MOTO GUZZI の維持管理


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バイクは機械である。
使うにつれ部品は磨耗し、時間につれ劣化して行く。
性能を維持するためには、これを交換・調整し、維持に努めねばならない。

国産車に乗っていると、整備にカネをかけることはあまり無いだろうと思う。というのも、国産車はついこの間まで、磨耗部品(シリンダーやサスペンション)と主要部品(フレームやクランク)の寿命が、ほとんど変わらなかったからだ。せいぜい数万キロ乗ったところで、ああヤレてきたな、と感じさせる、それは、機体そのものの寿命と、ほとんど等しかった。(最近はだいぶ変わったという声も聞くが。)

MOTO GUZZI は違う。基本構造は頑強である。これを、補器と消耗部品で支え、動作するようにできている。だから、補器の調整と、消耗品の交換さえ行っていれば、いつまでも保つ。(昔の機械のモンの良さである。)

とは言っても、調整や交換のサイクルは部分部分で異なるし、カネもかかる。国産車の「使い捨て」に慣れた感覚だと、煩わしく、また、損に感じられる場合も多いと思う。

しかし、メリットもある。

まあ考え方次第なのだが、そうむげにされるようなものでもないと思う。


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整備は、余程経験と自信がある人以外、自分ではやらない方がいいと思う。熟練工でないと組み付けられない、というような、基本設計から危ういタイプではないので、やってできないことはないだろう。しかし、毎日GUZZI に触れているような、経験豊富なメカニックとの差は、やはり歴然だからである。

整備屋さんも選んだ方が良い。MOTO GUZZI というバイクは、構造としては簡単な方だ。やっつけ仕事もし易い。またそれを許す程、設計にマージンを持っている。適当な整備でも、何となく適当に走ってしまうのである。しかし、基本整備の良し悪しは、キッチリ性能に反映する。調子がよくなかったり、小さなトラブルが頻発するのは、整備の腕が悪いからだ。それを「そんなもんですよ」の一言で済まされるのでは、たまったものではない。こちとら必死で稼いだ給料である。そんな仕事に渡すわけには行かない。それに何より、折角のGUZZIが勿体ない。

また、やたらとチューンを勧める店も避けた方が良い。
「これを替えれば良くなります」
そう聞く度に、私は笑ってしまう。

機械の最適化とは、そんなに簡単なものではない。大概、技術などというものは、一つ良くなれば、一つ悪くなる面を持つ。だから、こういう言い方をする場合というのは、悪くなる方を知らない(無知)か、隠している(悪意)かのどちらかだ。

「ウチはレースで培った技術があるからさ、セッティングに独自の経験値を持っているんだ。」

以下は、某自動車メーカーでエンジンの設計を担当している技術者氏のコメント。

「(GUZZI を含む)メーカーは、自社のエンジンを知り尽くしている。メンテナンスの指定値には、ちゃんとした理由が必ずある。ショップのチューンの内容を調査してみると、全て、わかり切った簡単なセッティングだ。メーカーがそれを避けたのは、決定的な欠点を持つことを知っているからだ。例えば、燃費、馬力、耐久性などのいずれかに、問題が必ず出る。」

ステージがレースであれば、そういうポイント重視のセッティングが有効な場合もあるだろう。しかし、公道バイクのセッティングは、そんなに簡単ではないのである。


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さて、整備の各論である。

整備屋さんの腕や考え方にも依るのだが、整備のインターバルは、基本的に、3000km毎程度のオイル交換と、そのついでに点火周り(デスビとかバキュームなど)、後は車検の時、できれば一年点検を、といった所でいいのではないかと思う。

消耗品は、少なくない。(他のバイクと同じなのだが。)

まず第一にブレーキ周り。「走らない」類のトラブルは笑えるが、「止まらない」トラブルはシャレにならない。マスターシリンダ、キャリパ周りのメンテナンス、ブレーキオイルなどは第一義的に大切である。

次に劣化・消耗するもの。前者はまずはゴム部品で、各種シール類、ダイヤフラム、ホース類(エンジンオイルやブレーキ、ガソリンなどいろいろ)、タイヤも当然。後者には金属部品も含まれる。プッシュロッド、カムチェーン、ポイント、ベアリング類。ドライブシャフトのジョイントも減る。足周り(バネ)もヘタる。

