オフ車一般について


###

オフ車はシンプルで軽い。エンジンのピックアップも良く、ハンドリングも穏やかだ。サスペンションが長く、乗り心地もよさそう。積載性などのユーティリティにも優れ、値段も比較的安い。シート高さえ我慢できれば、公道バイクとして、かなり有望に見える。

しかし私は経験上、公道ロードをフィールドとする限り、オフ車はあまりお勧めしない。

というのは、
「オンばかり走るのに、オフ車を選んでもいいことは少ないわよ」
といった意味合いだ。
「間違っているわ」とか「危ないわよ」などと言っている訳ではないので、その辺りを誤解のないよう、何卒ご承知置き頂きたく。


###

当たり前だが、オフ車は、オフロードを走るためにある。オフロードでの性能を最優先するのが、普通の在り方である。故に、一般舗装路での特性が、ある種のズレを生じるのは致し方ない。

オフ車の諸特性が、一般舗装路での快適性に結びつく(結び付ける)例もなくはないのだが。いいことの裏に、悪い面が隠れているのが技術というものでもある。平均点は上がらない例が多かったように思う。


###

一例として、足周りの設定を挙げよう。

バイクは、タイヤがグリップして、車体を押してくれないと動かない。
バイクとタイヤを結ぶのは、サスペンションである。

タイヤは、面圧がかかっていないと、グリップしない。
タイヤに面圧をかけるには、サスを沈めて荷重をかけないといけない。
しかし、タイヤがグリップして車体を押してくれないと、サスは縮まない。
つまり、タイヤのグリップとサスの挙動は、相補的な関係にある。

簡単に言うと、普通に直線を流している時と、ブレーキングやコーナリングで車体が安定するまでの間、サスが伸び沈みしている最中、そこが一番、ヤバイ時間なのだ。

オフ車は、この時間が長い。

オフロードでの操縦安定性を見据えた、対応域の広い足周りが、かえって不安定をもたらす。そんな訳はないだろう、と思われるかもしれない。

しかし、オフロードで求められる衝撃吸収能力とグリップ特性は、オンロードでのヤバイ状況(雨や砂など)への適用能力とは、かなり違う。

例えば、雨が降り始めのヌルツルの路面、車重が軽くスタティックでタイヤの面圧が低いオフ車は、もうブレーキレバーに触れた瞬間にロック、スリップダウンとなる。サスを沈める手段がないのだ。というのは極端な例だが、かなり以前に確かにあった実例だ。(よーするに、スッ転びました、ハイ。)

滑りながらも穏やかに対処が効く「オフロード」と、ギリギリの対処が待ったなしで求められる「公道ワースト条件」は、別モノなのだ。


###

ステアリングヘッドが立ち上がった、独自の車体のスタイルにも、功罪がある。

オフロードでは、抑えが効いて振り回せもする便利な構成だ。
一般道でも、ロール特性は穏やかで走り易い。

しかし、ハンドル〜シートのコントロールエリアが接地面から遠く、微妙な操作感が得られない。また、速度が乗って来ると、挙動がかなり重くなる。

例えば高速道路では、安定していてラクかと言うと逆である。障害物をとっさに避けるような挙動を起こしにくい。しかし車重は軽いので、横風等の影響は受け易い。さらに排気量によっては、エンジンの出力に余裕がなく対応が限られる。外乱は受けるが対処ができない。これは疲れる。

上体が起きたポジションは見晴しはいいのだが、風圧をもろに受けるので結構辛い。また、体重を尻の一点で支えているので、(シートの幅が狭い車種では特に)長距離では尻も辛い。

実際、オフロード車で高速を使って足を延ばす、というシチュエーションは、まとまった休みをつぎこめるならいざ知らず、適当に疲れた中年サラリーマンが、たまの日曜に遊べるレベルでは、全くないと思う。

