モスラ闘病記8



キエリボウ氏の優雅な生活
(月刊ALL BIRDS 2000.2月号)
飲水制限

 モスラは相変わらずであった。食欲はすごくあり、ペレットもシードもよく食べた。元気でうるさく、とても健康そうに見えた、多飲多尿である意外は。
 病院の方は、薬を飲み終わった頃に電話で様子を報告し、翌日薬を取りに行くというパターンが続いていた。

 そしてちょうど1か月ほど経った頃、私と夫はモスラを連れて再び動物病院で体重を計り、先生の触診などの診断を受けた。
 体重は660gと安定していた。モスラはなかなか体重を計らせず、カゴから出ると夫の背中にしがみついて離れない。やっとのことでカゴに戻し、そのまま診察台で体重を計る。計ってから、あ、カゴの重さを計り忘れていた(モスラ入りのカゴの重さから引き算しなければならないので)ということになり、また出して、逃げ回られたり・・・。先生、ご苦労様。

 そして、これからどうしていくかという話になった。
「内臓関係は急に治るものではないし、残念ながら完全に治すことも無理でしょう。寿命が40年あるとは言っても、もう決して若いとは言えないわけですしね。私達は、モスラちゃんが少しでも良い状態で長く生きられるようにしてあげるくらいしか出来ないと思います」

 先生の言葉は納得出来るものだった。どんなに大切に飼育していても、寿命と言われている年月まで生き物を長生きさせるのはとても難しいことだろう。私達に出来るのは、そんなモスラを見守ってやり、残された毎日を少しでも苦しみのないように過ごさせてやること・・・そう覚悟するしかなかった。

 ひとまず、モスラの通院は終わることになった。様子を見ながら、数か月に1度くらい体重を計りに来て下さいね、と言われて病院を後にした。

 もう薬をあげなくても良いことと、バスに乗って延々薬を取りに行かなくても良くなったこと。私はホッとしたような、悲しいような気持ちであった。これでいいんだ、してあげられることはやったじゃないか、と思いながらも、モスラはもう治らないのだという現実を突きつけられて頭の中が空っぽになってしまっていた。

 そんな空虚な数日を過ごしていてある日、鳥好きの人達の集まるホームページのある掲示板で、モスラと同じ症状で鳥の専門病院に通って治療している、という人の書き込みを読み、体に電流が走るような感覚を覚えた。そして、いてもたってもいられずに、その飼い主の方にメールを書いていた。自分も同じような症状の鳥を飼っているが、はっきりした解決がつかぬまま通院を終えたこと、鳥専門医ではどんな指導がされているのか教えて欲しいこと、などを書いて、祈るような気持ちで返事を待った。

 返事はすぐに返ってきた。その人の飼っているタイハクオウム(1歳)はショップにいたころからフンに水分が多く、こんなものかなと思っていたそうである。しかし日増しに水分も多くなって多飲も目立つようになり、ある日足取りがおかしいことに気付いて急いで病院で診察を受けた。おそらく腎臓がはれていて足の神経を圧迫しているのだろうという診断であったそうだ。また、以前内臓痛風で足が動かなくなった子がいて、その鳥は助からなかったと、先生から話を聞いたことなどが詳しく書かれていた。

 私は食い入るようにメールを何度も読み返していた。モスラは足の異常はなかったが、最初にちば動物病院で「こんなケースもある」と教えてもらった症状が、まさにそれであった。

 メールをくれた人の鳥は、投薬(食欲増進剤、腎臓機能回復、ビタミン、カルシウムの入った水薬とアガリクスという漢方薬のようなものの粉末)と水分制限で治療しているそうだ。

 驚いたことに、その水分の量は水薬の分もあわせて、1日ほんの30ccととても少ないのだ。モスラの水入れは大型用の大きなもので、計って入れてみたら底の方にうっすらとしか水が来ない。クチバシをつけても、舌でなめるしかないような少ない量であった。

 タイハク君の足のはれは、その治療ですっかり良くなり、水分制限のせいかフンの水分量も落ち着いてきているそうである。

 とりあえず、水分制限をしてみよう、と翌日から私は水を計り始めた。何でも、鳥に必要な水分量は1日で10ccほど、ほんのわずかなんだそうである。あまりに少ない量に、朝エサと一緒に入れ、モスラが飲んだことを確認してから水入れを外し、夜またエサを入れる時に水をやり、そのまま朝まで入れっぱなしにしておくことにした。やっぱり全く水分を外してしまうことには抵抗がある。しかし、一応量は毎回30cc程度に押さえて。全て飲めば明らかに飲量オーバーとなるのだろうが……。

 さすがに、飲水制限の効果はあった。しかしそれは水入れを外してしまっている日中のこと。「やったー!治ってる」と思ったのも束の間、水を飲むともとの多尿に逆戻り、である。

 やっぱりタイハク君とモスラでは違うのだ。同じ多飲多尿と言っても色々あるのかも知れない。また振り出しに戻ってしまったのか。

 そして私は以前からずっと考えていたことを、やっと行動に移す決意を固めた。モスラの多飲多尿が気になり始めた頃、インターネットであちこち調べたあげくにたどり着いた「横浜小鳥の病院」へ、メールを書こうと決心したのであった。

つづく