4. 最後の日
日曜日の昼、長男が帰宅した私に走り寄って言った。
「カー君死んじゃったかも知れない!」
えっ、と驚いてケースに駆け寄る。すみっこにうずくまるカー君を抱き上げると、しっかり動き始めた。
「寝てたんじゃないの?」
ちょっとした気温の変化に敏感で、暖かい日は寝床から這い出して隅っこで丸くなっていることがよくある。長男にはそれが死んでしまったように見えたのだろう。
大丈夫だよ、と言いながら、大好物のヒマワリクッキーをあげる。ヒマワリの種をちりばめたオヤツ用クッキーで、ずっと禁止していたものだったが、喜ぶのなら、と砕いてエサ入れに入れてやった。
カー君は夢中になってクッキーのカケラを大事に大事に食べていた。いつものようにエサ入れにすっぽりと入り込み、長いことかかってクッキーを食べているようだった。
夕方、ふと気になって寝床に戻ったカー君を確認した。ティッシュの巣材の上で、まあるい背中が、かすかだが、規則正しく動いていることを確認し、そっと残りのティッシュをかけてやった。
翌日、いつもちょこちょこと姿を見せるのに、出てこないなあと思いながら、家族を送り出し、部屋の掃除を済ませた後、果物でもあげようと寝床をのぞいた。
カー君はそこにいた。昨日、私がティッシュのフトンをかけてやった、そのままの姿でそこにいた。名前を呼んで手を差しのべると、丸くなった体はもう固くなり、巣材と接していた部分がほのかに暖かい気がしたが、体はすでに冷たくなっていた。
まさしくそれは亡骸というものだった。そこには命のかけらは残っていなかった。痛々しく傷ついた脱毛部分も、死後硬直によって見えなくなっていた。お気に入りの寝床に新しい牧草を敷き、ティッシュをかぶせてその上にカー君を横たえ、顔だけ見えるようにまたティッシュを掛けた。顔の側にヒマワリの種を入れてやった。
覚悟はしていたが、やはり別れはつらかった。もう苦しむことはないのだと、自分に言い聞かせたがつらかった。
帰宅してカー君の死を知った次男は号泣した。今まで見たこともないほどに、泣いた。私も朝から泣きっぱなしだったので、一緒になって泣きながら、子供を慰める言葉をどうにか探し出していた。長男は意外とあっさりと死を受けとめ、涙さえ見せなかった。しかしその冷静さが返って涙に暮れる私達にはありがたい気もした。
あんなに泣いた次男も、すぐに立ち直ってしまって、子供達はカー君を埋めに外へ出ていった。私はとても一緒には行けずに家にこもっていた。この日外へ出る仕事が無かったのをありがたく思いながら。