モスラ闘病記3



キエリボウ氏の優雅な生活
(月刊ALL BIRDS 1999.7月号)
ああ、投薬!

 モスラに薬が処方された。

 抗生物質2種と総合ビタミン剤。抗生物質は白い粉末で、約30ccの水に溶かしたものを専用の注射器を使って朝晩直接飲ませるというもの。ビタミン剤の方はシロップできれいな赤い色をしている。これは100ccの水に5滴の割合で溶かし、飲み水として与えるようにとのことだった。

 果たして薬を飲んでくれるのだろうか? 帰宅すると早速飲み水にビタミン剤を溶かしてみる。パアッと濃い赤い色の水の出来上がり。好奇心旺盛なモスラが早速寄って来た。

「・・・」ちょっとくちばしをつけたっきり、モスラは引いてしまった。美味しくないんだろうなあ、と思う。この水を飲むかどうかはモスラの自主性に任せるしかないだろう。

 以前、義弟タカシ君のところでもオカメインコ達がそろって通院、みんなの水入れが赤かったことを思い出す。妹に聞いてみるとやはり同じものようだ。そしてやはり鳥達の反応はイマイチだったようである。

 次はいよいよ注射器での投薬だ。慎重に水の量を確認し、薬を入れる。なかなか溶けきらない。注射器でも吸い上げて出すことを繰り返し、こんなものかな、という溶け具合で準備OK!
先生からタオルでしっかりと押さえて飲ませるようにと教わっていたので、モスラを押さえようとするが、ただならぬ雰囲気を感じ取ってしまったようでなかなかつかまらない。無理矢理引き寄せると、かなりの力で爪を立てられ、保定係の夫が悲鳴を上げた。とても我慢できないということで、断念。

 自分から注射器の先端をしゃぶらせようと考え、「おいでおいで〜」と猫なで声で好奇心をくすぐってみるが、くわえた時点で薬を発射したところ、以来寄り付かなくなってしまい失敗。ああ、これではせっかくの薬も意味がないではないか。

 この時私の頭に浮かんだのは、何かに薬を仕込んではどうかという考えだった。今や私の飼鳥生活のバイブルともなっている「大鸚哥養方集成」の投薬の項目によると、バナナに混ぜる方法とフォーミュラー3で作っただんごに混ぜ込んで食べさせる方法があるという。残念ながらフォーミュラー3はこちらでは入手しにくく、急を要するためにバナナ作戦の決行を決意し、翌日買い出しに行くことにした。だんごというフレーズからサツマイモをゆでてつぶしたものをだんごにしたもの(スィートポテト風?)に混ぜ込もうと思い立ち、こちらも4〜5本入りのものを2袋買った。それから貴重な栄養源ということでリンゴも袋入りを購入。かなりの重さになったスーパーの袋をずるずる引きずりながらキッチンにこもることしばし。

 まず、バナナを1Bほどの輪切りにし、中心部分を楊枝でつついてやわらかくし、パラパラと薬を入れ、混ぜ込む。ほんのわずかな量なのだが、輪切りの中心に平然と仕込むとなると何だか多い気がしてくる。いかにも「薬入ってるよ〜」という感じ。とにかく多少難アリという風だが良しとする。

 問題は、今までモスラがバナナを食べたことがないということなのだが(我が家の息子たちの大好物で、あっという間に一房お腹へと消えて鳥用にキープ出来なかった。しかしさすがに今回はモスラの薬のためだと説明すると遠慮して一人1本しか食べなかったが)、あの性格ならまず食いついてくるであろうと決行。見ていると私からかなりのアヤシイ雰囲気が漂うのか、絶対に口をつけないので仕方なくドアの陰に身を潜めて様子をうかがう(十分アヤシイ。巨人の星の明子ねえちゃん状態・・・若い読者にはわからないかも?)。

 思惑通り、バナナを食べ始めるモスラ。気のせいか少し首をかしげているように見える。食べ終えた頃に餌入れをのぞきに行くと、何と言うこと、薬を仕込んだ真ん中の部分だけ残されているではないか! 恐るべし、モスラの味覚。

 次なる作戦はスィートポテトだ。電子レンジでサツマイモを加熱し、マッシュポテトを作る。少量の水で練ってだんごにし、中心部に薬を仕込んだ。サツマイモは大好物で、こちらは問題なくきれいに食べ切った。ああ、ものすごく疲れた気分。これを朝夕せっせと作り、いちいち出来たてを用意していたのだが程なく限界を感じる。インターネットで結構愛鳥家のみなさんが、野菜を食べさせるためにサツマイモにその他もろもろの野菜を加えてだんごを作っていることを知り、とても参考になった。みなさん、大量に作って冷凍しておくのだそうだ。まとめやすさと味覚のためにバナナもプラス。モスラはかなり気に入っておかわりをねだるほどであったのだが、あまりに食べ過ぎたせいかだんだん飽きて見向きもしなくなってしまった・・・。

 ああでもない、こうでもないと試行錯誤、モスラとの知恵比べをしている間に1週間はまたたくまに過ぎて、再び病院へ行く日が来た。

 先生は早速カゴからフンと尿を採取して顕微鏡で覗く。
「脂肪円柱は出ていませんね。糖も出ていません」
あの手この手の投薬の苦労も無駄ではなかった、と少し救われた気持ちになった。まるで赤ちゃんの離乳食を作るかのような日々であった。

 しかし、それでもモスラの多飲多尿は治らない。外見的には悪いところはどこもない。これには先生も頭をかかえてしまった。「また同じ薬を出してもいいのですが・・・」モスラのために、1番よい方法をと悩んでくれていることが私達に伝わって来た。

 しばらく考えた後、先生から鳥に詳しいという動物病院を紹介して下さることになり、モスラの転院が決まった。

つづく