モスラ闘病記10



キエリボウ氏の優雅な生活
(月刊ALL BIRDS 2000.4月号)
モスラシロップ

 出戻りモスラは、久しぶりにA先生に診てもらうことになった。

 横浜小鳥の病院の先生からのメールの内容を、私はA先生に電話でお話ししてあった。

 特に血液検査のことが気になって、知らず知らずに力が入っていたかも知れない。

「爪から採取した少量の血液でも検査できるようです!」と身を乗り出すような勢いの私に、A先生の言葉は芳しくなく、やはり盛岡では少量の血液ではきちんとした結果を出すことは出来そうもない、ということであった。

 そしてこう言った。
「どうしても検査がしたいですか? 検査をして知りたいことは何でしょうか。病名をはっきりさせたところで、治療にはかなり長い時間がかかります。その間、何回も検査を繰り返すことになりますし、それだけモスラちゃんに負担がかかることになるでしょう」

 たぶん、モスラの病気は横浜小鳥の病院の先生の指摘どおり、高脂血症か高コレステロール血症であろう。人間で言えば生活習慣病である。長い時間の中で蓄えられてしまった病気の原因は、根気強い食餌療法と運動を続けることでしか解決されないだろう。

 あせって結果を急いではいけない。そのことをA先生は静かに話してくれた。興奮気味で、熱くなってしまっていた自分の気持ちを引き締めながら、私も自分の考えを頭の中でどうにか整理してみた。

 モスラが幸せに、楽しく長生きして欲しい。それが私の願い。どんな結果が出ようとも、それは問題ではないのではないか。

 もしかしたら、私は病気と闘うことだけにやっきになってしまっていて、本来のモスラの幸せが何なのかを忘れてしまっていたような気がしてきた。

「それでは、モスラが高脂血症か高コレステロール血症であると仮定して治療してもらうことは出来るでしょうか?」
「可能です。胆汁の流れを良くする薬ですから、長く飲ませても安心ですし体にも良いものです。問題は、モスラちゃんが飲んでくれるかということなのですが・・・」

 私は、B動物病院で先生が処方してくれた薬をモスラが喜んで飲んでいたことを話した。嫌がるどころか、薬を飲むのを楽しんでいるように思えるほどに。

 A先生は私の話を聞きながら、モスラのために単シロップという薬を混ぜて使うものを取り寄せてくれることになった。

 このシロップは赤ちゃんにも使えるほど安全で、甘いので動物も好んで飲むはずだという。ただ、シロップの糖分が少し気になるということであったが、その点についても調べてもらえることになった。

 そして数日後、薬が用意出来たということで、私と夫はモスラを連れて病院へ向かった。

「八木山動物園に知人がいるのですが、ボウシインコをよく診ているんです。で、コレステロールなどに良い薬を教えてもらいました。シロップの方も、糖分の問題よりも、薬を嫌がって飲まない方が深刻だということでした。薬を飲ませるために与える程度の量ならば、心配ないそうですよ」

 先生の嬉しそうな顔に、何だかこっちまで嬉しくなってきた。一応またフンを調べてもらって、特に問題なしというお墨付きをもらい、薬を作ってもらった。やはり移動による体の負担を考えてくれて、通院はしなくても薬だけもらえるようにしてもらった。

 これでモスラも私も、気分的にぐっと楽になってきた。
「あとは、慣れることです。病気だ病気だと思わずに、この鳥はもともとこういうフンの状態なのだというように」

 モスラがビチャッとフンをするたびに、思わずため息をついていた。どうしたら良いのかと途方に暮れて、モスラがすぐにでもどうにかなってしまうのではないかと不安だった。

 しかしこれからは、もっとゆったりと構えていよう。きっと私の気持ちがモスラにも伝わっていたはずだから「何てことない、このくらい」と思えれば、それも伝わっていくことだろう。

 心配すればキリがない。とにかく、私が出来るのはモスラの飼い主として、大きく手を広げてモスラの全てを受け止めること、認めることなのである。

つづく