YAMAHA EC-02

にくめないスタイリングよね。(笑)


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バイクが電動になったら、どんなだろう。

既にマン島TTあたりでは電動クラスもあったりして、事態はそれなりに進展しているようだが。情報はほとんど入ってこない。

動画投稿サイトあたりをまさぐれば、映像は見られる。しかし、それがどんな感じか、問題は何で、将来どうなって行きそうか、そんな「感触」は、想像するしかない。

ちと歯がゆい。
できれば、自分で触れてみたい。

チャンスは突然、やってきた。
電動バイクを持っている知人が、長期試乗を快諾してくれたのだ。


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発売は、2005年とかそんな。
まだ、エコのトレンドに先駆けることに、夢が持てた頃だ。
そのせいか、多分に贅沢な作りになっている。

何か意味ありげなスタイリングだが、実は意味はない。(笑)
逆三角形のフレームは、アルミダイキャストを奢っているが、中身はただの空洞で、物入れのスペースになっている。(シート下からアクセスする。充電器や、スペアのバッテリーがちょうど入る大きさ。)

バッテリーは長い矩形で、結構な大きさだ。後輪側に沿う形で、斜めに装着されている。レイアウト的には、多くの電動アシスト自転車と同じイメージだ。取り外して、部屋で充電できる。充電器も大柄で、冷却ファンを備えた本格派(?)だ。コンセントに突っ込むと、ファンがフィイィィ〜ン!と力強く回って、なかなかの「頑張ってます感」を醸し出す。(お前ホントにエコか?とも。充電器が電気食ってどうすんのよ。)ちなみに、電池は買うと¥5万もするらしい。

モーターユニットは、後輪のハブに直に配置され、遊星ギアを通じて後輪を駆動する。いわゆるインホイールタイプだ。コントローラーもすぐ近く、スイングアーム内に配置される。

と機構的に真新しいのは、この辺りまで。

回生装置は無い。「車重が重くなるし、大して効かないから」とのことだが、設計年度のせいでもあろう。今となっては、既に自転車にも装備されている機構だし、これがなければ、エコ的な説得力には、かなり欠けると思うのだが。

インターフェース/操作法は、基本的に、通常の原付スクーターそのままだ。異なるのは、通常のタンク?上面にある、小さなスイッチだ。これで、いろいろファンクションを選ぶのだが、主な機能は走行モードの選択である。

モード変更の制約は特にない。走行中にも変えられる。

ライトは付きっぱなし。停止時は気を使って、少し暗くなる。停止状態は、ピー、ピーと電子音が鳴る。スイッチ入ってますよ、の自己主張らしい。ブレーキを握ると止まるのだが、ストップランプが点くので、電池が減っちゃう・・。

ハンドルは折りたたみ式で、収納に便利、との触れ込み。クルマに積んで、出先で遊べます・・・とも。なにせガスもオイルも入ってないので、横倒しの搭載も大丈夫なんだそうだ。

満充電走行距離のスペック値は「最大」40kmである。


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原付にしても、小さいバイクだ。ホイールベースも短いし、タイヤも小径。実にクルクルとよく曲がる。街角で遊ぶには面白いシャシだ。ニーグリップも一応できるし。

パワー感は、あんまり無い。(原付だからね!。)一般的に、モーターというのは出足を強く作れるらしいが、そういったこともない。電車の発進時のように、「ホントはまだまだ行けるけど、ジェントルに制御して、ネコかぶってますよ感」もない。実直に、これだけしかない感じ。反面、エンジン車のような、回転数に依存する唐突さ猛烈さが全くどこにもないので、実に乗りやすい。
走りながらアクセルをオンオフすると、ワンウエイクラッチがカクカクする感じが、お年寄りが乗ってる電動カート、あれが歩道をヨイヨイと揺れながら増速する、あの感じに何となく似ていて、微笑ましい。

予想通り、とにかく静かだ。
乗り手の方も、思わず、そっと息をひそめてしてしまうほど。
モーターの唸り音のみ。
それ以外のメカノイズや、ロードノイズが、妙に大きく感じられる。

困ったのは、歩行者に驚かれることだ。
音もなしに近寄り、いきなり、ふいと追い抜いていく。
人が座った低いシルエット。
時速30km/hという、微妙な速度。
絶妙に、ビビらせる物体なのである。

実走行可能距離だが、電池が多少タレていることもあり、両モードを適宜に使った結果で、満充電から20km程であった。


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さて、ここからが本題だ。

一番印象に残ったのは、「省エネ感」だった。

電池にある分しか走らない。
出先での補充もできない。
使い切ったら、その場で一巻の終わりである。

充電残量メーターは、目の前で刻々と減っていく。
それは、思ったよりも、なかなかのプレッシャーだ。
自然と、それに準じた走りになって行く。

なるべく惰性で走る。
ブレーキを握るくらいなら、アクセルをひねらない。
そういう走りになるのだ。

はるか遠くの信号のタイミングを読む。
なるべくそこまで、惰性で行く。
青に変わるタイミングに合わせ、止まらずに通り過ぎる。
・・・ほとんど、カーリングをやっているような。

