4.食

  部屋を移り、改めて一息ついた所で、少しお腹が空いてきた。
  カップ麺はあるけれども、これは夜食用だ。今食うのは勿体無い。

  「買出しに行くか。」

  刀舟が止まった宿の敷地には軽食堂もあったけれど、そこで食事
  を取るのはまたの機会にするとして、まずはスーパーで買い物を
  することにした。実に都合のよいことに、歩いて一分もしないところ
  に大きなスーパーが二つ、もう少し離れたところにも一軒。実に
  便利なロケーションだ。さて、それでは行きますか。

  車社会のロスらしく、いずれのスーパーも店の前には広い駐車場。
  当然、車も沢山止まっている。こういう風景は、郊外に住んでいる
  人なら見飽きた光景だろう。僕も、田舎にいた頃にはこういうだだっ
  ぴろい敷地にある店でよく買い物をしたものだった。

  「田舎の都市って感じだなー。」

  心底、そう思った。その考えは、ニューヨークに行ってから
  益々強くなったのだが、それはまた後で述べる。

  車が通るにはともかく、人が通るにはなんだか不便な通路を
  通って、一番近くて大きなスーパーに入る。入り口には自販機、
  小さなおもちゃの入ったガチャガチャや誰がこんなものを欲しがる
  のか、と思ってしまうくらいにしょぼい景品の入ったユーフォー
  キャッチャーが置いてある。

  店に入ってまず「ぎょっ」としたのは、回転ドアみたいな鉄の…
  なんと言ったか、よく駅の改札とか遊園地なんかの入場口で
  使われている代物が売り場とレジの間にあったことだ。入った
  が最後、会計をすませなきゃ外へは出さないよ、という意思表示
  に違いない。うーん。ひやかしの客は許さないんだね?

  まあ、買い物することは決まっていたから、迷わず店内奥地へ。
  買うものは、もちろん食料と水だ。

  「まず、パンと水だな。それから、小腹が空いたときのスナック
   と…ドーナツくらい、買っておくか。」

  そこで、日本でよく見る黒糖パンに姿形の良く似たパン8個入り
  一袋、6個入りドーナツ一箱、500ml相当の水2本、ソーダ1本を
  カゴに入れる。そして、スナック菓子なのだが…。

  「…なんで、こんなでかいのしかないんだ?」

  でかい。日本でよく買う、100円100g相当の袋が見つからない。
  たまたまこの店だけなんだろうけれど…ううむ、仕方がありません。

  「ポテチとドリトス、買っとくか。」

  いずれもビッグバッグサイズ。今から考えるとなぜ一袋にしなかった
  のか不思議だが、そこは刀舟、何も考えていない。とにかく、
  これらの品を持ってレジへ行くことに。

  レジの風景なんか、どの国でも同じだ。カゴを抱えた(もしくは、
  カートを押している)おばさん、たまにおじさんとこども。そして、
  順番にレジのベルトコンベアーに自分の買うものを…

  …ベルトコンベアー?

  なんと、皆カゴの中から品物を取り出し、せっせと並べているでは
  ないか。自分の買うものと他人の品物との区別がつかなくなるの
  では?と思ったが、そこはきちんと区分け棒があって、皆他人の
  買い物との間にそれをパシパシ置いていた。レジのおねえさん
  は、それらを会計、終わったら袋に詰めてあげている。うーん、
  この辺は日本の方が効率良さそうだ。

  とにかく、特に不作法もなく買い物終了。そそくさと部屋に帰り、
  早速簡単な食事にかかる。アメリカの宿なら大抵サービスして
  いるコーヒーをロビーでもらい、買ってきたパンとポテチに喰らいつく。
  ばくり。

  「……。」

  …犬も食わない、という言葉があったが、僕はその言葉をこの
  パンに差し上げたい。なんというか、こう…カステラについている
  うすい紙、あれにかじりついているような食感に加え、生小麦粉
  臭い味。コーヒーとスナック無しでは、かなりつらい。

  「これをあと7個食うのか…」

  ドーナツだけにしておけばよかった。そう真剣に思った刀舟だった。

続く