ジェームズ・マラニー著
『ハーシェル天体ウォッチング』の発刊について


角 田 玉 青

この度ハーシェルに関連する拙訳の本が、地人書館から出版されました。

  ハーシェル天体ウォッチング

ジェームズ マラニー (著)
角田 玉青 (訳)

地人書館、 246ページ

●出版社による本の紹介ページ
http://www.chijinshokan.co.jp/Books/ISBN978-4-8052-0813-7.htm

 


 この本の翻訳を思い立ったのは、昨年(2008年)の春です。いつものように、ぼんやりとネットで新刊書を検索していたら、Herschel を冠した観測ガイドが、最近2冊立て続けに出ているのに気付きました。

 1つは2007年6月に出た、スティーブ・オメーラの "Steve O'Meara's Herschel 400 Observing Guide"(Cambridge University Press) 、そしてもう1つが、同年8月に出たジェームズ・マラニー著 "The Herschel Objects and How to Observe Them" (Springer)です。

 さっそく取り寄せて見ると、いずれも、ウィリアム・ハーシェルが発見した深宇宙天体(星雲、星団、銀河)を、主に眼視によって観望しようという趣旨の本で、どうやら海の向こうでは、メシエ・マラソンを卒業した、文字通りディープな深宇宙ファンが、新たな観望対象としてハーシェル天体に狙いを付けているらしいということが分かってきました。

 今の時代に堂々と眼視の魅力を説くというのも、実に新鮮ですし、何よりも天文ファンのコア層に、ハーシェルに対する関心を持ってもらうことが、当協会の振興につながるのではないか…という期待もあって 、翻訳に挑戦することにしました。

 上記の2冊の本のうち、マラニー氏の本には、観測のハウツーばかりでなく、ハーシェルその人の簡潔な伝記や、詳細な書誌が付いているため、ハーシェルを知ってもらう足掛かりとしては絶好の本と思い、まずはこちらにとりかかったのですが、訳すに従いマラニー氏の熱い思いが伝わってきて、翻訳の苦労をあまり―あくまでも、“あまり”ですが―感じることなく訳了することができました。

 以下、内容紹介を兼ねて、訳者あとがきから一部転載します。興味を持たれた方は、ぜひ手にとってご一読いただければ幸いです。

 本書は、James Mullaney 著、The Herschel Objects and How to Observe Them(Springer, 2007) の全訳である。

 内容は、ご覧の通り5〜36センチ級の機材で楽しめるハーシェル天体のガイドブックであり、主にメシエ天体を一通り眺めた中〜上級の天文ファンを念頭において書かれている。ハーシェル天体という対象の目新しさもさることながら、本書の大きな特徴は、著者が徹底的に眼視の魅力にこだわった点だろう。

 天文ファンの中には、かつて初めて深宇宙天体に望遠鏡を向けたとき、期待したような「渦巻く大銀河」は影も形もなくて、がっかりした経験をお持ちの方も少なくないと思う。しかし、天体の姿を、たとえかすかな光のしみとしてであれ、自分の目で見ることの意義をマラニー氏は力説してやまない。

 近年のアマチュア天文界は、自動導入、デジタル撮像、そして高度な画像処理等、デジタル化の進展が著しい。確かにそうした技術によって、「渦巻く大銀河」が手軽に楽しめるようになったのは、深宇宙ファンにとって大きな福音であることは間違いない。そうしたデジタル技術のメリットも熟知した上で、著者があえて眼視にこだわったのは、1つにはウィリアム・ハーシェルという、現代天文学の偉大な父を追体験する喜びを、そしてまた光子(フォトン)を介して何千万光年も離れた遠くの天体と、(比喩的な意味ではなく)じかに触れ合うことの素晴らしさを人々に伝えたいという、「天界の使徒」としての熱い思いからである。全身で宇宙と向き合う喜びを思い起こして、多くの天文ファンに、ぜひ今一度眼視に挑戦していただければと思う。何しろ、見ようと思えば「かすかな光のしみ」以上のものを見ることができる、大型機材も今や十分身近な存在なのだから。

 〔…中略…〕

 なお、本書を読まれてハーシェルに興味を持たれた方は、訳者も参加している「日本ハーシェル協会」のサイト(http://www.ne.jp/asahi/mononoke/ttnd/herschel/)を一度ご覧いただきたい。本書の刊行によって、ハーシェルファンが1人でも増え、さらに日本で新たにハーシェルクラブが誕生するきっかけともなれば、訳者としては望外の幸せである。


協会と協会員の活動トップにもどる

日本ハーシェル協会ホームページ