眠れる卵 vol.17



 ロザイの春の訪れは早い。

 イクミル王国南方に位置するロザイ領の春の訪れは、王都のそれより半月以上早いことで知られている。

 温暖な気候のロザイ領には、歴代の国王が王妃や寵妃に与えた美しい離宮がいくつかあり、離宮の近くには必ず神殿が建てられ、その近隣には神殿参りをする人の子のための宿場が立ち並んだ。

 街に訪れる旅人に喜んだのは宿場の主だけではない。
一般に、神殿参りは観光も兼ねる者が多いので、参拝帰りには店先に足を止めてロザイの特産を土産に求めるため、商人たちの懐も潤んだ。

 ロザイが誇るのはその恵まれた気候だけではない。
王国内の最高議会である元老院の議長を務めるロザイ候レイチェルンド・ロジーラ・ロザイも領民の誇りだった。

 天賦(てんぶ)の政治的采配を持つ当代のロザイ侯はその爵位を継いで以来、農地改革を進め、農作物の品種改良に力を入れてきた。
ロザイの大地のそこかしこに見られる春の芽吹きこそ、その長年の努力が結んだ成果である。

 野に花が咲きはじめ、木々に色鮮やかな若葉が萌える。
誰もが初夏を迎える頃には、畑地が緑一面に彩ることを予感していた。

 そんなロザイの春を、小高い丘の上に建てられた美しい白い城でぼくは迎えた。
 
 かつては王族の離宮でもあったロザイ侯の居城は、今は「侯爵邸」と呼ばれて領民に親しまれている。
元が離宮だけあって、侯爵邸は他の離宮と同様、豊かな自然に囲まれた場所にあるが、丘を下りて森を抜ければ、その先には立派な城下町が栄えていた。

 最近、ぼくはしばしば侯爵邸を抜け出して、周辺の野を馬で走るようになった。
たまに城下町に繰り出して、商店が立ち並ぶ賑やかな通りに出かけたりもしている。
以前に比べたら目を見張るほど、ぼくの行動範囲はを広くなっていた。

 とはいえ、ぼくひとりだけの外出は依然として許されなかった。前科者には監視の目もきつくなるのだ。
致し方ないことだが、父の厳命で常にふたりの同行者がぼくに伴うことになっていた。

 だが、そのふたりというのが始終おしゃべりに興じるようなふたりだったので、ぼくの外出は、毎回、賑やかなことこの上ないものとなった。
だからかえって父の厳命はぼくには幸運だったのかもしれない。

 城の外にはたくさんの新しい発見があった。
故郷の春がとても瑞々しく、大気がとても濃いことも改めて知った。
肌を晒すにはまだ冷たい朝の風が甘い香りをほのかに含んでいて、馬上から咲き零れる花を探すのも楽しかった。

 ぼくのカンギール・オッドアイを見て驚き逃げる人の子ももちろん多くいたけれど、中には指を組んで祈りはじめたり、涙を流して感謝の言葉を口にしたりする人の子たちもまた多くいた。
乳白色の髪を黒く染め、稀有なこの瞳を隠さなくても、ぼくを受け入れてくれる人の子たちが確かにいる。
それはとても嬉しい発見だった。

 ずっと知らずにいたことをひとつひとつ知ってゆくたび、
「もったいないことしてたなぁ」
城の外に出ることを恐れ、部屋にこもって誰にも会わずに世界から逃げるように過ごしていた去年までのぼくが、とても幼く愚かに思えた。

 城に帰って一番最初にその日の出来事を母に語って聞かせるのが最近のぼくの日課になっていて、母はいつも楽しそうにぼくの話に耳を傾けてくれた。

 初めて自分から望んで城下に出た日のことは、今でもよく覚えている。
丘の上に建つ侯爵邸へと続く道の先に、遠く馬上から、裾の長いドレスを靡かせて立つ乳白色の髪を編み上げた母を見つけた時、ぼくは思わず涙が出た。

 母がぼくの身を案じてずっと正門のところで待っていてくれたのだと思うと、母の子として育つことができた幸運に、ぼくは感謝せずにいられなかった。

「あなたはこの世界に愛されている子よ。それにあなたはロザイの子だもの。
きっとこの地のすばらしさをこれからもたくさん知ってゆくでしょう」

 微笑みながら、ぼくの頬を両手で包んでくれた母の手は、長い間、外気に触れていたため、とても冷たくなっていた。

 ぼくが自分の運命を受け入れて、内に向いていた目を外に向けられるようになれたからこそ、こうして城の外に踏み出せるようになったのだと、どうやら母にはわかっていたらしい。

