「パパ……」


 青みがかった月明かりの居間には、ソファでひざをかか

えたミトラが長い影をひいています。


 テーブルの上には二猫分のお茶のセットがすこし散らかっ

たまま、しーんと身動きせずにおかれていました。


 そのゆかいそうにかたむいたスプーンやおさらのようす

からは、このお茶会がとても楽しいものだったことがうかが

えます。


 ルーニャは、むすめの頭をそっと前足でなでてやりました。


 するとミトラはバネじかけの猫形のように飛び上がり、ルー

ニャのふかふかしたおなかの毛並みに顔をうずくめました。


「ごめんなさい、わたしパパとのやくそくをやぶってしまった

の」

 ミトラはわんわん泣いていいました。


「何があったかちゃんといってごらん。泣いてばかりではわ

からないよ」


「うん……あのね、パパ。今日わたしに、お客様がいらした

の」


 そうしてルーニャはむすめの横にこしかけ、その話すひ

とことひとことにていねいにあいづちをうちながら、しばら

くの時をすごしました。


「そうか、そうだったのか」


 ミトラが話し終えると、ルーニャはことさら大きくうなずい

て、にっこりと笑いました。


「それは……ちょっとだけよくなかったけど、しかたのない

ことだね。きっとパパだってミトラと同じ立場だったら、同じ

まちがいをしてしまったろう。うん、もう気にするのはやめ

なさい」


「でもドミニクおじさまやシニファンおじさまは、とても困っ

たことになるんでしょう」


「どうだろう。でもね、ないしょの話は、いつかかならず誰

かにわかってしまうものなんだ。それはある意味、宿命と

もいえるのさ」


「宿命?」


「かえられない運命のことだよ。だけどミトラ。今日はしか

たないけど、次からはしっかり秘密は守るんだよ。お友だ

ちとのないしょ話はとくにね」


「わかったわ、パパ」


 こうしてルーニャはもう一回ミトラの頭をなでると、鼻歌

を歌いながら台所に向かいました。


 そしてラミューシャからのおみやげのりっぱなウズラの

くんせいをこんがりと焼き、明るくした部屋の中で、ミトラ

とふたりたっぷりと時間をかけて夕食をとったのでした。