さてその上で、調整である。タペット、点火時期、加速ポンプの吐出量などが頻繁な部類だろうか。

型によって増減はあるが(油圧タペットや点火、燃料の供給方式などで差が出る)、パッと見、結構あるように見える。当然、これらの整備のタイミングがいっぺんに来る訳ではないから、さほどうんざりする必要もないのだが、しかし、パラパラと、周期的に、必ず、やって来る。周期は、乗り方や保管状態でも変わってくるから、貴方がGUZZI を維持するのにかかるか、は特定できない。だが、本当にざっとした感覚的な数字なのだが、車検込み保険・税抜きで、年10〜20万が目安ではないだろうか。

安くはないと思う。それだけに、整備がなった自分の機体が調子を戻す「成果」と、支払った「対価」の比較を、十分に行うべきだと思う。私も正直言って、請求金額に気が抜けてしまうこともある。しかし、機体の調子を評価すると、暴利だとは言い切れない場合が多いように思う。

しっかりと判断し、もし理不尽だと感じたなら、そう要求べきだ。逆に、もしそうでないならば、無闇に値切ったりするべきではない。メンテナンスエンジニアとライダーは、片方だけでは存続できない。その意味で、運命共同体なのだ。良い整備士を育て維持し、バイク趣味を存続できるよう、各人で了解点を模索されたい。


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面白い提案がある。
整備のついでに、簡単な「課題」を仕込んでみよう。

ちょっとキャブを濃い目にセッティングしてみて下さい。
(ポイント点火の型なら)点火時期を早めにしてみて下さい。

調整する手間は同じなのだから、工賃は一緒である。
タダでお勉強ができる訳だ。

ガスが濃いと、点火が早いと、バイクはどうなるのか。ノーマルのセッティングの意味というのも、わかるようになると思う。
こんなことができるのは、レシプロバイクの強みである。

慣れて来ると、整備に出す時のコメントも、一段上を行けるようになる。
「気温が高い時、開け初めでもたつきます。燃調がちょっと薄いようです。濃い目の調整をお願いします。」
なんてね。
うーん、やな客かも。(笑)


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以上、述べて来た事項は、GUZZI の中古車を選ぶ際にも参考にして頂ければと思う。というのは、中古車を買う場合、下手をすると「他人の借金を払う」所から始めるハメになる可能性が、低くないからだ。

未経験のバイクを、外見のみで選ばざるを得ないのだから、酷な忠告だとは思う。

しかし、売りに出す前に、完璧に整備をする人など居ないだろう。それどころか、まともに動かなくなったから、売り飛ばしたのかも知れないのだ。

ほとんどの場合、中古屋では、まともな整備はされていない。悪い場合では、整備とはとても言えない、しばらくは不具合が見えなければよい、というような、カモフラージュ工作がなされているだけ、ということもよくある。

だから、それまでにたまっている「借金」は、次のオーナーにそのまま降りかかる。買って初めてマトモな整備に出してみて見積りに仰天という例は、少なくないようだ。できればその分も、少し多めに予定(予算)として、当初から見ておいた方がいい。

もし、整備済みという札付きなら、どこを、なぜ、どのように整備したのか、しっかりと聞くべきだ。自分の仕事に自信があるなら、説明にも熱が入るものだ。細部までしっかりと教えてくれる。逆に、納得が行く説明が得られなかったり、矛盾するような返答を繰り返したり、はぐらかす(思い入れ、などの感情論に振ろうとすることが多いようだ)、怒る、などするようであれば、整備はされていないと思っていい。(その店は多分、中古屋ではなく、ただのブローカーだ。)

また、年式が古いのに、100万を超えるようなGUZZI には注意した方が良い。それが「名車」と言われる車種なら、なおさらである。値段のほとんどが、市場性の名をかたった「名車代」の場合がほとんどだ。(その分、整備が安く済む訳ではない、という意味。)

しかし、もし、あなたが余程のお金持ちなら、そういった「名車」を是非購入していただいて、完璧に整備することで、貴重な文化財の保全に協力して頂ければと思う。それは、あなただけができる特権なのだ。そして、それへの対価は、多分、あなたに続く者の、感謝と畏敬の念だろう。


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国産車の方が、維持費は安上がりだ。そのかわり、車体の買い換えの周期は短いだろう。

しかし、まあざっくりと、GUZZI との維持費の差が年10万、国産車の乗り換え費が100万、とすると、国産車を10年で乗り替えるペースとトントンだ。

じっくり一台を乗り込むか、新車に替えるのを楽しむのかは、あなた自身の問題だ。あなたの価値観で、財布とご相談の上で決めればいいだろう。



ombra 2005年 12月

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