「私たちはあなたを外に導けなかったけれど……。
シン殿下はあなたを外に連れ出すのがとてもお上手なようね」

 殿下も立派な殿方におなりになったようでほっとしたわ、の母のひとり言については誰にも内緒だが、ぼくの著しい変化を、母はぼくの頭を撫でながらとても喜んでくれた。



 そして、早い春は嬉しい知らせも運んでくれた。
ロザイの春の到来を待ちかねたかのように、シンが忙しい公務を抜け出して五騎の近衛兵を従えながら、ロザイ侯爵邸に駆けつけたのだ。
その知らせは突風のように城内を駆け巡り、門番から知らせを受けた侍従や侍女たちが慌てふためいて各室に走った。

 一頭の青毛が他の騎馬を振り切るように先陣を切って表門を駆け抜けたようです、と古参の侍女がぼくの部屋まで伝えにくると、
「相変わらず、耳聡いですねえ」
ジェジェが小さく零して、目尻に皺を作りながら微笑んだ。

 第三王子の突然の来城を自室の寝台の上で受けたぼくは、
「ジェジェったらそんなこと言ってると、シンにまた玩具にされるよ?」
読みかけの本を閉じながら、くすくす笑いが止まらなくなる。

「こう言っては何ですが。殿下ってルティエさまにはとってもお優しいですよね。
でも、それ以外の者に関してはアラを探して楽しむところがあると思うんです。
あ、ルティエさまには身に覚えがないからわからないか。
と、に、か、くっ。
この剣術師範のワタシへ態度と言ったら、師に対する尊敬ってのが微塵も感じらないんですよねっ!
弟子らしさが欠け過ぎてますっ」

 学びの塔を出る際、護身用に剣を習いたいと、シンは元傭兵のジェジェの腕を見込んで剣術の教えを依頼した。
飾りの剣より、実戦に通用する剣を習うことにした経緯は、おそらくカルバ村での一件にあるのだろう。

 あのあと、ぼくの身を守りきれなかったおのれの剣の未熟さを、シンはとても悔しがっていた。

──魔導でちゃんと助けてくれたくせに。そういう負けず嫌いなとこは昔と変わらないんだから。

 魔導の習得を優先するためにおろそかにせざるを得なかった剣術だが、師範の教え方が悪いのか、弟子の態度が問題なのか、シンの腕前はあまり上達はしていないらしい。
要は練習時間の少なさが問題なのらしいが、それでも、基本の型を習得している分、勘の良さと度胸で残りを補っているそれはとてもシンらしく、いい動きをしていると、ジェジェが感想を述べていた。
前回の稽古では結構な数の本気の打ち合いをして、それなりに連打が続いたと聞く。

「まさか、魔道を使って何か細工してるんじゃないでしょうね?
この上、殿下に魔剣士の才まであるなんて言われたら、ワタシはいじけちゃいますよ?」

 十歳の時から腕が進歩がない、と言っていたわりにシンの腕が「使える」ので、ジェジェには腑に落ちないところが幾分あるらしく、シンがズルをしているかもしれないと疑う始末だ。

「そんなわけあるか。オレは本当に十から十六まで剣に触ってなかったんだぞ?
それにオレ程度の剣術で魔剣士になれるわけないだろうが?
……そういや、ジェジェ、おまえ、確か魔剣士志望だったよなぁ。
初級も受からないような中途半端な見習いが、よくもまぁ魔剣士になりたいなどとでかい口を言えたもんだ」

 師範と弟子。このふたりの会話を聞いていると、どっちが師範でどっちが弟子なのか。
とはいえ、このふたり、どちらの立場が有利なのかは一目瞭然。

「これじゃあ、ジェジェの立つ瀬がないね」

 結局、剣術師範は名ばかりの、全然弟子らしくない弟子を持ったジェジェが嘆くのも当然で、ぼくもつい同情したくなってしまう。

 ジェジェをロザイ侯爵邸で預かることになった時に、ぼくも初めて知ったのだが、本当に彼らに関係はとても複雑だと思う。
魔道においてはシンが師でジェジェが弟子、剣術にいたってはそれが逆転し、王宮では王子と従者で、学びの塔では、ジェジェは教授職にあるシンの助手と、彼らの立場は多種多様だ。

 戦友のようでもあり、親友でもあり、ケンカ友達でもあるシンとジェジェ。
ふたり並んだところを見ているだけで微笑ましくなるのは、気心知れた同士の会話ほど楽しいものはないからだろう。

 一度は王宮に残ったジェジェだが、シンが公務で身動きが取れなくなった途端、
「殿下ったら、ひどいんですぅ。おまえは邪魔だって追っ払うんですぅ」
そう言って、ひとり、ふらりとロザイにやってきた。

「ルティエさま、一生連れ添うおつもりなら余計、相手はちゃんと選びましょうね。
まず、顔だけの男はよしたほうがいいですよ。
だいたい、顔のいいのに限って根性腐ってるのが多いんですから」

 一度開いたジェジェの口はますます滑りをよくして、
「どこかの誰かなんて顔の良さだけで世の中充分欺いてます」
そんなふうに言いたい放題言って、そのままここに居座りこんでしまったのだ。

