「まあ! これは失礼いたしました。よくおいでくださいました、

ルーニャさん。いまテーブルと椅子と、それから舌平目のスー

プをお出ししますから。少々おまちください」


「あ、どうもすみません」


 ルーニャは不思議な気分になりました。


 ラミューシャは声にはまだまだ幼さを残しているのに、その

言葉づかいにはすこしも子猫じみたところがなく、むしろ老成

した大猫のようなつややかさといたわりに満ちていたからです。


「ああもう、手伝うから待ってろよ」


 軽くはないだろうテーブルを、華奢な体でひょいひょいと運ん

できたラミューシャの元へ、ドミニクはすぐさま駆け寄りました。


「どいてちょうだい。わたしどっかのひ弱なバイオリン弾きなん

かより、すっと力があるんだから。じゃまよ」


 たしかドミニクはすぐにとびついたものの、まるでテーブル

ごとラミューシャに引きずられているようにも見えます。


「あ、はい」


 そうして軽くあしらわれたドミニクは、いくぶんしょんぼりして、

でもうれしそうに、ルーニャのとなりにやってきました。


「やれやれ、いつもながらかわいげのないヤツだ」


「ニヤニヤしながらいわれても、説得力ないよ」


「うるさい」


 こうしてルーニャとドミニクと、そしてラミューシャの三匹は、

がらんとした店内でとびきりおいしい舌平目のスープを飲み

ながら、楽しげに話をはじめました。


「ほんとうはお客様には、ちゃんとお食事をしながら踊りや

バイオリンを楽しんでほしいんですけど。マナーの悪いほんの

すこしの猫のせいで、それができないんです」


 そういうラミューシャは、ちょっとだけ悲しそうでした。


「前はなあ、ものすごく強くてこわそうな用心棒がいて、そいつ

がにらむだけでお客はおとなしくなったもんだ」


「へえ、そんな猫がいたんだ」


 ルーニャはおいしそうにスープを飲み干したあと、興味深

そうにドミニクに聞きました。


「ああ。灰色の毛並みで、ふつうの猫よりふたまわりは大きく

て、でも物静かでいいヤツだった。たったひとつの欠点をの

ぞいてはね」


「それは、どんな?」


「あいつはとてもバイオリンが好きだったんだけど……腹の

立つことに、おれじゃなくってシニファンの大ファンでさ。うーん、

それだけが気にくわない」


「まあ、ドミニク。そのことなら欠点じゃなく『趣味がいい』って

いわなくちゃ」


「ちぇっ、ラミューシャめ。いいたい放題いいやがって」