「七宝アトリエNだより」 2006年早春号 (抄)


飯沢能布子

「星と花の七宝展」2005 札幌で開催しました
  (9/27−10/2 さいとうGallery)

 秋晴れに恵まれ、たいへん多くのご来場で賑わった第24回札幌展を振り返ってみましょう。
 テーマは88星座のうち南天の星座と、花作品は聖書に縁のある植物の2本立てでした。それに今回が日本で最後の出展となった若き日のカロライン・ハーシェルの肖像「カロラインの絵皿」に親しみを込めた多くの共感が寄せられて、英国から届いたハーシェル関係お二人の祝辞と共に注目されました。宇宙の華をイメージした大作「銀河A、B」、「レオニズ」など天文のテーマ作品にも嘗てないほどの関心を持たれました。聖書や賛美歌に縁のある花たちの作品は、アトリエの庭や身近な所にも見られる植物ですが楽しんで頂けましたことを幸いに思います。

「カロラインの絵皿」について

  作品は、イギリスで活躍した女性天文学者のパイオニア、カロライン・ハーシェルの肖像を囲むように彼女の天文学上の業績や、兄ウィリアムと共にバースで成功した音楽活動などを取入れており、ほぼ一世紀を生きた女性天文学者カロラインの輝かしい生涯をテーマにしています。

 作者として思い入れの深いこの作品は札幌展の後、英国のハーシェル直系子孫シャーロット・ハーシェル夫人の手元に届けられ保存されます。

 

「レオニズ」 80周年記念道展出品

 2001年11月、日本の空で北海道長沼の上空でも一大ブレイクしたしし座流星群。英国の天文学者アッシャー博士の予報が的中したという歴史的で、震えるような(実際、凍てつく長沼の雪原に立ちつくしての観望でした)興奮の体験をした私は立て続けに連作に挑戦しました。作品はエメラルドと白のカーテンの舞うオーロラの中でレオニズの炸裂を見てみたい想いを表しています。上昇するしし座を囲むように、かに、おとめ、かみのけ、ろくぶんぎ、うみへびの各星座が描かれています。

 

祝辞「星と花の七宝展2005」、”飯沢ワールド”の魅力にふれて…
   (『月刊天文』リポーター ・ 青木 満)

七宝工芸作家・飯沢能布子さんとの出会いは、2002年7月に東京の世界観ギャラリーで開催された個展「星と花の七宝展2002」のときでした。天文誌『月刊天文』のリポーターを務める私に編集部より飯沢さんの七宝展の取材要請が入り、また、飯沢さん所属の日本ハーシェル協会事務局長・木村精二氏からも同様のご依頼が…。

 しかしながら、根っからの理系人間の私は工芸・芸術面にはいたく疎く、分からないことだらけ。そのような私が、生まれて初めてふれた七宝工芸が飯沢能布子さんの作品でした。ただし、その出会いはさらに数年前に遡るものだったのです。いまはなき五島プラネタリウムにおいて、英国初の女流天文学者カロライン・ハーシェルを題材にした七宝作品が展示室を飾ったことがありました。

 美しく、ファンタジックな飯沢さんの作品に一目惚れしたとは言え、それらがどのような工程を経て地上に輝くのか、予備知識が皆無だった私は一から飯沢さんのご教示を受け、気の遠くなるような細かな作業の連続に驚きを新たにするのでした。同時に、現行の88星座すべてを、さらには「幻の星座」や日・月食、巨大彗星や流星群、オーロラ等々、諸々の天文現象をも作品にしたい、との飯沢さんの意欲にはただただ驚くばかり。

 このように、もって生まれた抜群の感性で星の世界を七宝作品へと再現する飯沢さんですが、彼女が一つだけ困ったのが南天の星座たちでした。

南十字星(Crux)

 これらは日本など北半球の国々からはまったく見ることができない星座、一部分しか姿を現さない者たちで、北国・北海道で生まれ育った飯沢さんにとっても馴染みの薄いものばかり。しかもその大半は星々の配列など二の次ぎ三の次ぎ、粗製濫造的に創られた上、ロマンティックな星物語も存在しない無味乾燥な世界。

 このような南天星座の制作に手を焼かれた飯沢さん、まずはオーストラリアに遠征して南天星座との初顔合わせをしてインスピレーションを沸かすことに。続いて昨年5月には木村精二氏ご夫妻や星仲間と共に、私がかつて天文普及活動に汗を流したインドネシア・バリ島に旅し、南天星座との再会を果たすのでした。 

 間もなく88星座が完結しようとしているいま、その一部は既に国内外の友人の手に渡っているそうですが、願わくばそれらをいま一つ複製し、「飯沢能布子七宝美術館」を設立、いつでも飯沢ワールドにふれることができたならどんなに素晴らしいでしょう。それほどまでに、飯沢さんの星と花の七宝作品は人々の心を惹き付けて止みません。それは作者である飯沢さんご自身の魅力の表れでもありましょう。

 本展を通じ、一人でも多くの方に飯沢さんの七宝の魅力に、そして星の世界の魅力に共感していただければ、私にとってもこの上ない喜びであります。 (2005年9月吉日)
 
 〔管理人注:HP掲載にあたって、ご祝辞原文の一部を割愛させていただきましたことをお断りいたします。〕

  


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