 だからぼくも、せっかくジェジェがここにいるのならと、シンにならって剣術指導を願い出たのだが、最初のうちは、
「とんでもないっ! ルティエさまは殿下から花嫁修業をするようにって言われてるはずじゃないですかぁ。
なのに、剣を振り回すなんてっ! ご自分もそうですが、ワタシの身も考えてください!」
殿下の雷が落ちる先はワタシの頭の上に決まってます、と首をぶるぶる振って、ジェジェは赤い髪をゆらゆら揺らした。

「でも、やっぱり自分の身は自分で守れるようになりたいんだ。
この先、ぼくはもっと世の中をこの目でちゃんと見てみたい。
だから、万が一の時に困らないためにも剣が使えるようになりたいんだよ」

 視野を広げることに関しては、以前からジェジェも賛成してくれていた。
ぼくが城の外に出る時に護衛としていつも同行してくれるふたりのうちのひとりが、実はこのジェジェなのだ。

 だから、ぼくが護身術として習いたいと何度も説得すると、
「そういうことなら仕方ないですね。でも、無理は禁物ですよ?」
渋々だったがジェジェは師範役を引き受けてくれた。

 そうして、ここ数ヶ月の間、ぼくらは時間を見計らって稽古に励んだ。

 毎回、ぼくが打ち身や擦り傷をつけるたびに、ジェジェが、殿下に殺されますぅ、と半分泣きべそになって、稽古を早めに切り上げようとするのが玉に瑕(きず)なのだが。

「こんな擦り傷、平気平気」

 ぼくが滴る血を舐めながら笑い返すと、
「ルティエさまは平気でも、ワタシの首は皮一枚で繋がってる状態なんです。
今夜あたり、料理場の水瓶から真剣を抜いた殿下が飛び出てきそうで怖いです〜」
墓参りの際は蜜柑酒をお願いします、と気の早いことをジェジェが言い残そうとする。

「昨日は井戸の中から出てきそうだって言ってなかった?
それとお供えのお酒はリンゴ酒がいいって……」
「今日は蜜柑酒の気分なんですぅ」

「まったく、ジェジェったら。毎回そんなこと言って。
稽古をするたびに墓に入ってたら、ジェジェは西の楽園をもう何度も往復してることになっちゃうよ?」

 そんなふうに、道化師顔負けのジェジェは笑いの絶えない日々を侯爵邸にもたらした。

 ジェジェはいつも騒いでいるわけではない。
ふざけたことばかり言っているようでも、彼はその場の雰囲気を的確に読んで判断している。
だから、ジェジェの賑やかさはとても居心地がよく、侍女や家臣たちも彼によく笑顔を返した……。

 今、やっとぼくの日常に、穏やかな日差しが射してきたような気がする。

 そんな穏やかな早春の日の、突発なシンの来訪──。

 ぼくは、甘酸っぱい幸せの予感を覚えた。





 およそ五ヶ月前、カルバ村の結界が崩壊したあと、ぼくはたくさんのことをシンに話して聞かせた。

 ぼくが話し終わった時、
「カルバ村の霧の件は完全に解決したぞ。うまくいけば、春には数種類の野菜の収穫も見込めるだろう」
シンはお返しにと、カルバ村の見通しの明るさを示唆して、ぼくの心を軽くしてくれた。

 だが、一方で、ぼくの知らない半年の間に起きた辛く厳しい現実を、世界は決して綺麗なことだけじゃない事実を、ぼくにはっきり知らしめた。

「カリ・エラはトリューナンの村長のところへ向かったよ……。おまえはよくやったさ」
「そっか……。何だかシンの言う通りになっちゃったね。
本気なら村を出ればいいって、きみ、あの時言ってたろ?」

「オレはふたりで駆け落ちでもすればいいって言ったんだ。ひとりで出ろとは言ってない。
彼女は村のしがらみから逃(のが)れたがっていた。
村のために売られて出て行くという大義名分を必要とするほどに……。
彼女は一番安全な方法を選んだんだよ。
裏切り者とののしられ、追われる心配のない一番確実な方法を、な」

 ぼくはずっと、彼女は強い女性だと思っていた。
いつ恋人と引き離されてもおかしくない、そんな厳しい現実を前にして、毅然と立っている彼女の姿にぼくは憧れさえ抱いていた。

 彼女の恋は、本物の恋ではなかったのかもしれない。

 恋よりも自由を選んでいた、彼女の心──。ぼくはそれを彼女の強さと誤解していたのかもしれない。

「まったくなぁ、カリ・エラの気性を読みきれなかったのはテラートの誤算だよ」
「え? テラート?」

「カリ・エラは、テラートが塔に入ってから生まれた実の妹だったのさ。ま、あとは本人に訊くんだな」

 シンがぼくを案内したのは、もう誰も住んでいないカリ・エラの家だった。

 彼女の祖母エラインはカリ・エラが村から去って以来、ステラの家に身を寄せているらしい。
空き家になってしまったその家は、現実を直視するほど人寂しい場所に思えた。

 ぼくたちの足音やシンの呪文を詠唱する声が、誰もいなくなってしまった部屋にわずかに響いて、より哀しさを誘う。
しんと静まり返った土間の隅に古い水瓶がひとつ、飽き捨てられた玩具のようにひっそりと置かれていた。

