(注)以下は2012年に日本ハーシェル協会が主催したイベント、「ハーシェルの天体を見よう2012」の特設ページのコピーです。
協会の活動記録として、体裁 はほぼ原状のままとしてあります。データ等はすべて2012年現在のものであることにご留意ください。
なお、本イベントの運営および特設ページの作成は、上原貞治会員のご尽力によるものです。(by 管理人)
歴史上もっとも名高い天体観測家の一人であるウィリアム・ハーシェル(1738-1822) は、宇宙全体がどのようになっているか詳しく知ろうとして、空じゅうの天体を観測しました。 そうして、ハーシェルは、現代の科学者が今も研究を進めている宇宙の姿の解明に向けて大きな一歩を踏み出しました。
ハーシェルが発見した天体や、ハーシェルが驚きとともに観察した天体を、あなたも双眼鏡や望遠鏡で観察してみませんか!
今年、2012年に、次の5つの天体を見てみましょう。どれも肉眼で見るのは少し難しいですが、口径が6cm〜10cm くらいの天体望遠 鏡があれば見ることができます。また、口径2cm以上の双眼鏡で見えるものも含まれています。これらの天体を夜空に捜すのもそんなに難しくはないでしょ
う。 もし、あなたが月や惑星や明るいM天体(メシエ天体)を双眼鏡や望遠鏡で見たことがあるならば、もう一歩踏み込んで、ハーシェルが観測した天体にも目を向けてみませんか?
1. 天王星[第I期、第II期]
2. ハーシェル天体H VII-2(いっかくじゅう座 散開星団 NGC2244)[第I期]
3. ハーシェル天体H V-24(かみのけ座 銀河 NGC4565)[第I期]
4. ハーシェルのガーネットスター(ケフェウス座μ星)[第II期]
5. ハーシェル天体H V-1(ちょうこくしつ座 銀河 NGC253) [第II期]
こ の「ハー シェルの天体を見よう2012」キャンペーンは、2012年2月〜5月(第I期)と8月〜11月(第II期)
の2期に分けて行いま す。
これらの天体を観察をされた方は、感想やレポートを日本ハーシェル協会の掲示板までお寄せ下さい。
もちろん、全部の天体でなくても、一つでも二つでもかまいません。
ハーシェルの天体を見よう 2012
第I期(2012年2月〜5月)の天体ガイド
1. 天王星 ― 金星との接近(2月8〜12日) ―
天王星 は、人類史上初めて「夜空に発見された惑星」です。水星、金星、地球、火星、木星、土星の6惑星は、いずれも古くから存在が知られていて、コペルニクスや
ケプラーなど天文学者の研究によってその正しい軌道のかたちがつきとめられました。
1781年、 ウィリアム・ハーシェルは、望遠鏡で星を見ていて、この天体(天王星)に気づきました。それが、普通の恒星のような点ではなく、大きさを持った円板状に見
えたからです。彼は、最初はこの星を彗星だと考えましたが(そのころ、新しい彗星の出現はしばしば報告されていましたが、新しい惑星 の報告はまったくありませんでしたので)、軌道を調べていくうちに、それが土星の外側を回る新たな惑星であることがはっきりしまし
た。
天王星は、双眼鏡や小さな望遠鏡で見ると6等星の恒星のように見えます。でも、恒星ではなかなか見られない青緑色をしていること、100倍くらいの倍率で見ると直径をもった円板状に見えること、何 晩かのちに見ると背景の星空に対して移動していること、などから恒星と区別することができます。
夜空に6等星は何千とありますし、2012年は、天王星 は、目立つ星が少ないところにいます。ですから、天王星が他の天体と近づいて見つけやすくなった時に、天王星を見つけてみましょう。
幸運なことに、2月10日に金星が天王星のすぐ近くを通り 過ぎます。もちろん、これは、見かけ上近くを通り過ぎるだけです。実際は天王星は金星の20倍も遠くにあります。その前後を含めて2月8日〜12日の5日間のうちいずれかの夕方に天王星を見ましょう。このとき、金星は、宵の明
星として夕方の西空に輝いています。まず、金星に目を向け、あとは、ガイド図をたよりに天王星を捜してみて下さい。図の白い棒のス ケール「0.5度」は、ほぼ月の見かけの直径の大きさで す。(双眼鏡や望遠鏡で月がどのくらいの大きさに見えるか、あらかじめ知っておくと便利です)
