしたら一旦
部屋に戻ったかもしれないのだが、そこで面白い話があるわけでもない。
直で博物館に向かったことにする。

 「…ふう…む。」

 建物は、博物館というだけあってまあ、わりと大きかった。僕はそれほど
博物館だの美術館だのへ行くクチではないのだが、中の造りは今までに見た
同種のものに比べて、それほど目立った違いもない。順路に従って展示物を
見ていくだけの、どうということのないものだ。こうなると、そこが面白い
かどうかは展示物にかかってくる。

「トマホークないんかな?トマホーク見たいよね。」
「見たいね。」

 展示してあったものは、インディアン…いや、今はネイティブアメリカン
か。その彼らが狩猟に使った道具、民具、着物等。それなりに興味はあった
が、いまひとつ盛り上がらない。なんというか、すべてが地味すぎたのだ。

「トマホークないなあ?トマホーク。」
「ないねえ。」

やや意気消沈しながらも、ようやくトマホークを発見。しかし…

「もっとないんかなあ?トマホーク。」
「そうねえ。」

どうも、満足できるような「これがトマホーク!」というものが見つからない。
そうこうしているうちに、妙な代物を展示したスペースに到着。

「…これ、何に使うたんやろ?」

形は…そう、アゲハ蝶のサナギ。あれのてっぺんに丸い穴を空けたような
代物。デザイン、大きさはまちまちだが、いくつか並べて展示してあった。
ふ、と周りの壁を見回すと、これを実際に使用している写真が掲げられて
いた。

「ああ、子どもをおんぶするときの!」

…何と言うのかは知らないのだが…。

形状、および使い方は図の如し。

しかし、この形状だと子どもは完全に自由を奪われ、視界はあさっての
方向を向いていることになる。いや、見えないところは親兄弟が面倒を
見るからいいといえばいいし、おぶられているときに視界がおぶっている
人から見て後ろになっているということは別にどうってこともないのかな
とは思うのだが…。

なんか、違和感がある。というか、これで顔を出している子どもは、
なんだか可笑しい。だからこそ、帰国後わざわざ絵のネタに使ったのだ
けれど。

最後に、なにやら無理やり用意したような土産物コーナーへ。その場の
雰囲気は、まるで田舎町に新しく出来た公民館とでも言おうか…。もちろん、
買うものは無かった。

「…。」
「イマイチやったな…。」

インディアン博物館。残念ながら、ハズレ。

気を落とさずに、続く。