 その大きな水瓶には、澄んだ水がなみなみ汲んであった。

「あらかじめ用意しておいたんだ」

 水瓶に近付くと、シンは以前と同様、水鏡化した水面にテラートを呼び出した。

「テラートは今、上級魔導師になるべく学びの塔で修行中なのさ」

 しばらくして、黒い水底から浮き出るようにテラートの顔が水面に映った。
彼は少しやつれた顔をぼくに向けて、まず深々と頭を下げた。

 テラートはぼくの隣りに立つシンにも一礼したあと、ことさらゆっくりと「彼の事情」というものを語りはじめた。

「トリューナンに引き取られた際、学資を受けて魔導師の修行をし、いずれトリューナン村に尽くすことと、カルバ村とは以後一切縁を切ることを私は養い親と約束しました。
ですので、カリ・エラの兄だとカルバの家族へ名乗ることはできませんでした。
おそらくカリ・エラのほうも兄がいることさえ知らないでしょう……。
そして、私が初めてカリ・エラの身売りの話を聞いたのは、一年前の冬の終わり……。
私が久し振りにトリューナンに戻ってすぐのことでした」

 ぼくは記憶の糸をたどりながら、一年前の冬の終わりという時期を漠然と考えていた。
シンが王宮に帰還した噂に加え、体調を崩していたあの頃、ぼくは心身ともに起き上がる気力を失っていた。

 その辛い冬が去ったあとの出来事を順繰りに並べてゆくと、一連のカルバ村での騒動へと繋がる道筋が、ぼくにもだんだんと見えてくる。

 少しの困惑を抱きながら、テラートの顔色を伺うように、
「じゃあ、やっぱりあの手紙はテラートが?」
珍しくぼく宛に届いた手紙について尋ねてみると、
「ええ。教授のお力がどうしても要りようだったので」
テラートはひとかけらの躊躇もなく、あっさりと応えてくれた。

「眠れる卵の不安定要素を調べ上げた教授が何もかも投げ出してイクミルの王宮へ戻ったのは有名な話です。
ロザイのオッドアイのところへ向かったのだと、学びの塔の誰もが口を揃えて噂してました。
だから私は、一か八かの賭けをしたのです。
あなたを駆り出せば、もしかすると教授が動くかもしれない、と。
そして実際、あなたは教授を引きずり込んだ……。
あの時は……、教授がカルバ村にいるのを知った時は、私自身が謀ったことだというのに本当に驚きました。
他人に対して安易に動く御方ではないと教授の気質は充分存していましたのでね。
先ほど私は『賭け』と言いましたが、実は諦め半分だったのですよ。
自分勝手で申し訳ないのですが、教授の助力を得られなかった場合はあなたにカルバ村のオッドアイになっていただいて、村の繁栄の力になってもらおうかとも、一方で私は考えていたのです」

「カリ・エラを救うために?」

 ぼくの問いに、テラートは強く頷いた。

「私には時間がなかった。塔に再び戻る前に妹のことを何とかしたかった。
あなたを急かすために適当に書いた言葉が、眠れる卵としてのあなたの寿命に一致したのは偶然です。
申し訳ありません。まさかここまで大事になるとは思いませんでした。
……でも、今は本当に感謝しています。たとえあの娘のためにはならなかったとしても……」

 細い糸ですら必死に掴んで、自ら進んで自由を手に入れたカリ・エラ。
彼女はそれほど村から出て行きたかったのだろうか。

 束縛とは、身を墜としてまでも自由を得たいと望むほど、苦痛なのだろうか。

 ぼくは少し哀しくなった。

「シン……。シンも、自由になりたい?」

 鮮血の誓いは最強の束縛を約束する。

──いつか、シンも自由に焦がれる日が来るのだろうか。

 憂いが顔に出てしまったのか、
「また変なこと考えてるんじゃないだろうな。オレは今のままで充分なんだから。
下手な小細工なんか考えるなよ?」
シンはぼくの頭に手を置くと髪をくしゃくしゃにわざと乱して、訝しげにぼくの顔を覗き込んだ。

──こんなふうに子供扱いされるのは好きじゃない。
けれど、シンの仕草にはいろんな想いが込められているから……。

 それに。

──シンに触れられるのは、嫌じゃない……。

 その後、ぼくはロザイ領に戻り、しばらく謹慎するよう父にきつく言い含められた。

 そして、雪解けの春がぼくを外へと誘うまで、ぼくはロザイ侯爵邸の敷地の中で平穏、かつ、賑やかな日々を過ごした。

 飽きる暇がないほど侯爵邸が賑やかになった理由のひとつはジェジェだが、もうひとつは銀の使徒スィヴィルが原因である。
やっぱり、と言うべきか、スィヴィルはしたり顔で当然のようにぼくについてきて、このロザイに居着いてしまったのだった。

