モスラ闘病記9



キエリボウ氏の優雅な生活
(月刊ALL BIRDS 2000.3月号)
病院へのメール


 横浜小鳥の病院の先生は、「飼鳥の医学」というホームページを開設している。ホームページは内容豊富で、写真入りの丁寧でわかりやすい解説がありがたい。

 人間でもそうだが、病院というのは一種独特のおごそかな雰囲気があって、シロウトがうっかり野暮な質問などしようものなら、すごみのきいた先生にジロリと一瞥され、気まずい思いをした…という経験はたぶん誰にでもあるのではないだろうか。

 まあ今は、インフォームドコンセントとかで、かなり患者側にも気軽に情報を教えてもらえるようになってきたようなのだが。

 それでもなかなか疑問を解消できずに、家に帰ってから「家庭の医学」の分厚い本をひっくり返したり、インターネットで調べてしまったり。そんな時に頼りになるホームページである。

 最近は、かなり鳥を専門に診てくれる病院も増えているようだが、私のように地方で、まだまだ犬や猫の傍らに申し訳なさそうに鳥カゴを置いている…そんな人も多いと思う。親身になってくれる先生には悪いけれど、やっぱり専門医の意見が聞きたい、そんな時にもいい。

 私の場合は、まずインターネットで鳥の病気について調べていて、たどり着いたのがこの先生のホームページだった。「どうも水分の排出が多すぎる気がするけれど、大丈夫かな?」と迷っていた気持ちを、「早く病院へ行かなきゃ」と決心させてくれた。その後、いつかメールでモスラのことについてうかがってみたい、とずっと思っていたのだ。

『初めまして。いつもHP参考にさせていただいています。今日は、思い切ってご相談したいことがありメールしました。我が家のモスラのことなのですが(キエリボウシインコ、10歳、オス、体重660g、餌はオカメインコ用ミックスシード、ハトの餌、最近食べるようになったペレット、たまにヒマワリを与えています)3月くらいから多飲多尿が気になり始め、先生のHPなどでその恐ろしさを知り、初めて動物病院を受診しました。尿を調べた結果、多量の脂肪円柱が出ているということで抗生物質とビタミン剤を1週間投与しました。その後、脂肪円柱は無くなったのですが症状は変わらず、盛岡市で鳥に詳しいという、他の病院を紹介されました。そこではフンの検査の結果、カンジダが出ている、腸内細菌のバランスが崩れているということ、多飲多尿はどうも腎臓か肝臓から来ているのではないかということでそれらを保護する薬、総合ビタミン剤を処方されました。カンジダと腸内細菌は1週間の投薬で完治し、腎臓と肝臓を保護する薬、ビタミン剤はその後も続けて飲ませていましたが・・・・・・』

 長くなるので省略するが、ここまでの経過を報告し、今は通院も投薬も終了してしまったが心配なこと、内臓疾患には決定的な治療法はないと言われたが、あきらめきれずに自己流の飲水制限を行っていること、などを書いた。そして、もし専門医の目から見て、モスラのような鳥の日常生活での注意点、管理法などがあったら教えていただきたいという内容である。

 果たして返事は来るのであろうか。実際に診察もしていないモスラに対して意見を聞くなど、きっと失礼極まりないことなのではないか、と不安がよぎる。

 しかし、一度送信ボタンを押してしまったら、宛先が間違ってでもいない限り、メールはもう取り戻せないのだ。宛先が違っていても、偶然そのアドレスを使用している人がいた場合はそこに届いてしまうし……。

 往生際悪く、そんなことをグダグダ考えているウチに、先生からの返事が届いた。驚いたことに、メールを送ったその日の夜に届いたのだった。お忙しいであろうに、このような不躾なメールに丁寧な返事を書いて下さったのだ。

 先生はオールバードを読んで下さっているということで、モスラの多飲多尿についても今までの様子はだいたいご存知だった。

 メールには、モスラの場合、高脂血症か高コレステロール血症が疑われるということ、はっきりさせるには血液検査が必要で、これは爪から採血した場合でも検査センターに出せることなどが書かれていた。やはりエサは高脂肪のヒマワリやサフラワー、麻の実はやめてペレットに切り換えた方が良い、ということだった。そして運動させること。この病気の原因は高脂肪の食餌と運動不足が原因なので、出来れば飛ぶような運動をさせてやるのが良いということであった。

 そして、私が一番衝撃を受けたのは、飲水制限についての注意であった。以下、メールより抜粋。

 『飲水制限に関しては尿崩症以外では、制限してはいけません。血液検査によって電解質の低下がある場合(尿崩症)は制限しなければいけませんが、それ以外では水を欲しているわけですから制限はしないで下さい』

 自己流で勝手に飲水制限をしていたことが、かえってモスラに悪い影響を与えていたのかも知れない。(この件に関しては、前回メールで相談したタイハク君の飼い主さんにも報告した。タイハク君の場合はきちんと専門医の指導のもとで飲水制限と投薬を行っており、経過も良好であるということを付け加えておく)

 先生のメールには、
『とにかく一度血液検査を受けて状態を見たほうが良いと思います。そして原因がはっきりすれば、それが内科疾患であってもそれに対する治療法は存在します』

と書かれていた。希望の光を見た気がして、とにかく検査をしなければと決意して、こちらはまた、A先生に相談してみることにした。

 早速、取り外していたモスラの水入れにたっぷりと水を入れてやった。モスラは素早く寄ってきて美味しそうに飲み、何と水浴びを始めたのである。

 そうだった。モスラは小さい頃から、ずっと水浴びは水入れだった。入るはずもない大きな体がじれったいかのように、あたり一面に水をまき散らし、アタマからずぶぬれになりながら興奮と歓喜の声を上げて……。

 以前は部屋の絨毯までビショビショにされるので、あまり歓迎していなかったのだが、この時ばかりは私まで嬉しくなって、モスラが水浴びする姿をいつまでも見守っていたのであった。


つづく