地下鉄 銀座線ストーリー

本日は御乗車ありがとうございます。
ここはお馴染み地下鉄銀座線の事を、ちょっと裏側まで紹介するページです。

 

 ●地下鉄ストアの謎

今やスマホの画面で簡単に検索出来る乗換駅の案内。ちょっと前までは地図を開くしか方法はなかったが、たまたま神田駅のところを見てたら「地下鉄ストア」なるものが…。それは何? 地下鉄ストア?う〜ん気になる!

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東京地下鉄道は開業当初、それこそ押すな押すなの大盛況だったというが、とにかく東京の中心、銀座まで開通しないと、お客さんは減る一方。そこで早くも多角経営に乗り出したのものの一つが地下鉄ストアなのである。

まずは昭和4年、浅草駅雷門出口に雷門ビルを建てて、ここに地下鉄直営食堂をオープンした。続いて翌年には上野駅構内に「地下鉄ストア」を開設、さらに翌昭和6年12月、大阪は梅田の阪急デパートを手本とした上野地下鉄ストアビルを建設した。その後路線の延伸に伴って、神田、日本橋、銀座、新橋に同じく地下鉄ストアを開設する。店のモットーは「どこよりも良い品を、どこよりも安く売る」。

次の増収策は、割引サービスだった。昭和7年に日本橋まで延びたのを機会に「デパート巡り乗車券」を発売。上野広小路−日本橋間で当時普通運賃10銭のところを13銭とやや高めの設定ながら、上野地下鉄ストア、松坂屋、三越、白木屋(元東急百貨店日本橋店)、高島屋を対象とし、普通キップでは出来ない途中下車を3回まで認めた。後に銀座延長時に松屋を追加したが、運賃は据え置いた。これは当時の有閑マダム衆に好評を博したという。
またサラリーマンに対する増収策は、定期券購入者には同時に夕刊引換券を配り、定期券と一緒にこの券を渡すと、タダで夕刊がもらえるという、まるで今のシティホテルのようなサービスだったという。新聞も、報知、毎日、朝日、読売等全紙から選択可能だった。

新橋までの全通時のサービスは、はじめの3日間限定として全線最低運賃(5銭)均一、その上15銭相当のおみやげをもれなくサービスするという大盤振舞いを行った。これも大好評で、全列車3両編成に増結、しかも3分間隔でピストン輸送をやって、用意した98万個のおみやげは全てさばけたといわれている。
こんな事は全部東京地下鉄道が「私鉄」だから出来たことばかり。でもそのおかげで固定客が増え、地下鉄はようやく採算に乗るようになった。しかし東京高速鉄道の開業と東横の資本参加、太平洋戦争、そして営団への再編成を経て、地下鉄ストアの運命は…。

上野地下鉄ストアビルは営団地下鉄本社ビルとなったが、建物の老朽化によって平成2年11月に建て替えられている。また上野駅構内の地下鉄ストアは現在「メトロピア」という名で健在である。

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じゃ、神田駅の「地下鉄ストア」って何?。実は地下鉄ストアそのものは既になくなっているが、その他のテナントはなんと21世紀まで営業を続けていた。神田駅地下鉄ストア開業時の写真は、銀座線で一番新しい溜池山王駅がオープンした時に、コンコースで写真が展示された。

神田駅地下鉄ストアは、平成23年1月をもって最後のテナントが営業を終え、長い歴史を閉じたという。

 

神田駅の地下鉄ストアは、神田駅須田町方面改札口と須田町方面6番出口の間の通路にあった。
日中は余り人通りがない。なにやら寂しく、物悲しい雰囲気があって、天井も低く、暗い。

取材時、テナントは美容室、歯科、雑貨屋(靴屋?)が残っていたが、歯科は診療しているのかどうか判らない状態。ただしどれも開業当初と余り変わっていないようで、レトロ感が漂っているが、…やはり暗い。

これも創業以来なんだろうと思うが、店の名前が全部「地下鉄ナントカ」なのが面白い。

奥の雑貨屋はますます暗く、店の中にある看板は字体からしてレトロだった。 このほか、既に閉店したのだろうと思われるブリキで囲ってあるスペースも何か悲しいものを感じた。

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ということで、戦後とっくに撤退したはずの地下鉄ストアは、意外な形で生き残っていたようだ。実は東京地下鉄道の時代にテナント契約したものに関しては、営団地下鉄、さらに東京メトロとなって資本が変わったものの、お互いに契約を解消しない限り、全てそのまま有効となっていたのが理由。それがこの神田駅の「幻の地下鉄ストア」だった。


テナントが撤退して、空室となった場所は駅事務室になるという話が持ちあがりましたが、まだ実現していないようです。とにかく一見の価値はあると思います。ちなみに須田町6番出口の「地下鉄須田町ビル」は取材当時取り壊したばかりで空地になっていました。

次回は、駅が何故出来たのかという話です。

【予告】 上野広小路・三越前の謎

【参考文献】

鉄道ジャーナル 1974年10月号 特集「日本の心臓 東京の鉄道 第一部」 (株)鉄道ジャーナル社
鉄道ジャーナル 1974年11月号 特集「日本の心臓 東京の鉄道 第二部」 (株)鉄道ジャーナル社
鉄道ファン 1986年11月号 特集「日本の地下鉄1986」 (株)交友社
鉄道ファン 1991年9月号 特集「営団地下鉄50年/6000系電車20年」 (株)交友社
鉄道ファン 1994年1月号 特集「全国地下鉄事情」 (株)交友社
鉄道ファン 1998年6月号 特集「地下鉄ネットワーク」 (株)交友社
私鉄電車のアルバム 1A (株)交友社
ぴあMAP 東京・横浜 '98〜'99 ぴあ(株)

【協力】

帝都高速度交通営団(現:東京メトロ) 地下鉄博物館 地下鉄互助会(現:メトロ文化財団)

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