 ぼくの周辺をうろついていれば、いずれ「月詠」に出会えるだろうから、というのが理由らしいが、最近それも少し疑わしい。

 なぜなら──。





「さあさ、殿下がお出でになりますよ。お久し振りのことですもの。ジェジェも一緒にお茶をいただきましょう」

 気さくな性格の侯爵夫人は、自ら、お茶の用意をする女性だった。

 ぼくの寝台のそばにテーブルを用意して、シンの到着を心待ちにしている。

──何だか母さまのほうが嬉しそうだ。

 扉はノックと同時に開かれた。
軽く息を弾ませて、シンが笑顔で入ってくる。
そのまま早足に寝台へと近付き、ジェジェや母がいる前だというのに羞恥や外聞もなく、シンはぼくの頬へ軽く唇を寄せて、ほのかに春風の香りを運んできた。

 寝台の端に腰を下ろすと、ぼくの頬を手のひらで摩りながら、
「具合はどうだ? 辛いのか?」
おおよそのことは知っているのか、シンが前置きもなく尋ねてきた。

「病気じゃないんだから大丈夫だよ。母さまたちが大袈裟なんだって。
それよりシン、よく塔を抜け出せたね。大神殿のほうもシンを拘束したがっているっ聞いたけど。いいの?」

 時の魔法陣などという難度の高い古代魔法を発動したものだから、いろんなところからますますお呼びがかかってしまう。

 学びの塔は教授職の継続を熱望し、大神殿からは神聖魔法の伝授を申し込まれていた。
王宮では王族としての外交などの公務が待ち受け、口ではいろいろ言いながらもシンは学びの塔と王宮を行き来しながら、それらをそつなくこなしていた。

「たまにはいいさ。一大事だからな」

 学びの塔、大神殿、元老院が三者三様に、あたかももぎ取るようにシンの予定を埋めてゆくのだとぼくはジェジェから聞いている。

 それほどに多忙な生活を余儀なくされているシンなのに、それらすべてを放り出して、王都から馬で飛ばしてロザイにわざわざやってきたのは、おそらく、また母あたりが知らせを送ったからだろう。

 実は数日前、ぼくの身体はひとつの変調を迎えていた。
女性化の兆しが訪れたのである。

 女性としての機能を諦めていたのはぼくだけではなかったので、事情を知る周囲の者たちはそれはそれは喜んでくれた。
だから、母がシンのところに急ぎの知らせを送った気持ちもわからないでもなかった。

「殿下、こちらでお茶でもいかが? 美味しい焼き菓子をどうぞ召し上がって。
特にこちらはトクベツなお菓子なのですよ。何と言っても、使徒さまがお焼きになられたのですから」
「使徒? まさか、スィヴィルがこれを?」

 シンがぼくに確認の眼差しを向けたのは言うまでもない。

 事実、ちょっと前までスィヴィルはお菓子作りに凝っていた。しかも今では本職顔負けの腕前である。

「確か、この間の手紙には舞踊に嵌まってるって書いてあったような……。今度は菓子作りなのか?」
「そんな安易なものじゃないよ。
温菜、冷菜に始まって、お菓子作りに至るまで……、うちの料理長がこれ以上教えることがないって感服してた。
だからかな、料理は一段落したからって今じゃ竪琴にどっぷり浸かっているよ。
歌も上手だしね。最近はよく『歌って踊れる吟遊詩人をめざす』って軽口叩いてるよ」

 シンは一瞬、天を仰ぐように頭を傾げると、
「想像出来ないな。あの、スィヴィルが、だろう?」
肩を竦めて、塔の長たちが知ったら卒倒ものだ、と微笑んだ。

「あの『伝説の銀の使徒』の印象を抱いたまま今のスィヴィルに会ったりしたら、誰だって腰抜かすかもしれないよ?
だって、今のスィヴィル、ジェジェの影響をかなり受けているもの。
とにかくすごいんだ。ありとあらゆるものを吸収しようとしているんだよ。
スィヴィルってもともと器用らしくて、そこそこに何でもこなしちゃうんだ。
ほら、あそこで練習をしてるの、見える?」

 三階のぼくの部屋の窓から、南庭の中ほどに五角形の日除けの屋根が覗けた。
茜さす照る陽(ひ)の民の印でもある五角形は古の神々の加護を示し、建築物などにも頻繁によく使われる形状だ。

 その五角形の屋根の憩い場の手摺に寄りかかって、笑顔で竪琴を爪弾く銀髪の青年の姿がある。
澄んだ声に重なり合うどこか懐かしい響きの弦の音。
遠く離れているのに、風精がその甘い歌声をわざわざぼくのところに運んで来た。