これで、あなたも太陽系第7の惑星を比較的簡単に見つけることができるでしょう。
↑ 2012年2月8〜12日 の金星と天王星の動きの図
← 望遠鏡で撮った天王星の写真
2. ハーシェル天体H VII-2(いっかく じゅう座 散開星団 NGC2244)(2 月〜3月)
夜 空に恒星と は違うちょっと変わった姿を見せている星雲や星団のうち、明るいものの多くは、彗星捜索家メシエ(1734-1817)によってメシエ天体としてまとめられ、リスト が出されました。 ウィリアム・ハーシェルは、メシエに少し遅れて、やはり星雲や星団の探索を始め、メシエが見逃した天体を中心に、「ハーシェル天体カタログ」を作りまし
た。ですから、メシエのM番号がついていないハーシェル天 体はメシエ天体 ほど見やすくないのが普通なのですが、中にはメシエさんのどういう「ミス」によるものか、けっこう見栄えのする天体も含まれています。
ハーシェル天体H VII-2 (現在では、通常NGC2244という名で知られていますので、ここでもNGC番号で呼ぶことにしましょう。ハーシェルさん、ごめんなさ い。)は、いっかくじゅう座にある散開星団で、十数個の星が緩くかたまっています。いっかくじゅう座はあまり有名な星座ではありませ
んが、オリオン座のすぐ東隣り、つまり超有名な 「冬の大三角形」の中にその主要な部分があります。このNGC2244も
冬の大 三角形の中にあります。ガイド図を参考に、オリオンの両肩の星(ベテルギウスとベラトリックス)との位置関係から、双眼鏡か望遠鏡で、4等星のいっかく じゅう座ε(イプシロン)星をみつけ、その少し東を見ると、この星団を見つけることができるでしょう。
実は、NGC2244は、写真に撮ると赤いバラが咲いたよ うに写ることで有名な 「ばら星雲」の中心にあります。しかし、双眼鏡や望遠鏡では、ばら星雲の姿は暗くてなかなか見えません。ハーシェルも星雲は見逃したらしく、このハーシェ
ル天体の番号は、星団に対してつけられたものです。ここでは、星団の星の並びを鑑賞して下さい。長方形っぽいかたちをしています。
↑ NGC2244のガイド図
↑ オリオンの上半身から NGC2244へ
↑ NGC2244のクローズアップ
3. ハーシェル天体H V-24(かみのけ座 銀河 NGC4565)(3月〜5月)
「銀 河」というのは、私たちのいる銀河系の外にある「別の銀河系」のことです。かつては、「小宇宙」とも呼ばれていましたが、今は「銀
河」という呼び方に統一されているようです。 銀河系の外、それもはるか遠くにあるのですから、銀河の多くは、とても遠い天体ということになります。 メシエは明るい銀河の多くを見つけてしまったので、メシエ番号がついていないハーシェル天体の銀河は、そのほとんどが暗いものです。
ハーシェル天体H V-24 すなわち NGC4565は明るさから言うとそれほどでもありませんが、
「見た目がカッコいい」と言う点ではずば抜けています。もちろん、アンドロメダ銀河(M31)や回転花火銀河 (M101) など、かっこいい銀河は他にもありますが、メシエ番号がついていない渦巻銀河で、NGC4565ほどその特徴的な姿がよく知られている銀河はないでしょう。といって
も、NGC4565の 「渦巻き」は私たちからは見えません... 「私たちの銀河系を真横から見たら...」という例として良く挙げられるのが、このNGC4565です。はい、団子1個を串に刺したようなかたちに見 えるのです。
この天体はやや暗いので、空の状態の良いところで、6cm以 上、できれば、8cm以上の望遠鏡の低倍率(40倍くらい)で捜してみて下さい。場所は、春の星座、おとめ座の 上にあるかみのけ座の星が集まっているあたり(Mel 111と 呼ばれている星団です)の近くにあります。Mel 111を
構成するかみのけ座12番星と17番 星を目印にすると捜しやすいでしょう。望遠鏡では、淡い針の
ような棒状に見えます。 見えづらいかもしれませんが、もし見えたら、あなたは、4000万〜5000万年もかかって宇宙を旅してきた光を見ていることになるの です。こんな「古い光」はなかなか見られませんよ!