しかしこの状況は、考えてみれば、ガソリン車も同じなのだ。

「右手」は、いくらでも使える。減っても、いつでも補充が効く。
それが当たり前だったから、実は有限のエネルギーをただ一方的に捨てているだけなのだ、という不都合な真実を、あまり真面目に考えずに済んでいただけだ。

電動だろうがガソリンだろうが、同じ車重の乗り物が、同じ速度で走れば、その時に消費される運動エネルギーは変わらない。機関の効率が、多少、変わるだけ。

例えば、プリウスのシステムは、自家用車という大きさが、街中に準じた走行パターンをする場合を想定している。だから、そこで使えば効率が良いし、そこから外れれば、他のガソリン車より効率が悪い場合もありうる。そこで節約される量のが、意味のある量なのかどうかは、より複雑なモノサシを当ててみないとわからない。つまり、プリウスや太陽電池は、それだけでは解決にならない。

その土俵でバイクを作る、ということはつまり、
  我々がバイクで得ているものは何か
  何のために乗っているのか
  何を感じているのか
その目的、大切なもの、思い、そういったものを、より「高効率に」具現化するためのアーキテクチャーとは一体、どういったものになるのか。そこを問われていることになる。

ガソリンも電力も、価格や供給の不安定さが、いよいよ眼前に見え始めた昨今である。それが、以前のように野放図な状態に戻る事は、多分もうないだろう。 値段も上がる一方なのではないだろうか。

多分、我々はもう、既に崖っぷちに居る。

この静かで、ささやかな走りが、そういう緊迫感を裏面に感じさせるにもかかわらず、造りの方は、妙に弛緩しているように思えるのは、気がかりではあった。多分それは、造り手側の意識や意図のせいなのではなく、時代のせいなのだろうとは思うのだが。

EC-02に乗ったのは、まだうら寒い春の初めだった。

何となく、風が余計に冷たいような感じがしたのは、エンジン車と違って、発熱源がないせい、などではないはずだが。


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ヤマハは、EC-02では、市場をつかむことができなかった。リコールを出したことも効いたらしい。電動市場からは一旦、撤退したが、リーマンショック辺りの激震を受けて、再参入したようだ。新型は、もちょっと安く、安っぽく、スクーター然とした、普通の形をしている。

一応、フィーチャー的なアップデートもある。
プラグインだ。

でもこれ、バイクを停めとく場所から届く範囲にコンセントがないと充電できないから、かえって不便だと思うのだが。

それに、やっぱり、回生は付いていないようだ。


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こういった範疇で乗り物を考えるとき、やはり今のうちに、「エコ」と「コスト」をちゃんと峻別した上で、ミニマムビークルとしての最適化を、真面目に始めておいた方がいいと思う。

せめて軽二輪のカテゴリーで、タンデム可能な荷重容量は確保しつつ、将来的にも汎用に使える、アーキテクチャを模索しておく。その位の先見性は欲しい。

この先、車重1トン超えの四輪車を、世界中の人々が等しく所有し、自由に使える状況というのは、そこで使われる(捨てられる)エネルギーの大きさを考えると、実現するとは考えにくい。個人所有のビークルというのは、どの程度の「小ささ」が妥当か?。ダウンサイジングの潮流は、既に足元でも始まっている。(例えば、軽自動車比率の上昇とか。)

機体の移動度も同じで、馬の多さや足の長さが価値である時代はピークアウトしていて、日頃のお買い物や、ピクニックレベルの「冒険」や「贅沢」を狙ったアプローチも「有り」だろう。

電動化に伴い、車体の構造は既存から大きく変えられる。技術的にはチャンスでもあるのだ。まだまだ仕事は一杯ある。例えば、前を2輪化して安全マージンを確保しつつ、制御を含めて最適化しておく、なんてどうかな。
インホイールモーターなんだから、 フロントドライブのバイク だって、以前より簡単にできるはずだ。

技術なのだから、エコとコストの最小公倍数を・・なんてセコい所に閉じこもってないで、遠慮なく、「最大公倍数」を目指して欲しい。

「凄くて斬新」は、ニッポン国産お得意のはずだ。
その「本物」を一発、期待したい。


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EC-02は年式的にも妙齢だし、もう無闇に褒めなくてもいいかな、と思ってはいたものの、はやり、ちょっと辛めの言い口になった。最後は話がスピンアウトしたし。(いつもか)

でも、電動バイクって、こうなって行くんだろうな、のような突端というか、萌芽のような物は感じられたので、当初の目的は十分に達せられたと思う。

この珍しい機体を快く貸与してくれた、オーナー殿に感謝したい。



ombra 2011年 3月 (6月 追記)

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