 スィヴィルは最近、神々の恋の唄を飽きもせず朝から晩まで練習している。
節に何度も強弱を付けて繰り返し、印象の違いを調べるのに余念がない。
ぼくが外出をする時、ジェジェと一緒に付いて来る以外は、ずっと竪琴を離さないでいる。

 そのスィヴィルがぼくやシンの視線に気付いた。
途端、幼い子が自分の存在を訴えるように大きく左右に手を振った。
そうして、南庭を一気に走り抜けて、わざわざ窓の真下までやってくる。

「シンか。久し振りだねえ。相変わらずいい男なんで安心したよ。ルティエ、惚れ直したんじゃないか?
いいねえ……。早く、このスィヴィルさんもあやかりたいよ、うん」

 頑張ってねーっ、と最後に笑顔で叫んで、自分の言いたいことだけ言って満足したのか、美貌の『歌って踊れる吟遊詩人見習い』は再び唄の稽古へと戻って行った。

「あいつ、えらく軽くなったな……」
「うん。スィヴィルさ、舞踊のほうもあの調子で練習してて、あのカサンドラ円舞曲まで習得したんだよ」

「あんな難曲、よくマスターしたなぁ。さすがにオレもそこまでは踊れないぞ」
「あれ、礼儀作法の域を超えてるものね。ぼくだって無理だよ。
でもスィヴィルは男性役だけじゃなく女性役まで踊れるんだ」

「本気で歌って踊れる吟遊詩人を目指してるようだな……」

 シンは顎に手をあて、感嘆ともとれる溜め息を大きく吐いた。

 そのシンの青い瞳が、部屋の端のジェジェを見つけて不気味に笑う。

「おっと、そこにいたのか、ジェジェ。おまえに訊きたいことがあったんだ。
おまえ、オレの本気を見てみたいかって誘われたんだってな?」

 何のことだろう、と話の内容が掴めきれないぼくと違って、ジェジェには思い当たるところがあるらしい。
ぎくり、と一瞬身体を固まらせて、視線の先をわざとらしく泳がせた。

 だが、相手はシンだ。

 すぐさま揉み手をしながら、
「よくご存じでぇ」
ジェジェは引きつった笑いをシンに向けて、
「さっすが殿下ですね〜」
わざとらしく明るく手を叩いた。

 とはいえ、まだ迷うところがあるらしく、
「あのぉ、やっぱ話さなきゃマズイ……ですかねえ」
しきりに、どうしようかなあ、と繰り返していた。
が、その呟きを切り裂くように、突然、壁に短剣が突き刺さった。
ジェジェの息がひぃっと喉の奥に吸い込まれたのは、外から放たれたそれが紙一重で肩を掠めたからだ。

 ところが、その短剣がぐにゃりと揺らいで鳥の姿に変化したものだから、ジェジェの引きつった顔が血の気を引いて、ますます恐怖に青くなる。

 鳥の目がキラリと光ってジェジェを射た。

「で、殿下ぁ……」

 縋るようなくぐもる声に興味なさそうに頭を振ると、鳥はコンコンと何度か壁を嘴でつついて、壁に這っていた小さな蜘蛛を飲み込んだ。
そして、喉を震わせながら甲高く鳴くと満足したのか窓の外に飛び立っていった。

 それはあっという間の出来事だった。

「わっ、わかりましたっ! お話ししますっ! 喋らせてくださいっ! お願いしますっ!」

 命の危険を身を持って知ったジェジェの反応は素早かった。

「あのですね。実は……。
一年前のことなんですが、、夜会の準備でみなさん忙しそうだったので、ワタシも王宮の厩の手伝いをしてたんです。
そしたらそこで、ある御方に偶然お会いしまして……」
「ある御方?」

「ええ。それで、つい世間話に花が咲いちゃったんです」
「その世間話とやらとオレの本気、どこをどうしたら繋がるのか。
そこんところを詳しく聞きたいものだな、ジェジェ?」

「だぁって、殿下はいつだって楽々とすんなり何でもこなしちゃうし。
そりゃあ、真剣に魔導に取り組んでたことはワタシだって知ってますぅ。
でも、殿下はいつも、どこか余裕で構えてて。
だからワタシの中で、こう……ムクムクっと湧き上がるものがあったんですよ。
あの『指の称号』の候補に挙がった時ですら他人事のように平然としちゃってさっ。
ワタシなんか初級さえ受からなかったのにぃ」
「オレにあたるな、そりゃおまえの偏った実力のせいだろが」

