7フィートハーシェル鏡の複製(8)


A・B両面合わせて15回も砂擂りと研磨という作業を繰り返し、2月はじめにどうにか外見のきれいな鏡が仕上がりました。

【写真1】
二面の金属鏡の研磨が終了した状況(2面を交互に研磨し、一面の研磨が終わると、他の面を前のものより良い面に仕上げ、前のものを再研磨してさらに良い面にするという方法をとりました。必ずしも良いものができるという保証が全くなかったので、結果的に15回の研磨がくり返されました。)

 今回の金属鏡は決して満足できる作品ではないのですが、村山先生からは「きれいな金属鏡だ」というご評価を頂き、昨年の「義経の弓」の汚名は返上したように思います。今の時点での最大限の努力の結果ですので、やむを得ません。3年前にW.ハーシェル家5代目の子孫のショーランド氏の家でハーシェルのオリジナル金属鏡を調査した時には、現在の技術ならこの程度の精度の鏡(ガラス鏡ならの話ですが)の研磨は楽勝と考えたのがそもそもの誤りでした。
 結果的に放物面鏡とはほど遠いものしか仕上がらず、どうしたことかハーシェルのオリジナル鏡と極めてよく似た光学面になりました。旧来の研磨法での特徴なのかも知れません。そう言う意味では、復元成功との評価が可能かとも思います。
 国友一貫斎の反射望遠鏡を学術調査し復元作業を行った京都大学や長浜市立長浜城歴史博物館等の報告を見ますと、従来の研磨法では金属鏡が磨けないという結論をだしております。したがって、私が数々の障壁にぶつかって悩むのは当然のことなのでしょう。
 2005年2月19日に拙宅「ひかり天体観測所」の25cm反射赤道儀に金属鏡を取り付けて観望会を開きました。当日は木村精二・山本健一両氏と工藤美智子さんの3名の方がお見えになりましたが、残念ながら曇天のため急遽コンパに切り替えてしまいました。観望会前の予備観望では、月面を180倍程度で見ると大変きれいに見えましたが、土星はコントラストが非常に悪くカシニの間隙が確認できません。従来の研磨法による限りこれ以上の研磨は非常に困難と考えざるをえません。
 2005年3月5日の英国ハーシェル協会年会に先立って、ハーシェル博物館で、タッブ氏へ渡辺女史からの「光害地球儀」の贈呈と、私からの「金属鏡」の贈呈が行われました。

【写真2】
ハーシェル博物館でのタッブ氏への贈呈セレモニー(写真の前景にになっている望遠鏡が、ハーシェルが天王星発見の時に使った思われる望遠鏡の精巧なレプリカでタッブ氏が作成しました。)
【写真3】
贈呈した金属鏡で撮影した月面のクレーター(180倍までの倍率は確保できました)

 

 昨年贈呈いたしました試作品(福村治雄氏鋳造)は、すでにタッブ氏作成の7ftハーシェル望遠鏡のレプリカに収納されておりました。今回の金属鏡は1週間以内に試作品と交換され、天体の観望を行う予定と伺いましたが、今回の作品の直径が昨年の試作品より2mm大きいため、タッブ氏は主鏡のセルを0.3mm削ることになったということです。
 昨('04)年の試作品は、ハーシェル博物館の階下に復元された「作業室」で展示されることになっています。「作業室」はW.ハーシェル当時の鋳造設備や研磨用具が復元されて公開されていますが、そこに展示されている金属鏡はアルミ製の軽々しいものです。これに替えて、本物の金属鏡の重量感を来館者に体感して頂ければと思い、私がそこでの展示を御願いしたものです。
 

日本ハーシェル協会ニューズレター第137号より転載


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