やはり、オフ車は、オフロードを目的に選ぶべきなのだ。公道ロードはオフの往復に走るだけ、と割り切って、それなりを心得て走るなら、危険なことはほとんどない。


###

以上のような状況は、基本的に、モタードも同じだと思う。足周りが固められて多少はいいかな、といった程度で、オフ車のネガを消し去る構成にはなっていない。どころか、タイヤの小径化で、ステアレスポンスに厳しさが増しているようにも見える。例えば、街中で、突然のアクシデントを避ける!その瞬間の対処には、良く出来たオンロードモデルの方に、まだ分があるように思う。

また、どうも、当初は可能性を広げるはずだったはずのアプローチが、かえって間口を狭めているように見えることもあるのも、気にかかる。

まだ発展途上のカテゴリーではあると思うが、現状では、その分野のレースか、ご近所の練り走りか、曲芸といった、特殊用途機に留まっているように私には見える。

オフ車も単価を上げたいというベンダサイドの意向もわからんではない。が、もう少し真面目な開発がされるようなら、いずれは本気で評価したいと思ってはいる。


###

さて、私自身、オフ車にも随分乗ってみた。
公道オンロードで使った感触を、カテゴリー別に簡単に列挙してみよう。

2st.125ccはちゃちかった。DTは新車からホイールが偏心していたし、中古のRAは大して距離行ってないのにクラッチが滑ってて、トルコンのクルマのように「ブイ〜ン!」なんか吹け上がるだけで、ほとんど加速しなかった。お値段安く、車重が軽く扱いに気遣い不要で、玩具としては面白いカテゴリーだった。

2st.200ccは厳しかった。エンジンはパンパン→パキーンと元気良く、車体は軽くて走りは爽快。が、レプリカと張れるほどの戦闘力はない。気合いを入れて使うと、エンジンもサスもすぐに減った。寿命の短さは、DTでもKMXでも変わらなかった気がする。

4st.250ccは中途半端だった。エンジンの特性は扱い易かったが、意外と取り回しは重かった。始動性に難があるモデルも多く(XL系は苦労していた)、しかもキックだからオーナーは辟易していた。コトコトと旅して歩くには必要十分な性能だったが、別にこれだからすごく何が、ということは特になかったし、耐久性はやっぱりなかった。唯一の例外的な乗り味を示したのはAX-1 だが、これは別の機会に詳述したい。

パリダカの流行以降、カウル付き大型のオフ車も供給されている。大型ツインのモデルはそれは巨大で(憧れだった600ファラオが子供に見えた)、またがる(よじ登る?)のも億劫な代物だ。600ccクラスのシングル車は、実はヨーロッパではマーケットが確立していて、随分とこなれた感触のモデルが多いのだが、実際に使ってみると、扱い易くて汎用的、峠ではかったるく、高速ではさほど飛ばせない。よくも悪くも、全てが中庸だった。チューブタイヤでオイル容量も少なく、維持費は安くて助かったが。中距離通勤には合ってるかな。

オフ車といっても守備範囲が広い訳ではなく、クラスなりの得手・不得手があり、値段なりの品質でしかない。全くもって、普通の国産車だった。


###

公道バイクの趣旨からはちょっと外れるのだが。

自然へのインパクトを小さくし、かつ奥深くまで堪能する類の「林道ツーリング」は、年齢性別にかかわらず息長く楽しめる、素晴らしい趣味になりうると思う。二輪界で珍しく、整備・発展の余地のある分野でもあるかと思う。

オフ車も、性能面での先鋭化が進み、刺激性がまず鼻につくモデルが目立っているように思う。その反面、オフ車に荷物の林道ツーリストは、以前ほどは見かけないようだ。こういった状況に、歯がゆい思いをしている方も、多いのではなかろうか。

トライアルも含め、オフロードバイク全体の構成と醸造に、もう少し実直さが必要だと思う。(ねえ万澤さん?。)



ombra 2006年 3月


→ サイトのTOPに戻る

© 2005 Public Road Motorcycle Laboratory