モスラ闘病記1


キエリボウ氏の優雅な生活
(月刊ALL BIRDS 1999.5月号)
モスラ病院へ行く

 モスラの様子はやっぱり変だった。

 驚くほど水を飲む。以前は水を取り替えても飲んでいるのかどうかさえわからない程度だったのに、水入れを入れた途端にがぶがぶ飲む。よっぽどのどが渇いていたのかとその時は思ったが、しばらくして見るとかなり水が減っている。「こぼしたのかな?」と疑うほど、それは多量であった。

 どこかがおかしい、と思い始めてモスラの様子を注意して見ていると、フンの量がとても多く、回りに水たまりのように尿が出ている。新聞紙の上を流れるほどの多量な水分に、さすがの私も驚かないではいられなかった。

 インターネットを頼りに調べてみると、これは「多飲多尿」という症状らしい。一般的には鳥の尿は人間のような水分ではなく、フンの中に見られる白い部分なのだそうで、モスラのようにフンと一緒に水分が出るということは、すなわち摂取している水の量が多すぎて排出されている状態のようである。このように水を飲み過ぎている鳥には、朝晩以外は水入れをカゴから出すなどして水分制限した方がいいらしい。

 早速、モスラにも水分を制限してみることにした。鳥というのはもともとあまり水分を必要としないらしく、飲んでいるのかどうかわからないくらいで普通なのだそうだ。だから12時間くらいは水を飲まなくても平気だという。朝、餌を入れるのと一緒に新しい水に替えて、飲んでいるのを確認してからしばらくして水入れを外す。それから夕方、餌を足す時に水を入れるようにした。

 なるほど、水を飲まないでいる日中のフンはしっかりとした固めのもので、水分が流れるほどでることはなくなった。しかし、水を入れた時のモスラのがぶがぶやる様子には変わりがなく、水のない空白の時間がある分、入れた時の飲み方がいっそう激しくなったかのように思えた。

 これは、水を飲ませないというよりも、なぜ水をそんなにも欲しがるのかというところが問題なのではないのかと、真剣に悩み始めた。根本の問題を解決せずに、飲みたい水を我慢させるのはどこか違うような気がしてきた。これは、動物病院に行くより方法がないようだ。

 今まで元気印の病院知らずできたモスラである。遂にきたか、というのが偽らざる気持ちであった。私のイメージの中で、どこにでもある動物病院にポンと行くわけにはいかないだろうな、といつも思っていた。鳥を診られる獣医師は少ないと、よく耳にしていたせいもある。犬や猫のようなほ乳類と鳥類では、まったく身体のつくりが違うのだ。「鳥も診ます」と言ってくれて、信頼してお任せ出来る先生が、果たして盛岡にいるのであろうか。

 まず、インターネットで盛岡市のホームページから動物病院を調べてみた。しかし、ペットショップはあっても動物病院の項目がないではないか……!こうなったら、もう頼れるものは一つだけ、私はおもむろにタウンページを引っぱり出してドッカと座り込む。動物病院の項目は思ったより多く、ほとんどの病院が広告を掲載しているので診療時間や獣医師の数からだいたいの規模まで推測することが出来た。

 その中から私は、比較的近所でよく看板など見かけていた一つの病院に電話してみることにした。問い合わせるのは「鳥のそ嚢やフンの検査、血液検査をしてくれるかどうか」ということ。これは最近購入した「大鸚哥養方集成(監修・磯崎哲也)」という本に載っていた、動物病院を探すためにまずチェックすべきことである。この本は先月号のインフォメーションでも紹介されていたが、大型インコに限らず、鳥を飼う上で必要な知識がわかりやすく解説されている、目からウロコ的なためになる本だと思う。

 受話器を取ったのは先生本人のようでちょっとためらう。でもここまで来て引き下がる訳にはいかないと勇気をふりしぼって聞いてみる。
「そ嚢やフンの検査は出来ますが、血液検査はセンターに出すことになります。私より、鳥に詳しい先生をお教えしますからそちらで聞いてみた方がいいと思いますよ」と、警戒していた私の心を解きほぐすような親切な返事が返って来た。その先生によると、盛岡では鳥に詳しい病院は3つで、その連絡先とともに、私の家の近くの病院をすすめてくれた。何でも出来て半年くらいという新しいところだという。私は親切に情報を教えてくれた先生に感謝しつつ電話を切った。そして獣医師間の横のつながりの深さに感心してしまった。獣医師間の情報ほど確かなものはないだろう。

 早速、教えられた病院に電話して同じことを聞いてみた。電話に出たのはやはり先生本人で、実はこの日は休診日だったそうなのだが、「どうしましたか?」とかなり親身になって話を聞いてくれた。考えられる病気について、かなり詳しく話してくれるこの先生に、モスラをお任せしようと決めた。

 そして二日後、私は夫とともにA動物病院にモスラを連れて行ったのだった。

つづく