さて。半ば強引に(なんて言っては失礼だが)座ることを薦められ、腰を下ろしたところで、
ようやくステージにバンドが登場。待ちくたびれていたのは僕だけではなかったのだろう、
左斜め前方に立っていたでかいおっさんが「イェー!!」と声を張り上げていた。うめくような
ギター・イントロが鳴り続ける中、フィルさん(だったと思う)がバンドを紹介する。
「Please Welcome, The Canned Heat!」そして、ギターとハーモニカがべっとり耳にこびりつく
この曲は…そう、'On The Road Again'!
キャンド・ヒート。カリフォルニアを拠点に活動していたブルーズ・バンド…くらいの
知識しか、このときは持ち合わせていなかった。オリジナル・メンバーのうち、ボブ・
ハイト(The Bear)、アラン・ウィルソン(Blind Owl)、ヘンリー・ヴェスタイン(The Sunflower)
の3人は既に死亡。後で調べてから知ったけれども、どうも現在残っているオリジナル・メンバー
はドラムの"Fito"デ・ラ・パーラのみ。この手の名前だけが残っているような存命バンドを嫌う
人たちなら、嫌悪感すら抱くかもしれないけれど。
だけど、良かった。素直に、いいと思った。往年の代表曲を中心にして、新しい曲を織り交ぜる
姿勢にも好感が持てた。
セットリストは、(一部自信が無いけれど)次の通り。
On The Road Again
Bullfrog Blues
Wait and See
Black Coffee(今度出すアルバム用の曲…と言っていたと思う)
Going Up The Country
Phycedelic Stories(?)
Bad Trouble(?)
Harley Davidson Blues
…と。ハーレーといえば、エリックは結構なバイク好きで、ハーレイにも乗っていたっけ…。
「このままキャンド・ヒートだけで終わったらちょっと勿体無いな」などと思っていたところで、
ようやくエリック・バードン登場。
「エリック!今宵、キャンド・ヒートは貴方のものだ。」
そんな言葉で迎えられたエリックが歌い始めたのは…
「マディ・ウォーターズを歌いたい。'Coz I'm A Man!!」
それまでの、ちょっとルースな魅力のあるブルーズから一転、熱っぽいブルーズへ。できれば
この曲ではリラックスして歌うエリックを聴きたかったけれど…。まあ、悪くはない。
そのままキャンド・ヒートをバックに何曲か歌うだろうと思っていたのだが、エリックは
1曲だけであっさり退場。ステージでは
「エリックはどうも疲れたようだ」
などと言っている。おいおい、キャンド・ヒートに「貴方のもの」と言わせておいて、1曲
だけかい。このマッチングでどんな曲が聴けるんだろうと楽しみにしていた僕は、がっかり
してしまった。そりゃあもちろん、キャンド・ヒートだけでも十分いいステージをやっていた
けれど。
そしてキャンド・ヒートも最後の一曲、Let's Work Togetherを演奏してステージ終了。
…なんと、また「待ち」に入ってしまった。
「…今日はなんか、さらに段取り悪いような…。でもまあ、こんなもんか…」
次のセットが始まるまでまたしばらくかかりそうだったので、会場内をあちこちうろついてから
さっき座っていた所とは違う場所に腰を下ろす。いろいろ世話を焼いてくれたご婦人には本当に
申し訳ないけれども、やはりどうにも落ち着かなかったので…逃げたのだ。
よいしょ、と腰を降ろしたところで、左隣にいたカップルの女性が話し掛けてきた。
「ねえ、キャンド・ヒートは観たかしら?」
「はい?ええ。」
「良かったかしら?」
「ええ、良かったですよ。」
「誰か、ゲストはいたの?」
「え?」
「ロビー・クリーガーも出るって聞いたんだけど。」
「ああ、昨日出ましたよ。」
「まあ、昨日だったの。エリックは?」
「貴方たちは、今来たところ?」
「ええ。」
「エリックは、キャンド・ヒートと一緒に一曲、I'm A Manを歌いましたよ。」
「まあ、そうなの。」
そして彼氏に向かって「ねえ、ロビーは昨日出たんですって!!」と楽しげに話す。
するとそれまで彼女のさらに左隣で話を聞いていた彼氏が、ちょうど3人が
輪になるような形で刀舟の正面に座り、こう言ってきた。
「君はどうも、ずっとファンだったみたいだね。」
「(何で分かる?)…え、と。ええ、まあ。」
「でも、君はそんな年には見えないな。25〜30の間って感じだけど。」
「(おお、年相応に見られた。嬉しい。)そう。僕は、その…。」
「クラシック・ロックが好きなのかい?」
「そう、その通り。」
すると、彼女がにこやかに
「キャンド・ヒートはクラシック・ロックになっちゃうかしら。ねえ、あなたは
どっちをもっと観たい?」
「え?」
「キャンド・ヒートとエリック・バードン。どっちのステージを、もっと観たい
と思うかしら。」
愚問だよ、レイディ。
「どっちも観たいけれど、どちらか一方というなら、エリックです。」
そう答えたことで、ある程度満足したのだろうか。恋人たちはまた別の話題へと移った
ようだった。なんだか、いいカップルだ。
それから、待つことさらに10数分。ようやく次のセットが始まった。しかし…。
申し訳ない、この辺、記憶が曖昧なのだ。
確か、チャンバー・ブラザーズにレスター・チャンバーが出てきて歌い始めたのだが、
曲目がきちんと出てこない。しかも、途中で違う人が出て来て「悪魔を哀れむ歌」を
歌ったりしていたのでかなり僕の記憶は混乱している。
ただ、2曲ほど演奏した後、レスターがエリックを迎えて「Time Has Come Today」を歌った
ことは、はっきりと覚えている。というか、この曲でようやく飛んでいた意識が戻ってきた
と言うべきか。(正直、誰か違う人の「悪魔を〜」は、あまり良くなかった。)
「おお、いいなあ!!やはり、こういうジョイントを観たいよなあ。」そう思った。ところが。
この一曲を終えた所で、またもやエリックは控え室へ。さらに、せっかくやってきたレスター
も終了。…ちょいちょい、あなた、2曲(だと思う)しか歌ってないぜ?…いや。ゲスト
だから、そんなものなのか。
そして、再び「待ち」。
「何ていうか、こう。もうちょっと、その。」
せっかくに盛り上がったテンションをわざわざ下げられているような気がした。