そのあともスープのおさらが空になり、窓の外を夕焼けが

だいだい色に染め上げるまで、三猫の話はやむことなくつづ

いていきました。


「じゃあ、ぼくはミトラが待っているから、そろそろ帰るよ」


 あざやかな夕焼けにはっとしたように、ルーニャは椅子から

立ち上がりました。


「ああ、わかった。これからおれたちもデート……って、もう店

をあける時間になっちまったな」


 ドミニクはうれしいのかそうでないのか、よくわからないふう

でいいます。


「じゃまして、ごめん」


「いいえ、楽しいひとときでしたわ」


 ラミューシャは、きっぱりと笑っていいました。


「ありがとう。ではまた、今度は音楽会で」


 ドミニクの全身からは、かたい決意のようなものがにじみで

ています。


 ルーニャもそれを、全身でしっかりと受け止めました。


「ああ、よろしくな」


 こうしてルーニャは、夕暮れ時の人ごみをトコトコと帰ってい

きました。


 しだいに濃くなっていく夕闇は、十三夜の月を深い紫の中に

ぽっかりと浮かび上がらせていきます。


 こうして、ルーニャが丘の頂上近くにある我が家にたどりつ

いたころには、月のななめ下に金星の輝きがダイヤモンドの

ように、きらびやかな光をはなっていたのでした。


 でももう、とっぷり陽は暮れ果てたというのに、ルーニャの家

の窓は暗く静まりかえっているのです。


「ただいま。ミトラ、いるのかい」


 ドアを開けると、暗い家の奥から小さなすすり泣きの声が聞

こえてきました。


 ルーニャはあわてて、明かりもつけずにろうかをかけていき

ます。


「ミトラ、おいミトラ、いったいどうしたんだい!」