『ビクトリア時代のアマチュア天文家』 各書評


 

「読売新聞」 2006年12月17日 書評欄より

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 国立天文台の渡部潤一助教授による書評。 全文は以下のサイトでご覧いただけます。
 ★よみうりオンライン http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20061218bk04.htm
 
 

「月刊天文ガイド」 2007年1月号 BOOK GUIDE 欄より

 「この本は、締め切り間際、編集部に届きました。全ページを読む時間はないので、全体の構成と少し読んだ感想などを織り交ぜてご紹介したいと思います。
 総ページ450ページのうち、本文は293ページ、3部15章に分かれ、100ページを超す註と文献が付いています。索引は人名と事項あわせて24ページあります。この数字を見ただけでもたいへんな労作であることがわかります。
 巻頭には著者の日本語版への序、著者前書、巻末には訳者あとがきとして日本ハーシェル協会代表幹事の木村精二さんと、訳者角田さんと協会の紹介があります。
 内容をご説明しましょう。第1部は「大アマチュアたち」という表題で、ロマン主義時代のアマチュア天文学や当時のジェントルマンの様子、遺産、持参金など、財力がものをいった研究、有名なジョン・ハーシェル卿と巨大反射望遠鏡の同志たち、新しい光の科学である分光学、写真術の出現といったこの時代のアマチュアたちの活躍ぶりが紹介してあります。
 第2部では、「貧困と無名と独学と:天文学と労働者階級」の表題です。貧しいけれども活動を続けていた労働者階級の天文家たち。
 第3部は「増大する有閑マニア」です。アマチュアの天文学協会結成の流行、そして女性天文家の出現が語られます。図版は80点掲載されています。
 やさしい文章でわかりやすく書いてあります。貴重な資料です。」
 

「金井三男のこだわり天文書評」より (AstroArts社、星ナビ.com 掲載)

 
プラネタリウム解説員の金井三夫氏による書評。
 「目を見張るすばらしい研究内容であり、著者のライフワークである。天文学史研究者および愛好者必読の本。もちろん、本文300ページ弱、注釈100ページを超え(!)、索引付きで読み応えは十分すぎるほどある。」

 ★全文はこちらから 
  http://www.astroarts.co.jp/hoshinavi/magazine/books/kodawari/kodawari1-j.shtml

 

「天文月報」 第100巻・第10号(2007年10月号) 書評欄より 

 立教大学の矢治健太郎氏による書評。読み物お薦め度は「☆☆☆☆☆」を頂戴しました。

 「日本の天文学におけるアマチュア天文家の活躍は改めて言うまでもない。超新星や小惑星の発見から、変光星や太陽黒点の観測など長期的観測に至るまで、その貢献は多岐にわたる。それはイギリスにおいても同様である。本書はイギリスのビクトリア時代と呼ばれる一時代に活躍したアマチュア天文家たちをクローズアップした一冊である。読後感としては、有名無名のさまざまな人物が登場するため、以前に出版された斉田博氏の「おはなし天文学」(地人書館)を彷彿させるものがある。登場する人物の名前を紹介するだけで、この書評が終わってしまうほどである。

 本書のキーワードとして「グランドアマチュア」を挙げることができる。当時、イギリスでは、王立天文台がすでに存在し、国より俸給を受けているという意味で、プロの天文家も存在していたわけだが、私設天文台を有するアマチュア天文家も多数存在していた。彼らは財産家であったり醸造所を所有していたりと、裕福なジェントルマンであり、その財力を利用して大口径の望遠鏡を所有し、さまざまな観測を行った。ウィリアム・パーソンズやウィリアム・ラッセルがそれに当たり、著者は彼らを総称してグランドアマチュア(お大尽)と呼んだわけである。あのジョン・ハーシェルでさえもグランドアマチュアの一人という位置づけである。だが、グランドアマチュアたちは、天体観測を単なる娯楽にとどまらず、さまざまな観測的成果を上げて、当時のイギリスの天文学に大きく貢献した。

 また、同時に裕福なグランドアマチュアだけでなく、一般市民や労働者階級らの活躍も丁寧に拾い出している。彼らは、鍛冶屋であったり、鉄道の駅長だったりと職業はさまざまであるが、その傍ら天文の知識を獲得し、仕事の合間に観測を行い、職場で観望会を行ったものもいた。著者は彼らを「貧しく、名もなき、独学の人々」と称しているが、このような人々は当時もっと存在していたに違いない。著者は彼らの存在を膨大な資料から丁寧に引き出し、当時のイギリスの天文学を支えたと評価している。駅長が本職のロジャー・ランドンに至っては、Monthly Notice に金星に関する論文を発表している。また、一般向けの天文学講座なんかもあちこちで活発に行われたらしく、「1回覗けば1ペニー」とあるように、世界で初めての有料観望会?と思われるような記述もあり、当時の天文事情がいろいろとうかがえる。このあたりは、巻末の100ページ近い註と文献リストにも注目されたい。

 19世紀後半のリーズやリバプールの天文協会の設立の記述も興味深い。この天文協会設立の資料や当時の会員名簿から、女性のプロの研究者の始まりを見いだしている。女性天文学者というとカロライン・ハーシェルがよく知られるが、そのほかにも国外で精力的に日食観測を行ったエリザベス・ブラウンなど初めて目にする名前が登場する。彼女らは、観測家だけでなく、著述家や教師という立場で天文学にかかわっていたと紹介している。

 なお、本書の舞台がイギリスということもあり、文中の望遠鏡の口径の単位がインチ・フィートに統一されている。そのため、あらかじめ単位の換算を把握していなければ望遠鏡の大きさなどが直感的にわかりにくい。また、図版が豊富なのが魅力的で、望遠鏡のイラストや写真、天文家の肖像画から当時の事情をうかがい知る大きな助けになっている。ただし、これらの図版が1カ所に集中する形で掲載されているのがもったいない。可能なら、関連する記述と同じページに載せてほしかった。

 著者のアラン・チャップマン博士は、現在オックスフォード大学の現代史学部で教鞭を取る傍ら、英国のハーシェル協会の名誉副会長も務めている。本書は膨大な資料をまとめた労作となっている。文字どおり、ビクトリア時代の天文家たちの活躍、天文事情を詳しく知ることができる読み物としても資料としても非常に価値が高い一冊といえる。ぜひとも一読を勧めるものである。 」

 


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