「これですもん。
だから、『殿下の本気になったところを見てみたいのだろう?』っていう、あの誘いに惹かれちゃったんじゃないですかっ」

 そして、ジェジェはちらりとぼくに視線を投げた。

「でもね、ホント。あそこまで追い詰められた殿下を見られるとはこれっぽっちも思っていませんでしたよ。
これはルティエさまの魅力を侮ったワタシのミスですねぇ」

 目を細めてぼくを見つめるジェジェの視線はとても温かかった。
だが、シンにとってはこれもまたおもしろくないことだったらしい。

「オレのホンキはそれはそれはすごかったろう? 何せ死にかけたからなぁ?」

 シンは口の端をにやりと吊り上げ、部屋に外にジェジェを連れ出した。

 そのあと、ぼくはしばらくジェジェの姿を見かけなかった。

 どこかに出掛けたのかな、と思っていたら、軽食を持ってきた侍女たちが何やら庭先で珍しいものを見たと話してくれたので、
「そんなに珍しいものなの?」
ぼくも身を乗り出して興味を持つと……。

「庭師や馬番が集まって騒いでいるので何事かと思って覗いてみたんです。
そしたら何と、ヘビとヒキガエルが必死に争っていたんですよっ!」

 彼女は、本当はヘビもヒキガエルも見るのさえ恐ろしく見るのも嫌いらしい。
特にヘビは彼女に限らずほとんどの侍女たちが苦手としているようで、いつもならそういう苦手な生き物を見つけたら遠回りして通り過ぎるところなのだが、その時ばかりはみんな集まり輪になって、てんやわんやの大騒ぎしていたので、つい自分も引きこまれて、最後まで勝負の行方を見届けてしまったのだと言う。

「だって、ただの天敵同士の戦いじゃなかったんです。
その二匹は壮絶って言っていいほどすごい攻撃を繰り広げていたんですよっ」

 まず、彼女たちの目を惹きつけたのは、二本の足で立つヒキガエルの姿だった。
ヒキガエルは地面に落ちていた竹串を手にすると、長刀を振るうようにヘビの目を狙って何度も突いた。

「そのヒキガエルがふらふらになりながらもヘビの両眼を潰して追い払ったんです。
まるで曲芸の一場面のように惚れ惚れとしたものでしたわ。思わず目を見開いて見入ってしまいましたもの」

 頬を赤く染めあげて、興奮冷めやらずの話し振りだった。

 だが、彼女の話には気になるところがあった。

──ヒキガエルが竹串を振り回してたって?

 ぼくの胸に疑問を残して去ってゆく侍女たち。
すると、まるで入れ替わるようにして、今度はジェジェが部屋にやってきた。

 ところが。

「どうしたの? その格好……」

 よれよれでぼくのところまで近付いてきたジェジェは見るも無残な満身創痍の哀れな姿で、腰や腕の部分の布が切り裂け、そこかしこを血で汚していた。
それらの無残な姿も痛々しく気になったが、何より、ぼくの視線は特に右手に握られた竹串に集中する。

「その様子だと剣士の情けで渡してやった竹串は、充分、役に立ったようだな」

 感謝しろよ、とシンがぼくの隣りで読んでいた本から目を離して、ジェジェに微笑むと、ジェジェはムッとして。

「竹串だけじゃなく、わざわざ天敵まで用意していただいたのには、ほんとぉーに感謝しますよっ!
殿下の御手を煩わしまして、どぉーも申し訳ありませんでしたっ」

 そうして、「極道魔術師、悪徳王子……」と小声で何やらぶつぶつぶつぶつぶつぶつ…………。

 懲りないというか、その根性を褒めるべきか。

 案の定、シンの琴線に触れてしまい──。

「イモムシになって鳥小屋へ放り投げられたいようだな、ジェジェ?
今度は竹串があっても手がなけりゃ使えまい?」

 ひえええええぇぇっ、と両頬を包み込んでに口を縦長に開けたジェジェ。
その情けない表情から、心の絶叫が今にも聞こえてきそうだった。

「ひらにひらに、ワタシの不逞、お許しくださいっ。これからは邪な想像などいたしませんっ。
これからワタシは殿下の下僕と成り果てますっ」

 相変わらず、ふたりの関係がどんなに複雑になろうとも、上下関係はいつの時も変わらないようだ。
今後も、ジェジェの堪忍袋の緒の頑丈さにただただ期待するしかないのかもしれない。

 このふたり、これで今までもうまくやって来たと言うのだから、本当にシンとジェジェの関係は奇怪である。

──それでもウマが合ってるんだからなぁ……。

 流浪のジェジェがイクミル王国に定住しようとしてる、それだけとっても彼の真意が読み取れた。

「それで? おまえを唆(そそのか)したあの御方ってのは誰なんだ?」

 無愛想な表情を崩さずに、シンが横柄な態度で質問をすると、途端、ジェジェは惚けたように、
「あの御方? あれっ、言ってませんでしたっけ? ロザイ侯ですよ」
すんなりと答えて、
「ワタシを護衛に駆り出すほど心配だったなんて。ホント、ルティエさま、みなさんに愛されてますねぇ」
にっこりと、よかったですね、と寝台の上のぼくに微笑んだ。

「…………え? ええぇっっ?」

 ぼくはまさかの人物の名に驚きを隠せなかった。

──父さまが? ぼくを心配して?