かみのけ座には銀河団と言って銀河が集中している場所がありますが、NGC4565は そこからはかなりはずれていて、近くに紛らわしい天体はありません。
↑ NGC4565のガイド図
↑ 望遠レンズで撮った Mel 111の一部
と NGC4565
ハーシェルの天体を見よう 2012
第II期(2012年8月〜11月)の天体ガイド
1.ハーシェルのガーネットスター(ケフェウス座μ星)(8 月〜11月)
「ハーシェルのガーネットスター」はケフェウス座にある恒星です。ウィリアム・ハーシェルは、この星が「とてもすばらしい深いガーネット色」("a very fine deep garnet colour")をしていると1783年に出した論文の中で記述しました。彼は、長い間に明るさを変える星を探索していて、この星にたどりつきました。そして、
この星はのちの人によって「ハーシェルのガーネットスター」、あるいは単に「ガーネットスター」と呼ばれるようになりました。1848年
にハーシェルの予想通り変光星であったことが確認され、今日では、その変光範囲は 3.43 - 5.1等とされています。
ケフェウス座の五角形を「家」のかたちにたとえますと、ガーネットスターはその「床下」にあります。 デネブに近い側、というとわかりやすいかもしれません(ガイド図)。日本の中ほどの緯度では、かろうじて周極星になります。たいていの場合、4等星の明るさで見えています。
さて、問題の色ですが、これは各人の目で確認していただくしかありません。ハーシェルの言ったように深い色をしていますが、深紅やオレンジ色ではなく茶系統の色のようにも感じられます。小さな機器でよろしいので、ぜひ双眼鏡か望遠鏡でじっくりと観察して下さい。また、同時に、この星が太陽の1000倍 くらいの直径を持った巨大な星であることを想像されるとよいかもしれません。写真では、多少ピントをはずして撮影して色を見るという方法もあります。
↑ ハーシェルのガーネットスターのガイド図 ↑ ガーネットスター付近のケフェウス座の写真
2. 天王星 ― うお座44番星との接近(9月中旬〜10月上旬 ) ―
天王星は、人類史上初めて「夜空に発見された惑星」です。1781年、 ウィリアム・ハーシェルは、望遠鏡で星を見ていて、この天体(天王星)に気づきました。それが、普通の恒星のような点ではなく、大きさを持った円板状に見
えたからです。彼は、最初はこの星を彗星だと考えましたが、軌道を調べていくうちに、それが土星の外側を回る新たな惑星であ ることがはっきりしました。 天王星は、双眼鏡や小さな望遠鏡で見ると6等星の恒星のように見えます。でも、恒星ではなかなか見られない青緑色をしていること、100倍くらいの倍率で見ると直径をもった円板状に見えること、何晩かのちに見ると背景の星空に対して移動していること、などから恒星と区別することができます。
天王星は今年2月に金星に見かけ上近づきました(第I期の天体ガイド)が、今回は自分とちょうど同じくらいの明るさに見える恒星「うお座44番星」
(5.8等)に近づきます。つまり、双眼鏡や望遠鏡のファインダーで見ると同じくらいの明るさの星が2つ並んでいて一方が天王星というわけです。天王星は恒星のあいだを動いていきます。下の図にあるように9月23日以前は東にあるのが天王星、以後は西にあるのが天王星です。これを憶えておかなくても色で区別がつくかもしれません(うお座44番星は黄色い星です)。なお、最接近の前後数日間における2星の間隔は、2月の金星の時より1桁くらい小さいと思って下さい。と
くに、9月23日には相当近づきます (1' 以内)ので、双眼鏡では2つの星に分離しづらいかもしれません。
↑ 望遠鏡で撮った天王星の写真 ↑ うお座44番星の位置(長方形が下の左図の範囲に対応)
↑ 天王星の動き(左:2012年9月11日〜10月6日; 右:9月20〜26日の拡大図(毎晩21時 の位置))
3. ハーシェル天体 H V-1(ちょうこくしつ座 銀河 NGC253) (10月〜11月)
夜空に恒星とは違うちょっと変わった姿を見せている星雲や星団のうち、明るいものの多くは、彗星捜索家メシエ(1734-1817) によってメシエ天体としてまとめられ、リストが出されました。 ウィリアム・ハーシェルは、メシエに少し遅れて、やはり星雲や星団の探索を始め、メシエが見逃した天体を中心に、「ハーシェル天体カタログ」を作りました。ですから、メシエのM番号がついていないハーシェル天体はメシエ天体ほど見やすくないのが普通なのですが、中にはメシエさんのどういう「ミス」によるものか、けっこう見栄えのする天体も含まれています。ハーシェル天体 H V-1(NGC253)は、ちょうこくしつ座にあるかなり大きい銀河です。これは、ウィリアムの妹、カロライン・ハーシェル(1750-1848)によって1783年に発見されました。
ちょうこくしつ座はぜんぜん有名でない星座です。むしろ、NGC253のおかげで多少なりとも知られているといえるかもしれません。しかし、 NGC253を探すのにちょうこくしつ座を見つける必要はありません。下のガイド図のようにくじら座のしっぽにあたるβ星「デネブカイトス」から探すほうがずっと便利です。デネブカイトスの下に6つの5〜6等星が縦に伸びた Z字型に 並んでいるのをたどると比較的簡単に見つけることができるでしょう。同じ秋空のアンドロメダ銀河には及びませんが、春空の明るい銀河M81、M51、 M104などに匹敵するクラスの見栄えです。南の空がよく晴れた夜に口径6〜10cmくらいの望遠鏡で見てみてください。
この明るい銀河をなぜメシエが見逃したかですが、それは緯度の高いヨーロッパでは南天にかなり低いためでしょう。さらに緯度の高い英国でこれを見逃さなかったカロライン、メシエに負けない名観測家として讃えたいと思います。
↑ NGC253のガイド図
↑ 望遠レンズで撮ったNGC253(楕円内)付近の写真
参考:
「ステラナビゲータ9」(パソコンソフトウェア、アストロアーツ)
「天文年鑑2012」(誠文堂新光社)
「ハーシェル天体ウォッチング」 ジェームズ・マラニー著、角田玉青 訳 (地人書館)
「全天 星雲星団ガイドブック」 藤井旭著(誠文堂新光社)
Last Updated: August 20, 2012
(C) 日本ハーシェル協会 2012;
写真(C) S. Uehara