「つまり、ロザイ侯は、はなからオレとルティエのことなどお見通しだったというわけか」

 吐き出されたようなシンの台詞はぼやき混じりの不機嫌なそれ。
でも花がほころんだような笑顔では、どんな言いようも空振りに終わる。

 上級魔道を駆使する魔導師も、さずがに生理的発作を止めるのは難しかったようだ。

 シンは肩を震わして、
「さすが、侮れませんっ。ロザイ侯っ!」
笑い声に息を詰まらせながら、満悦の笑顔で床に沈んだ。

──父さま、感謝します……。

 十歳の時、ロザイ領に向かう馬車の中、ぼくはすごく塞ぎこんで、ずっと俯(うつむ)いていた。
でも、俯きながらも、だんだんと遠ざかってゆく王宮が、ぼくはずっと気になって仕方がなかった。

 もう二度とシンとは会えないのかもしれないと思うと胸が苦しくて苦しくて。

 でも、自分を睨むように見つめたシンの深い青の瞳が怖くて、ロザイに早く逃げたいとも思っていた。

 シンへの想いを断ち切りたいのか、何もかも忘れたいのか、どうしたらいいかわからないまま、あの日、ぼくはずっと下を向いていた。

 父はおそらく、現実から目を背けるなと言いたかったのかもしれない。

「肝が小さい者に、おまえは荷が重かろう」

 何気なく口にした父の言葉に、
「あなた、いい加減になさいませ。まだあちらさまも幼いお子さまでございますもの。
肝が小さくて当然ですわ」
涙を溜めたぼくを抱き締めながら、母が父を宥めた。

 母は常に穏やかな微笑みを絶やさない女性だったが、その時の母は違った。

「とはいえ、初めからわかっていたことでございましょうに、殿下にも困りましたわね」

 母は確かに微笑んでいたのだが、目には力が溢れていた。

「それでも二度目は許しません。ええ、許しませんとも。私もしっかり肝に銘じておきますわ」

 あなたもそれでよろしいですわね、と父の口を封じて微笑む母が、国王にさえ意見する元老院議長の父よりも、実は「上」なのだと、その時、子供心に悟ったものだった。

 それ以後の母はいつも通りの母だったので、あの時垣間見た母の凄みの微笑みのことはいつの間にか忘れていた。

 けれど、およそ五ヶ月前、シンに連れられてロザイの地に帰ったぼくをぎゅっと両腕で抱き締めた母が、
「殿下、尻尾を巻いて逃げるのであれば、今しかありませんことよ」
あの日の二の舞は御免蒙(こうむ)りますわ、と王国の王子を諌めるように唆(そそのか)した時、幼いあの日、馬車であからさまに嘲笑していた母の迫力をぼくは一気に思い出した。

 あの父さえ黙らせた母である。

 穏和でおとなしい母だが、理不尽なことははっきり口にするところは似たもの夫婦。
父と同種の気質を持っている母だった。

 ぼくはカルバ村から戻ってすぐのこと、その母を唯一の妻とするロザイ候の政務室に呼び出された。

 ぼくの脳裏に蘇る、厳粛な室内に響いた父の台詞。

「見つけたようだな」

 この言葉に込められた父の深い眼差しが、今になって理解できる──。

『夜会で伴侶を見つけなさい』

 一年前、父はぼくにそう言った。

 そして、ぼくはあの夜会初夜、確かに暗闇の中にひとりの男を見出(みい)だした。

 もしかしたら、シンとの再会は、あの夜よりもずっと前から決まっていたのかもしれない……。





 窓からそよぐロザイの風が春の彩りとぼくへと誘(いざな)い、見えずとも感じられるさまざまな愛情の深さに、幼い頃からずっとぼくを見守ってきてくれた多くの人たちの想いが重なって、ぼくは胸が苦しくなった。

 今、ぼくは深く深く感謝をしたい。

 ぼくがここに在ることを。
 ぼくがここで息衝いていることを。

 この世界に生み出し、育(はぐく)んでくれたすべてのものに感謝せずにいられない。

──ありがとう。ぼくはこれからも前を向いて生きてゆくよ。

 見上げれば、そこに、蒼月湖と同じ深い青の瞳。ぼくを包む温かい腕(かいな)。

 ぼくの心は、いつの間にか未来へと馳せていた──。

                                                         おしまい


*** あとがき ***

最後まで、お付き合いしていただき、ありがとうございます。

個人的には、ジェジェが好きです。
きっと、彼は、シンとルティエの仲を出歯亀するたびに、シンにイジメられるんだと思います。
それも、これでもかっていう方法で……(笑)。
うっ、可哀そうなジェジェ。

「スィヴィルさぁん、助けてぇ」と藁をも縋るジェジェに、
「お邪魔虫なんか知らないよん。スィヴィルさんは、早くふたりの子供が抱きたいんだもん」
冷たく突き放す銀の使徒スィヴィル。
こうしてスィヴィルは世渡り上手になっていくのでした。──なんて。

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